中国ネット通販は淘汰の時代へ、生き残りのカギとは?

高野悠介    2022年9月5日(月) 15時0分

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中国のネット通販は先行きの見通せない成長の踊り場を迎えた。ここで注目されているのが唯品会だ。

最近の中国のネット通販業界は重苦しい。王者アリババは、4~6月期決算で2014年の上場以来初となる売上高減少、59%の大幅減益に見舞われた。専門通販はそれ以上のピンチに陥っている。いくつかの事例を紹介し、業界の将来を探ってみよう。

■易趣網…ネット通販のパイオニアが廃業

易趣網が8月12日、サイトの運営を中止した。易趣網は1998年に上海で設立。かつてはアリババをリードしていた。2人の創業者、邵亦波氏と譚海音氏は共にハーバードビジネススクール出身。創業1年で中国最大のネット通販に成長させた。2000年には、全国初の24時間サービスを開始、2002年には米国eBayと提携、「eBay易趣」と改名した。2004年、決済プラットフォームAnpayの運用を開始。2005年、登録ユーザー数1000万人を突破。しかしこの年、、アリババ67.3%、eBay易趣29.1%と、市場シェアを逆転された。

アリババは支付宝(Alipay)によって決済の信用問題を解決し、初めて信頼に足るC2C通販を創出した。支付宝は2010年代のスマホ時代にはQRコード決済に発展、今では生活に不可欠のスーパーアプリだ。一方の易趣とAnpayはその構築に遅れをとった。歴史的にはアリババ発展の触媒のような存在だった。閉鎖直前には中小規模の越境Eコマースになっていた。

■蜜芽…アパレルへ業態転換

蜜芽は2011年設立のベビー・マタニティーの専門通販だ。創業者は全職媽媽(専業主婦)の劉楠氏。ただし北京大学卒、外資企業勤務経験を持つインテリで、ごく普通の専業主婦には当たらない。蜜芽は有名ブランドの正品保証など、安全で楽しいショッピング体験の提供を訴求した。2015年に北京、寧波、重慶に保税倉庫を開設、IT巨頭の百度や京東から人員をスカウトし、投資資金も潤沢に集め、国内最大のベビー・マタニティー専門通販に成長した。

しかし今月2日に通販アプリを閉鎖した。今後はこれまでのサプライチェーンと、培った信用力を生かし、「兎頭媽媽」というブランドを展開するアパレルに転身する。芽摘は2022年5月の段階で、損益の均衡を保っている。余力のあるうちに転換を図った。劉氏は「垂直型専門通販モデルは失敗だったかもしれない。しかし、中国ネット通販の発展には大きく貢献した」と述べた。

■毎日優鮮…生鮮電商モデル崩壊

毎日優鮮が苦境に陥っている。毎日優鮮は2014年設立。生鮮電商モデルの先駆者だ。

アリババは2016年2月に新型スーパー「盒馬鮮生」をオープン、いわゆる新零售をスタートさせた。オフライン体験とサービスを融合した新しい小売りモデルだ。新零售の要は即配で、盒馬鮮生は店舗周辺の指定地域に最短30分で配達する。しかし、即配体制を突き詰めれば、何も店舗を構えている必要はないはずだ。毎日優鮮はその思想を具現化し、無店舗の生鮮電商モデルを確立した。

毎日優鮮は、「前置倉庫」と呼ぶ地域に配置した倉庫から直接デリバリーした。2018年には、前置倉庫を全国1万カ所に建設すると発表した。順調に成長を続け、2021年6月に生鮮電商として初めて米国ナスダック市場に上場を果たす。しかし、この頃すでに業績は不振に陥っていた。前置倉庫は2019年の1500から2022年には631に減少。1万カ所は夢物語だった。直近4年間の赤字は100億元を超えた。そして2022年7月末、毎日優鮮は30分以内の即配を翌日配達に変更すると発表、ビジネスモデルは完全に崩壊した。

■寺庫…奢侈品販売チャネル多様化で失速

奢侈品(高級ブランド品)のネット通販「寺庫」もピンチだ。2008年に北京で設立、ネット通販にとどまらず、鑑定、補修・メンテなどアフターサービスを含む高級ブランド品の愛好者コミュニティーを構築した。これを、北京、上海、成都、香港、東京、ニューヨーク、ミラノ、マレーシアに拡大した。2017年9月に米国ナスダック上場。2019年5月にプラダと提携し、プラダやミュウミュウが寺庫プラットフォームに出店した。同8月にはラルフローレンも出店。この頃は200以上の有力ブランドと提携し、絶好調だった。しかし、2019年から業績は傾きはじめる。2021年度は、売り上げは前年比48%減の31億3200万元、利益は5億6600万元の欠損、前年比6倍に拡大した。高級ブランドの購入チャンネルは多様化し、専門通販の魅力は低下した。100%子会社を整理すると伝えられるなど、先行きは予断を許さない。

■カギは市場の深堀り

ネット通販は先行きの見通せない成長の踊り場を迎えた。ここで注目されているのが唯品会だ。第2四半期、アリババの59%減益に対し、8.4%の増益を確保した。アクティブユーザーは21%増加した。

唯品会は2008年に広東省広州市で設立、2012年にナスダック市場へ上場を果たしている。「ブランド品の割引+期間限定+正規品保証」モデルを取り、厳選された商品から、最高のコストパフォーマンスを引き出した。取引先の協力により、実質無在庫で利益を確保する。そして常に商品のアップグレードを志向し、若者層に支持を広げた。蜜芽や寺庫に比べて顧客の奥行きがあり、市場性に優れ、増収増益を続けている。さらに共同購入の拼多多も好決算を発表した。いずれも独自のアクセスにより、市場に切り込んでいる。まだ深堀りはいくらでもできそうだ。それに伴い、ネット通販界の勢力図は大きく変わるだろう。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

※記事中の中国をはじめとする海外メディアの報道部分、およびネットユーザーの投稿部分は、各現地メディアあるいは投稿者個人の見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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