「一強」基盤固めた習近平主席、難題解決へ大胆施策も=「台湾」は平和的統一目指す

八牧浩行    2022年10月24日(月) 7時30分

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中国共産党の第20回党大会は党の憲法とされる党規約の改正方針を決議して閉幕。習近平主席は強国、強軍と中華民族の偉大な復興を訴え、異例の3期目続投を決めた。写真は天安門広場。

中国共産党の第20回党大会は党の憲法とされる党規約の改正方針を決議して閉幕。習近平主席は強国、強軍と中華民族の偉大な復興を訴え、異例の3期目続投を決めた。任期の今後5年間も、「戦争や植民地支配、略奪など発展途上国を不幸に陥れたかつての欧米の道は歩まない」と述べ、植民地時代の欧米諸国などとの違いを強調した点が注目される。

◆永遠に覇を唱えず

国際対応・外交では、「自主平和外交」を改めて掲げ、「永遠に覇を唱えない」と協調路線を確認。国の統制の下で経済成長をめざす発展モデルを開発途上国などに広め、世界全体を主導する外交戦略を打ち出した。習氏は「人類が直面する共通課題の解決に向け、中国の知恵、中国の案、中国の力を提供する」とアピール。米欧とは異なる価値観を共有する国家グループを構築する構想を示唆した。

格差是正のための共同富裕政策の推進が明らかになった。さらに「改革開放」策の堅持と景気刺激策による経済成長重視の方向も示された。「ゼロコロナ政策」ではコロナ感染の抑え込み後に緩和する方向も示唆された。

注目の台湾問題では、独立への強い反対を党規約に明確に盛り込み、バイデン米政権や台湾の蔡英文政権にくぎを刺した格好だ。習氏は報告の中で台湾政策について、「平和的統一に向けて最大限の努力をする」と語った。「武力行使の放棄を約束しない」とも述べたため、「武力行使」の可能性が大きく報じられたが、台湾や米国が「独立」に向け実力行使をしない限り武力による統一は想定していないという。中国経済は米国に並び追い抜く発展途上にある中、リスク回避の道を優先している。中国のシンクタンク幹部は「台湾は同じ中華民族であり侵攻による殺害はできない」とみている。ロシアの武力的なウクライナ侵攻が苦戦し、国際社会の強い反発と制裁を招き「国力」を棄損していることも教訓としている。

習氏を領袖と呼称することが党規約に盛り込まれるとの見方も出ていたが、実現しなかった。さらに「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」を「習近平思想」と個人色をアピールして「毛沢東思想」と同列に置くとの観測もあったが、見送られた。ともに「個人崇拝」に繋がるとの慎重論に配慮した格好だ。

経済・軍事とも世界の大国に成長した中国は、国際秩序の安定と平和の担い手として重大な責任を負う。3期目を迎え強い基盤を固めた習氏が内外の難題を解決する大胆な施策に転じる可能性もある。ウクライナ侵攻を継続するロシアに対する明確な反対表明や停戦仲裁なども期待したい。

建国の父・毛沢東は党主席として絶対的な権力を握ったが、中国全土に混乱を引き起こす文化大革命につながった。1980年代の最高実力者、トウ小平はその反省から、集団指導体制への転換を図った。国家主席のポストには2期10年の制限を設けた。2012年に党総書記となった習氏は「トラもハエもたたく」と宣言し、党、軍や政府の上層部から末端まで汚職を摘発する「反腐敗闘争」を推進。胡前総書記時代に警察・治安部門を掌握した周永康・元政治局常務委員を汚職で失脚させ、党内での求心力を一気に高めた。

その後、習氏への権威付けが段階的に進んだ。中国共産党は2016年に習氏を別格の指導者である党の「核心」と位置付け、17年の党大会では習氏の名前を冠した思想が党規約の行動指針に盛り込まれた。その上で18年3月には憲法改正で国家主席の任期制限を撤廃。3期目への道筋をつけた。

◆「改革開放」で経済大国実現

中国の新体制は、改革開放路線が今日の繁栄を導き、貧困の撲滅と米国に迫る経済大国に発展した点に留意すべきである。

世界全体に占める中国の国内総生産(GDP)シェアは、改革開放が始まった1988年にわずか2%だったが、2021年には9倍の18%に達した。中国の貿易総額は199倍に、1人当たりの可処分所得が152倍に達した。2014年に、実態に近い購買力平価(PPP)で米国を追い抜き、消費市場規模でも人口14憶人を背景に世界1となった。

日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、中国に進出した日系企業の総数は3万3千社を超え、中国は日本企業にとって重要な収益源となっている。日本の貿易総額の相手国別のシェア(2021年)を見ても、中国(香港・マカオ含む)は30年前の4倍の25%に達し、強い相互依存関係にある。

◆「製造強国」で百年目標達成目指す

さらに、激しい「米中対立」の中でも米中両国の貿易量が伸びている点に着目すべきである。多国籍企業の大半は中国市場の巨大さと成長性に着目しているという統計データもあり、現に世界では対中デカップリング(切り離し)現象は起きていない。

今世紀半ばまでに、「社会主義現代化強国の全面的完成」という二つ目の百年達成目標に向かっている中国。経済成長の見通しについて、国際協調を推進し、改革開放路線を堅持すれば、一層の経済発展と生活向上を実現でき、発展の道が開けるだろう。

人工知能(AI)やロボット、フィンテック(金融技術)、情報技術(IT)など次世代産業を左右するビッグデータ分野やバイオ、宇宙、量子科学、原子力利用、次世代モビリティ、健康分野で、中国の発展は飛躍的だ。

習氏は今後5年間の重要目標として、海外に依存しないハイテク技術の開発を加速させることを掲げた。技術力を持つ中小零細企業の成長を促し、優秀なエンジニアなど高度人材の育成により「製造強国」を目指すという。

中国は文字通り「世界のリーダー」に躍り出た今、習近平主席が提唱する「人類運命共同体」の理念をさらに進化させ、軍拡より経済を通じた世界貢献を追求するべきである。

今年の中国の経済成長率は世界的な経済失速の中で、5.5%前後の目標を大幅に下回るとみられる。財政金融両面で景気浮揚策も検討されているが、経済を回復軌道に乗せることができるかが当面の着目点である。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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