<人口稠密のシンガポール>生命線は「水確保」=安全保障と需要急増に対処―日本企業も進出

中村悦二    2022年8月14日(日) 7時10分

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東京23区ほどの国土に、人口が600万人に迫ろうとしているシンガポール。人口密度は世界のトップ3に入るとされるが、その生命線といえるのが「水」の確保だ。写真はシンガポール。

東京23区ほどの国土に、人口が600万人に迫ろうとしているシンガポール。人口密度は世界のトップ3に入るとされるが、その生命線といえるのが「水」の確保だ。現在の水需要は日量4億3000万ガロンで、その45%が家庭用水、残りが産業用やホテル・オフィス・飲食店向けといった都市活動用水など。同国政府は、「水需要は2060年には倍増する」と見ている。

◆輸入水、貯水、下水の再利用、海水淡水化が「4つの蛇口」

同国では、マレーシアからの輸入水、貯水、下水の再利用、海水淡水化を「四つの蛇口」と呼んでいる。利用する水の半分以上を輸入するマレーシアと1962年に締結した輸入契約では1000ガロン(約3785.41リットル)当たり1円未満で、期間は99年間。マレーシアは時々値上げを持ちかけるなど「水」問題でブラフをかける。契約延長の保証もない。このため、シンガポールは下水再利用、脱塩装置を使った海水淡水化のプロジェクト推進している。その際は先端的な技術の活用を図るが、コストがかかる。

水に関する技術開発センターとしてのハブ化も目指すがことはそう簡単ではない。環境・水資源省下のシンガポール公益事業庁(Public Utilities Board=PUB)はスマートメーターの活用や節水を呼びかける運動も進めている。同国は一人当たりの1日の家庭用水消費量を2000年の165リットルから2005年に160リットル、2010年に154リットル、2018年に141リットルへと減らし、2030年には130リットルに減少させようとしている。ちなみに、東京の家庭で1人の1日の水使用量は平均214リットル程度(2019年度、東京都水道局)

シンガポールとマレーシアの国境であるジョホール海峡は別名、ジョホール水道。陸路で往来できるようになっており、その道路の外側や海底に5本の導水管が伸びている。シンガポールは同契約下、マレーシアのジョホール川から1日当たり最大2億5000万ガロンの水の輸入が可能で、これはシンガポールが1日に必要な水の半分以上に相当する。同契約ではまた、マレーシアのジョホール州は輸出水量の2%(500万ガロン)相当までの処理済み水をシンガポールから受け取る権利を有する。マレーシアは、2018年や2000年に輸出水の値上げを打診したが、シンガポールは送水施設の建設費用・維持費を負担していることなどをあげ応じなかったとされる。1961年締結の契約は、2011年に期限を迎えたが更新できず、処理施設をジョホール州に譲渡している。

シンガポールは安全保障面から自国内で「水創出」に励まざるを得ない。貯水地は現在17か所にあり、コンクリート構造物で海と仕切った大型のものもあるが、陸地は貯水には適さない地形。貯水にはあまり期待できない。そこで、力が入るのが先進国の有力企業や自国企業・大学との連携による技術革新が生かせる分野、下水・排水から再生の「NEWWater」と海水淡水化プラントの新増設だ。

PUBは1990年代末に当時の最新の膜技術使用を調べ、2000年に日量1万立方メートルの再生水のデモ工場を稼働。世界保健機関(WHO)などの飲料水としての基準に合致したことから、べドックとクランジにNEWWaterプラントをつくった。現在、NEWWater の5プラントが稼働している。3600キロメートルに及ぶ下水網・大深度トンネル下水システム(DTSS)で下水を集め、主要に半導体工場向けなど工業用と都市活動に必要なエアコン向けにNEWWaterを供給している。日量処理能力は9億リットル。乾季には、貯水池の水とブレンドして家庭用にも使われる。PUBは「2030年に国内水需要の50%を、2060年に55%をNEWWaterで賄いたい」としている。

PUBによると、2年ごとに開かれる水化学、毒物学、微生物学などの専門家で構成する第三者委員会でその水質監査が行われるという。


◆東レ、三菱電機、明電舎など続々参入

日本企業では、東レが南洋理工大(NTU)内にシンガポール水研究センターを2009年に設立し、NTUの南洋環境・水研究所などと共にPUB・大学・エンジニアリング会社との連携による水処理革新技術の研究・開発に乗り出し、2018年には同研究センターで膜分離活性汚泥法(MBR)による下水・産業排水の処理・再利用の評価を行っている。また、三菱電機が自社開発のオゾン水洗浄式・浸漬型膜分離バイオリアクターを工業排水の処理・再生システムに適用するためのラボ実験をシンガポールのセムコープと2016年から行ったほか、明電舎が2021年末、PUBのトゥアス水再生センター工業排水MBRプラント(2025年完成予定)向けセラミック平膜を受注している。

海水淡水化に関しては、PUBは2005年からプラントを建設しているが、2019年4月には、約9億シンガポール・ドル(当時の換算レートで約2400億円)の負債を抱え経営が行きづまったハイラックス社を接収している。同社は有名企業だった。今年4月には、ジュロン島に5番目となる海水淡水化プラントをオープンした。このプラントは島内の火力発電所内にあり、「運営管理は3人で済む」(PUB)などとコスト低減に努めている。このプラントだけで、同国の日量水需要の7%を賄えるという。

同国では様々な節水運動が行われ、料金体系・水保全税率も2017-2018年度にかけて引き上げられた。水関連の国際会議・展示会の開催も継続している。研究・開発振興に向けた2020年計画での水関連には6億7000万シンガポール・ドル(約660億円)を当てている。

■筆者プロフィール:中村悦二

1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)。

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