香港小売大手の栄華と没落「諸行無常の響きあり」、コロナ前に見えた“陰り”の原因とは

Record China    2022年10月19日(水) 5時0分

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かつては栄華を極めた香港のドラッグストア大手チェーンの卓悦が、極めて深刻な経営危機に直面している。真の原因はコロナ禍ではなく、コロナ禍は「最後の一撃」にすぎないという。

商業関連の分析や論評を発表することで知られる金錯刀氏はこのほど、香港のドラッグストア大手・卓悦の「栄華と没落」を振り返り、その原因を分析する文章を発表した。以下は、その抄訳だ。なお、一部補足説明を追加して再構成した部分があることをお断りしておく。

香港では2014年2月、特別自治区政府に本土からの観光客の制限を求める100人余りによるデモが発生した。デモ参加者は本土からの観光客を「イナゴ」とののしった。当時は当局関係者の中にすら、中国本土からの観光客を「根性が劣っている」と非難する者がいた。

彼らの願いは、思いもよらぬ形で実現した。反政府運動や新型コロナウイルス感染症の影響で、21年に香港を訪れた中国本土からの観光客は、ピーク時の約1000分の1の延べ6万5000人にとどまった。

しかしそれにしても、大手ドラッグストアの卓悦の創業者である葉俊亨氏の一家3人が22年9月、約6億香港ドル(約114億円)の負債を返済していないとして、債権者から破産を訴えられたことに対して、香港人は信じられない思いだった。裁判所は11月8月までに、同件についての判断を示す予定だ。

卓悦の1号店設立は1991年だった。当時は香港が中国に返還される前だったので、本土住民が香港に行く場合には指定された旅行会社で香港・マカオ通行証を取得する必要があった。個人旅行は認められず、参加できる団体旅行の日程は15日間にも及んだ。よほどの財力がないかぎり、中国本土の住民にとって香港観光旅行は不可能だった。

しかしその後、97年が中国に返還されたことなどで、中国本土から香港への旅行は規制が徐々に緩和されていった。香港の観光業は活気を示しはじめた。ところが2002年秋から重症急性呼吸器症候群(SARS)が発生したことで観光客が激減し、香港の観光業は大打撃を受けた。観光業を回復させるために、03年7月には香港への個人旅行が開放された。同年だけで延べ847万人が香港を訪れ、香港の観光収入は過去最高を記録した。

卓悦は店舗数を急増させるなどで、大発展した。卓悦の躍進の第一の原因は、香港で初めて日本ブランドの化粧品などを大量に売り出したことだった。価格は低く抑えた。このことで、まず香港人が卓悦に飛びついた。

さらに、SARSが猛威を振るった時期に、店舗数を急増させたことが成功した。香港では多くの店舗が閉店して賃料が下落した。卓悦はこのチャンスを生かして、短期間で40店舗以上を構えることになった。店舗の外観は粗末だったが、商品が豊富で安価だったために、多くの女性客が卓悦の店舗に殺到した。創業者の葉俊亨氏は「われわれはお客さまのニーズに応えている」と自信を示した。卓悦には中国本土からの観光客も押し寄せるようになった。

卓悦が不振に襲われたのは、コロナ発生前の17年だった。卓悦は同年、赤字を出した。18年には、中国本土から香港を訪れた旅行者が延べ5100万人を突破し、香港の観光業収入は423億米ドル(22年10月15日現在の為替レートで約6兆2900億円)に達するなど、業界は絶好調だった。しかし卓悦は同年も低迷し、3960万香港ドル(同約7億5000万円)の赤字を計上した。

卓悦が没落した大きな原因の一つが、中国本土から日本への観光旅行の規制が緩和されたことだった。日本製品の購入を求める人は、直接日本に向かうようになった。日本の小売店も店内に中国語の表示を大量に設置するなどで、チャンスを最大限に生かした。日本では中国人観光客の「爆買い」という表現が発生した。卓悦は顧客の主力層を失った。

もう一つの原因が、電子商取引(EC)の台頭だった。多くの海外ブランドがECプラットフォームに出店したことで、卓悦は価格競争力を失った。

卓悦を運営する卓悦ホールディングスは株式上場していたが、経営や会社管理が極めて杜撰(ずさん)だったことも明らかになった。人事部の女性責任者が給与支払いシステムの脆弱性(ぜいじゃくせい)を悪用して、自分の家族に7年間で4000万香港ドル(2022年10月15日現在の為替レートで約7兆5800億円)を送金して横領する「四千万詐欺事件」も発覚した。

巨額の横領を許したこと自体も問題だが、7年間も発覚しなかったことは驚きだ。逮捕された女性は04年の入社だが、経営者の葉俊亨氏は当初から、サインせねばならない書類に「忙しい」などの理由でサインしなかったので、あいまいに済ませたことも多かったと供述したという。

葉俊亨氏は20年に保有していた卓悦株式の大部分を陳健文氏に売却した。葉氏の持ち株比率は1%程度になった。しかし葉氏は実権を手放そうとしなかった。葉氏と妻は執行役員に留まりつづけ、会社の小切手帳や印鑑などを渡さなかった。葉氏と陳氏は非難を押収し、双方は「訴訟合戦」を始めた。

卓悦は顧客にも見放され、在庫品を9割引きにしてもなかなか売れない状態になった。会社としては17年から21年まで5年連続で赤字を計上した。中国本土からの観光客激増という好機をしっかりと利用したまではよかったが、会社体質の改善を全く怠り、内紛まで発生させてしまった。コロナ禍が大逆風になったのは事実だが、卓悦にとっては「最後の一撃」になったと考えねばならない。(翻訳・編集/如月隼人


※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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