注目経営者の動向から見通す2023年の中国EV車市場、許家印、雷軍、李一男の戦略とは

高野悠介    2022年10月22日(土) 15時0分

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中国では自動運転時代を見据えた新エネルギー車の開発、新発売、シェア争いなどのニュースが引きも切らない。写真は自游家汽車の「自游家NV」。

中国では自動運転時代を見据えた新エネルギー車(ほぼEV車)の開発、新発売、シェア争いなどのニュースが引きも切らない。テスラ比亜迪BYD)が第一グループを形成し、国有、民営の従来型自動車メーカー、新たに設立された「造車新勢力」、異業種からの新規参入組と主に4つのグループがあり、それらの動向が逐一報道されている。今回は、それらの中から創業経営者に関わる話題をピックアップし、2023年の中国EV車市場を展望したい。

■恒大…量産を再三延期

異業種参入の代表は、不動産大手・恒大だ。恒大は経営危機に陥る前、2018年からEV車生産に取り組んできた。経営再建中の2021年10月も、創業者の許印家氏は「EV車生産は恒大集団の今後10年の変革と発展の中心だ」とリストラ対象事業ではないことを強調した。

そして9月上旬、中型SUV「恒馳5(17万9000元)」の納車を10月から始めると発表した。しかしすでに3月、6月、9月と3度の延期を繰り返している。量産体制の構築に手間取っているという。販売条件は魅力的だ。15日以内なら返品を可能とし、3年以内なら60%の価格での買取保証が付く。基本アフターサービスとロードサービスは永久無料。運転補助システムの更新も無料だ。デザインは元いすゞ自動車のデザインセンター長、丸山公顧氏が手がけている。特徴的なT字型のヘッドライトが目を引く。中国メディアはシンプルかつダイナミックと評している。

しかし、再三の発売延期により、メディアの見方は厳しい。オオカミ少年状態を脱し、4万台とされる受注分をしっかり納品できるのか。ことは恒大グループの再建にも関わる。

シャオミ…進捗状況は非開示

スマホ大手、シャオミ(小米)の参入も大変な注目を集めた。シャオミ創業者の雷軍氏は2021年3月、自前による完成車生産を目指すと発表した。雷氏は「自動車生産は極めて複雑な技術で、我々の時間は十分とは言えない。しかし、シャオミには人工智能実験室、小愛同学(スマートスピーカー)チーム、撮影機材チームなど各個のR&Dチームのサポートがある」と強調した。この時点で自動車生産の人員は500人だった。

その後2021年7月、自動運転部門の高度技術者500人を招聘すると発表。同年9月、全額出資子会社「小米汽車有限公司」を設立。同年11月、北京経済技術開発区に工場進出を発表。1期と2期に分け、それぞれ年産能力15万台、計30万台の大型工場を建設する。量産開始目標は2024年上半期とした。2022年4月、自動車関連人員は1200人を突破。同年7月、自動運転の路上テストを開始。同年8月、雷氏は、自動運転の進捗は予想以上であり、33億元を投入したとし、自前開発の継続を強調した。

しかし、メディアには、シャオミの自動車産業進出は遅すぎたのではという見方が付きまとう。正式スタートは恒大より3年遅い。2022年9月、雷氏は、「私はその意見に組しない。シャオミには多くの機会がある」と述べる一方、今後2年間、自動車製造の進捗状況は開示しないとも表明した。シャオミは、雷氏のカリスマ性や好感度、その一方で慎重な性格など、何から何まで彼のイメージに振り回される。21世紀に自前主義が通用するのかも含め、課題はあまりにも多い。さらに同業ライバルのファーウェイは、事実上の自車、AITO問界M5とM7をすでにヒットさせ、先行している。確かにしばらく黙っている方がよさそうだ。

■造車“新”新勢力…ダークホース登場

造車新勢力とは「蔚来汽車」「小鵬汽車」「理想汽車」「哪吒汽車」「哪吒汽車」など、2010年代半ばに新しく設立されたEV車専業メーカー群を指す。2021年以降、販売量を急増させ、存在感を高めている。さらに造車新新勢力が登場している。そのうちの1社「自游家汽車」が10月上旬、新モデル「自游家NV」を発表した。中大型SUVで価格は27万8800元~31万8800元。全車4輪駆動、航続距離は440~560キロ。12月から納車を開始するという。

創業者の李一男氏は1970年、湖南省生まれ。15歳で華中理工大学少年班へ入学、26歳の若さでファーウェイの常務副総裁となった。その後、百度の首席技術官、中国移動の総合情報サービスCEO、投資機構「金沙江創業投資基金」のパートナーなどを務めた。2014年、同投資基金が出資したEV車企業「北京牛電科技」創業メンバーの1人となる。2018年、NIUTRONというEV車の開発を開始。その後、企業再編や二次創業を経て、「自游家NV」というブランドとなった。ただし恒大やシャオミと違い、既存の販売網が全くなく、大きなハンディとなっている。

李氏は傲慢な性格とされ、過去にインサイダー取引で有罪判決も受けた。一方、ファーウェイ創業者の任正非氏が後継者と考えたほどの切れ者だ。そのため、ダークホースついに登場というイメージのようだ。

■海外ブランドセダンから国産SUVの時代へ

2022年9月には、造車新勢力を中心に8車種の新エネルギー車が発売された。そのうち6車種が中大型SUVで、各社の2023年に向けた戦略車。SUVの商品ラインナップは充実の一途だ。20世紀の中国はフォルクスワーゲン・サンタナの世界だった。その後、ドイツや日本の中高級セダンが人気となった。それが国産のSUV一色に塗り変わりつつある。EV化だけでなく、車種構成やブランド信仰も地殻変動を起こしている。2026年納車開始のソニー・ホンダモビリティなど日本勢は中国市場の変化に間に合うだろうか。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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