米国主導・中東版“クワッド”「I2U2」は何を意味するか=対中連携も狙い?

山崎真二    2022年8月28日(日) 8時0分

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米国、イスラエル、アラブ首長国連邦(UAE)およびインドの4カ国による経済連携I2U2が先ごろ本格的に始動した。今後の中東情勢を見る上で新たな動きとして注目される。

米国イスラエル、アラブ首長国連邦(UAE)およびインドの4カ国による経済連携I2U2が先ごろ本格的に始動した。今後の中東情勢を見る上で新たな動きとして注目される。

◆「イランの脅威」への対処が目的

I2U2とはこの4カ国の英語の頭文字をとった略称である。7月のバイデン米大統領の中東歴訪の際、イスラエルでこの4カ国の首脳会議がオンラインで開かれ、トップレベルでの活動がスタートした。米有力メディアはI2U2について「中東版クワッド」と報じている。インド太平洋地域では日米豪印4カ国の経済・安全保障の協力体制である「クワッド」があるが、それと発想を同じくする新たな連携枠組みというとらえ方である。

同首脳会議後の共同声明では安全保障やエネルギー分野を中心に多面的な協力を進めるとしている。当初の計画としてUAEがインドの総合的食糧プロジェクトに20億ドルを投資し、米国とイスラエルが技術支援を行うことが検討されているという。米有力シンクタンクの中東専門家の間では、中東地域で勢力拡大を図るイランに対処するが主目的との見方が有力だ。

周知の通りイランは1979年の「イスラム革命」以来、イスラエルのせん滅を叫び、同じシーア派イスラム主義組織であるレバノンの「ヒズボラ」やイラクのシーア派民兵組織を支援、さらにシリアやイエメン内戦にも軍事介入するなど、その脅威は中東各国に及んでいる。I2U2がの創設メンバーにイスラエルとUAEが加わっていることから分かるように、2020年に両国間で実現した「アブラハム合意」が基礎になっており、イスラエルとアラブの歴史的対立から関係正常化への流れの延長上にある動きとみていい。

◆中国、軍事面でも中東諸国との連携強化

一方、バイデン米政権にとってはI2U2はイラン対策だけでなく、中国に対抗するための連携という狙いがあると、複数の米メディアが伝えている。昨年3月、王毅外相が中東6カ国を歴訪、イランで期間25年の包括的な協力協定に調印し大きな注目を集めた。中国がイランのインフラ整備に大規模な投資をするのと引き換えにイランは自国産原油を安価で中国に輸出するいうのが協定の核心だ。それだけでなく、軍事面での協力も盛り込まれているといわれる。この協定からも推測されるように最近では中国は経済面だけでなく軍事・政治面でも中東諸国との関係を強めようとしているふしがある。

米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」によれば、UAEの港で中国は秘密裏に軍事施設の建設作業を進めていたが、米国が抗議した結果、中止されたという。中国がサウジアラビアの弾道ミサイル製造への支援を始めたとの情報も流れた。

もう一点見逃せないのは、バイデン政権の中東戦略の変化だ。米有力シンクタンクの中東専門家は「中国との対抗を最優先課題とするバイデン政権はインド太平洋に軍事・外交力を集中させ、中東への関与を軽減したいのが本音」と指摘、I2U2構想の背後には中東を同盟国などに任せようとするバイデン政権の意図があると分析する。

◆インドの動きにも注目

                               

注目すべきはインドが創設メンバーなっている点だ。インドの有力紙「ヒンドゥスタン・タイムズ」の中東担当記者は「バイデン政権は、イスラエルのハイテク軍事技術の導入やUAEからの投資増大を期待するインドの腹の内を読み取り、インドを巻き込むことに成功した」と語る。最近のインドは伝統的な非同盟路線から多角的外交へと転換を図りつつあり、以前は相性の悪かったイスラム教諸国との関係づくりにも乗り出している。

前述のヒンドゥスタン・タイムズの記者は「米国の思惑はどうであれ、インドは自国の国益から実利面を重視してI2U2に参加した」と述べている。インドがどれだけI2U2に関与するかが、この新しい経済枠組みがうまく機能するか否かのカギになるというのが、多くのインドおよび中東専門家の見方のようだ。インドの経済発展のポテンシャリティーは高く、2030年にはGDPで日本を抜き、中国、米国に次いで世界第3位になるとの予想もある。

「インドの重要性を無視した地域枠組みはその影響力が限定的になる」(JETRO日本貿易振興機構=関係者)との指摘はI2U2についても言えるだろう。I2U2の今後の動向次第では中東だけでなく、アジア地域にも影響を及ぼす枠組みになるかもしれない。

■筆者プロフィール:山崎真二

山形大客員教授(元教授)、時事総合研究所客員研究員、元時事通信社外信部長、リマ(ペルー)特派員、ニューデリー支局長、ニューヨーク支局長。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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