<台湾有事と日本の対応>最後の総督・安藤氏の服毒自殺、敗戦直後の台湾独立計画への不関与示す

大村多聞    2022年10月16日(日) 7時0分

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1945年8月15日本政府はポツダム宣言(日本への降伏要求最終宣言)受諾を国民に発表した(玉音放送)。

1945年8月15日本政府はポツダム宣言(日本への降伏要求最終宣言)受諾を国民に発表した(玉音放送)。その翌日の8月16日台湾においては日本の一部軍人と台湾人指導者が安藤台湾総督の執務室に押しかけ台湾独立計画を総督に働きかけた。安藤総督は独立運動を禁止しその動きを内密にした。安藤総督は日本人引き上げの任務を全うした後中華民国の国民党政府により戦争犯罪人として逮捕拘留されたが、服毒自殺し自ら命を絶った。

安藤総督の自殺は台湾独立計画関係者に危害を及ぼさないという要素もあったと推察される。独立計画は台湾を占領した国民党政府が後に知るところとなり関係者は処分された。安藤総督は台湾の地位について敗戦国日本が関与しないことを自らの命をもって示したといえよう。

◆日中共同声明で日本は台湾問題で中国に同意を与えていない

時は移り日中が国交回復を合意した1972年9月29日発表の日本国政府と中華人民共和国政府共同声明の第三項は次の通りとなっている。

「中華人民共共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」。

ポツダム宣言第八項では日本の領土が本州、北海道、九州および四国と諸小島に限定されるとしている。その範囲に含まれない台湾について日本は放棄したが日本独自に台湾の法的地位を認定する立場にはない。日中共同宣言第三項では、日本は中華人民共和国の立場を“十分理解し尊重する”が“同意する”との表現は避け、“ポツダム宣言の立場を堅持する”とした。苦肉の策ではあったが、敗戦直後の安藤総督と同じく台湾の地位につき日本国として関与しないという姿勢を維持したといえよう。

日本は中華民国(台湾)とは断交したが、国交のない地域扱いとし「台北駐日経済文化代表処」という事実上の駐日台湾大使館と、日台交流の実務関係を処理する「公益財団法人日本台湾交流協会」を通じて、日台間の経済・文化・人的交流を深めて現在に至っている。

李登輝総統の二国論

戦後の国共内戦で毛沢東共産党に敗北した蒋介石国民党政権は1949年台湾移転声明を出しその後長らく台湾から中国本土への反攻の構えを維持した。この間中華人民共和国も中華民国も「一つの中国」という点では一致していた。

1996年の台湾初の民主的選挙で台湾総統となった李登輝は、1999年に「二国論」「特殊な国と国の関係」論を提唱した。その骨子は次の通りである。

・国際法上日本は台湾を放棄し事実上中華民国に返還された。

・その後中華民国が台湾化した、すなわち台湾が本土化した。

・中華人民共和国は中華民国から分離した新しい国家である。

・台湾は中華人民共和国に実効支配されたことはなくことさらの独立は不要である。

「二国論」は中華民国台湾による中国本土奪還という非現実的な方針を取り下げ、台湾側から国共内戦を棚上げし台湾を事実上独立国とするものである。「一つの中国」原則を固持する中国が「二国論」を受け入れることはなく、また国共内戦の停戦協定がむすばれているわけでもないので、中国からすれば国共内戦は続いていることになる。

台湾国立政治大学が1995年から2019年まで25年間の台湾人の両岸問題意識変化調査を行った結果、民意は「現状維持」に収斂している。現状維持が85%、統一拒否が53%、独立が26%、統一が10%に至った。改めて独立を主張することは危険で無理、中国との統一は拒否する、したがって事実上独立の現状で良いとするもので、李登輝の「特殊な国と国の関係」論に民意が収斂しているといえよう。明確な独立ではなく事実上独立の現状のままで時間を稼ぎ機会を待つという極めて現実的なバランス感覚を示しているといえよう。

李登輝の弟子ともいえる蔡英文現台湾総統は2018年に中華民国内の台湾省の予算をゼロとした。大陸反攻の構えを示すだけの台湾省の実質廃止は李登輝の「二国論」を進めた措置であり台湾内では大きく注目された。

◆「天然台」の増加

台湾人として生まれ育ち自然と台湾アイデンティティを有するに至った世代「天然台」が今や20才台の95%超となった。「天然台」は台湾側の視点からの現代史の教育を受けている。台湾の高校歴史教科書は、1949年の米国国務省の中国白書から1950年の米トルーマン大統領の声明への米国の中国政策変更や、米国の東アジア防衛体制を示す対共産圏防衛線を中国が逆用し九段線として南シナ海領有の根拠としていること等について、一次資料を掲載し高校生に考えさせ議論させるという教育を行っている。「天然台」学生の民主化要求運動に応えて(利用して)李登輝が台湾の民主化を図ったという経緯がある。

天然台基盤の「時代力量」等の政治勢力が前回2020年の総統選で際英文再選の原動力となったが、近い将来中国寄りの姿勢を持つ国民党を上回る可能性も指摘されている。そうなると台湾人の民意による平和的な中国へ統合の可能性はますます遠のく。武力行使による台湾統合の選択枝を排除していない中国による台湾武力侵攻「台湾有事」が近づいていると観測される背景である。

◆「台湾有事」への日本の立ち位置

2011年の東日本大震災のときに台湾人民は世界最大200億円の義援金を拠出した。当時の菅首相は中国等7か国の全国紙にお礼のメッセージを掲載したが、最大の義援金拠出国台湾には感謝広告を出さなかった。日本政府の措置に憤激した日本の某女性がネットで「謝謝台湾計画」の寄付金を募り、台湾二紙に感謝広告を掲載した。二紙は受け取った広告料をそのまま日本への義援金に追加した。

穏やかで温かく親日的な台湾人に接した多くの日本人は台湾に対して友好的感情を有しているが、日本は国としては台湾独立や中国への統合の可否について関与する立場にはいない。同時に平和国家日本は中国の武力行使やそれに伴う人権侵害、さらには日本の領土領海への侵犯については国連加盟国中国に対して国際法順守を強く求めなければならない。

資源国ロシアは国際法を無視してウクライナに侵攻したが、加工貿易立国の中国は戦後の国際法秩序の最大の受益者だ。中国は「内政不干渉」の国際法原則を主張するが、同時に「人権尊重」という国際法の根本原則を守り尊重する必要があることを日本として堂々と主張していきたい。それが台湾への応援となる。

■筆者プロフィール:大村多聞

京都大学法学部卒、三菱商事法務部長、帝京大学法学部教授、ケネディクス(株)監査役等を歴任。総合商社法務部門一筋の経歴より「国際法務問題」の経験・知見が豊富。2021年に(株)ぎょうせいから出版された「第3版 契約書式実務全書1~3巻」を編集・執筆した。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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