<円安基調>「金利差」より「国力低下」が主因?=食料自給率も日本の弱み

長田浩一    2022年11月13日(日) 7時0分

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外国為替市場では歴史的な円安が続いている。足元では米インフレ率の低下で円高方向に戻しているが、年初に同115円台だったことを考えると、円安基調に変わりはない。

外国為替市場では、今年に入って歴史的な円安が続いている。10月には一時32年ぶりに1ドル=150円台まで下落した。足元では米インフレ率の低下で円高方向に戻しているが、年初に同115円台だったことを考えると、円安基調に変わりはない。円安の要因として、日米の金利差(金融政策の方向性の違い)を挙げる向きが多いが、それと同様に、あるいはそれ以上に、日本の国力の低下が響いているとの見方が出ている。そうだとすれば、

今回の円安傾向は一過性ではなく、長く続く可能性が大きい。

◆元財務官の勇気ある提言

いささか旧聞に属するが、10月27日付朝日新聞に掲載された円安に関する渡辺博史元財務官のインタビューは、非常に説得力のある内容だった。お読みになった方もいると思うが、要旨は以下の通り。

▽今の円安は、半分以上が日本の国力に対する市場の評価が落ちてきたことが要因。日本企業や産業技術の権威がなくなり、貿易収支は赤字化して経常収支の黒字も縮小している

▽政府は円買い介入を行ったが、一方向に為替が動くと皆が思っているときに介入しても、砂漠に水をまくようなものだ

▽政府は物価高対策として、ガソリン補助金に続き電気やガスの価格抑制を検討しているが、問題が大きい。国際市況が上がっているのだから、国民に我慢をお願いしないといけない。本当に困っている人以外にも利益が及ぶ政策を取れば、危機感が薄れ、構造転換もできない

岸田文雄首相が取り組むべきは近視眼的なその場しのぎではなく、国力を高めるための政策だ。また、円安でもうけた企業は給料を引き上げてほしい

識者の多くは、日米の金利差に円安の要因を求めているが、渡辺氏は日本の国力低下こそ主因であり、それを踏まえた対策が必要と説く。かつて政府の国際金融政策の責任者だった人物の勇気ある提言と言える。そして、国力低下が主因だとすれば、円安傾向は一時的なものではないだろう。

◆公的債務のGDP比率、G7で最悪

では、国力の低下は具体的にどういう形で現れているのか。渡辺氏が指摘した産業競争力の低下と国際収支の悪化のほか、エネルギーの海外依存、少子化に伴う人口減少と高齢化、財政赤字の拡大などが挙げられる。このうちエネルギーの海外依存は今に始まったことではないが、最近の原油・天然ガス価格の高騰で、これまで以上に日本経済の弱点になっている。財政赤字については、現代貨幣理論(MMT)の論者らは心配不要と主張するが、国内総生産(GDP)に対する公的債務の比率が250%を超え、主要7カ国(G7)中最悪の現状は、マーケットではマイナス要因とみられるだろう。

私は、これに食料自給率の低下も加えたい。農林水産省によると、日本のカロリーベースの食料自給率は2021年度で38%と、G7で断トツの最下位(日本の次に低いのはイタリアの58%)。輸入に多くを依存しているので、それだけ円安や、ウクライナ戦争に伴う穀物価格の高騰の影響を受けやすくなっている。ただ、日本の自給率は昔からこんなに低かったわけではない。1965年には73%と、現在の英国(70%)を上回っていた。それが、半世紀余りの間に半分近くに低下したことになる。背景には日本人の食生活の変化(食の欧風化)があるとはいえ、あまりの落ち込みに暗然とするばかりだ。農政は何をやってきたのだろうか。

それにしても、食料自給率はもちろん、産業競争力や少子化、財政赤字は、長期的視点に立った政策を適切に実行していれば、現状よりは良い状況を維持することは十分可能だったはずだ。政府の怠慢と近視眼的な対応が、現在の国力低下を招いたと言ったら、酷にすぎるだろうか。

◆市場はオーバーシュートする

そうした中、政府は10月下旬、民間支出などを含む事業規模71兆円、財政支出39兆円の総合経済対策を決定した。ガソリン補助金の延長など物価上昇の影響を和らげる措置が中心で、渡辺氏の提言とは正反対の内容。これに伴い、第2次補正予算案で国債を22.8兆円追加発行するという。第1次補正段階で今年度末の国債発行残高は1029兆円に達する見通しだったが、この分がさらに上乗せされる。

このニュースに接し、多くの人が最近の英国の出来事と重ね合わせたことだろう。短命に終わったトラス前政権は、電気・ガス料金の高騰を抑えるために国債増発に頼った経済対策を発表したが、これがマーケットに財政再建の放棄と受け取られ、国債や通貨ポンドが急落。政権の崩壊につながった。

幸か不幸か、日本では総合経済対策で国債の増発が伝えられても、英国のようなマーケットの混乱は起きていない。日本国債は海外投資家の保有割合が低く、また縮小したとはいえまがりなりにも経常黒字を維持していることが大きいという。

だからと言って安心はできない。英国の例を見ても分かる通り、「マーケットは時としてオーバーシュートする」からだ。何らかの事情で日本の国力の低下、とりわけ財政状態にマーケットの関心が集中すれば、これまで以上の円安と、国債相場の急落を招きかねない。

そうした事態を招来させないためには、まず節度ある財政政策によりマーケットの信頼を保つ必要がある。その上で、渡辺氏の提言のように、長期的に国力を高める政策を打ち出すことが望まれる。

■筆者プロフィール:長田浩一

1979年時事通信社入社。チューリヒ、フランクフルト特派員、経済部長などを歴任。現在は文章を寄稿したり、地元自治体の市民大学で講師を務めたりの毎日。趣味はサッカー観戦、60歳で始めたジャズピアノ。中国との縁は深くはないが、初めて足を踏み入れた外国の地は北京空港でした。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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