東南アジアのうち陸地部分はよく、インドシナ半島と呼ばれる。この半島にあるのはタイ、ミャンマー、ベトナム、ラオス、カンボジアの5カ国だ。同じインドシナ半島にあっても、この5カ国の文化はかなり大きく異なる。これまでカンボジアについては、インド文化の影響を強く受けたことが強調される傾向があった。しかし、北京外国語大学アジア学院副院長で、カンボジア研究センターの主任を務める顧佳贇准教授は、カンボジアはむしろ、さまざまな文化文明が出会い、融合した地と認識すべきだと主張する。以下は、中国メディアの中国新聞社の取材に応じた、顧准教授の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

■カンボジアには、インドだけでなく中国とも深い結びつきがあった

西洋の研究者はよく、古代カンボジアはインド文化の影響を強く受けた典型的な国家だったと言う。しかし、その主張は一面的だ。カンボジアは中華文明の影響も強く受けてきた。原因の一つは中国との交易が多かったことだ。中国の王朝の中でカンボジアとの交易が特に盛んだったのは南北朝時代（439－589年）の南朝の諸王朝、唐（618－907年）、明（1368－1644年）だ。中国側からの輸出品は陶磁器や繊維製品だった。

カンボジアが中国文化の影響を受けた一例としては、13世紀末に「十二支」に基づく紀年法が採用されたことがある。元代（1279－1368年）には、周達観という人物がカンボジアに旅行して、首都だったアンコールで自分と同郷の温州出身者と出会っている。カンボジアが中華文明の影響を受けたことには、カンボジアで暮らす華人が多かったことに関係している。

中国とインドは隣り合う二つの大文明圏だ。しかし地勢の関係もあり、直接に往来することは容易でなかった。カンボジアは中国側にとって、インドについての知識を得る窓口の役割りも果たした。南朝の梁（502－557年）の歴史を記した「梁書」の「海南諸国」には、時代をややさかのぼった部分も含めて南方諸国の記載がある。カンボジアについては、三国時代の呉の孫権（在位：229－252年）が東南アジアに使いを送り、カンボジアでは在住華人から、インドの国情を教えてもらったとの記載がある。カンボジアは中国とインドが互いに相手の情報を得る場所でもあった。

19世紀になると、インドシナ半島ではフランスの勢力が強まった。カンボジアは1884年にフランス領インドシナに組み込まれた。しかし植民地になったカンボジアにも華人はいた。1953年にカンボジアが独立すると華人グループが次々に学校を建設した。このことで中華文化とカンボジア文化の融合が促進された。20世紀初頭には、「三国志演義」がタイ経由でカンボジアにもたらされた。「三国志演義」は今でも、カンボジアで人気が高い「時代小説」だ。

一方で、中国の王朝がカンボジアに戦争を仕掛けたことはない。むしろ、軍事面ではカンボジアを支援した。カンボジアの古都のアンコールにある人気の観光スポットでもあるバイヨン寺院の壁には、外敵に立ち向かうために、北宋（960－1127年）の兵士とカンボジアの兵士が並んで行軍する様子を描いたレリーフがある。

■今も続くカンボジアと中国の友好関係、民間交流もますます旺盛に

カンボジアと中国の友好関係は今も続いている。例えば理念の共感の面では、カンボジアは「一帯一路」共同建設の最初期の参加国の一つだ。カンボジアは「一帯一路」を、自国における外資誘致やインフラ整備のチャンスと認識した。そして、国家戦略に「一帯一路」をしっかりと組み込んだ。中国とカンボジアは2019年に、世界初の2カ国運命共同体構築行動計画を締結した。両国の発展についての理念が合致しているからこその締結であり、2カ国運命共同体の構築は、中国が提唱する人類運命共同体構築のモデルケースでもある。

中国とカンボジアの貿易は急速に発展している。カンボジアにとって中国は過去数年間にわたり最大の貿易相手国であり、カンボジアにとっての最大の投資国でもある。カンボジアでは電力供給や物流のインフラ環境が改善されたことにより、大量の雇用が発生した。

教育や文化面でも両国の結びつきは密接だ。カンボジアには、中国と共同で設立した中国語や中国文化を教える孔子学院がすでに2カ所ある。また、華東師範大学はカンボジア側の大学と提携して、修士号を持つ中国語のカンボジア人教師を育成している。

医療面でも、中国の感染症対策医療専門家チームが、コサマック中国・カンボジア友諠病院で活動している。両国の人の往来は極めて盛んで、民間交流は激増している。

■外来文化に寛容だったカンボジア、相手を尊重してこそ健全に成長

カンボジアが東西文明の融合する地となったのは、その寛容な民族性のおかげだ。カンボジアは歴史を通じてさまざまな宗教が集まってくる場所だった。しかしヨーロッパ中世に多発した宗教を理由とする迫害や、宗教戦争は、カンボジアの歴史では極めてまれだ。

バラモン教、大乗仏教、上座部仏教などがカンボジアに伝わり信仰された。多彩な宗教が共存した。クメール王朝の君主だったヤショーヴァルマン1世は、バラモン教徒や仏教との修行のために、僧院100カ所を建設した。二つの宗教のいずれをも尊重したわけだ。16世紀に西洋からカトリックの宣教師がやって来た際にも、カンボジアの国王は寛大に待遇した。

カンボジアの歴史を見ると、文化の伝播や文明の相互学習が円滑になされた時期には、大きく進歩している。逆に、国家政権が外部から脅迫されたり、内政が乱暴に干渉されたりすると、文明の発展は阻害される。

カンボジアの状況を見ても、世界のすべての国と民族はすべて異なる歴史の軌跡、民族の性格と文化意識を持っていることが分かる。どのような発展の道を望むかも、おのずから異なっている。世界には多様な文明が同時に存在していることを認めなければならない。各国の人々が自主的に選択した発展の道を尊重し、協力し合い、共に話し合い、共に建設し、共に享受することを通じて、共に成長することを実現すべきだ。（構成 / 如月隼人）