「脱中国」は非現実的!サプライチェーンの構築は政治の力ではできない

吉田陽介    2022年7月15日(金) 10時0分

拡大

ウクライナ情勢の影響を受けて、世界は「ロシアVS自由主義世界」の構図になり、中国に対する風当たりも強くなっている。資料写真。

ウクライナ情勢の影響を受けて、世界は「ロシアVS自由主義世界」の構図になり、「独立自主」外交を堅持し、世界のどの陣営にも与しない姿勢の中国に対する風当たりも強くなっている。

中国と割合良好な関係を保ってきたドイツも、メルケル時代と異なり、中国に対して厳しい姿勢をとるようになった。

■「政治は別問題」 経済交流を望むドイツの経済界

一方で、経済面では中国との経済交流を望む声もあるようだ。

4日付の経済日報は、「対話・協力の主な基調をしっかりと把握し、小異を残して大同につく、互恵・ウィンウィンの原則を堅持すれば、変局時代の中独関係は依然として安定して遠くまで進むことができる」と述べ、「ドイツ外務省は新たな『対中戦略』を策定し、中国を『系統的な競争相手』と見なそうとしており、ドイツのメディアは『メルケル時代』のドイツ政府の非対抗的な対中政策を変えるもの」だが、多くのドイツ企業にとって「大きな損失」となり、望ましくないとしている。

在外ドイツ商工会議所が2021年10月14日から11月3日に中国にある会員企業596社を対象に行った年次企業信頼感調査では、中国に平等な扱いを受けていないと答えた企業が少なくなかったものの、96%の企業が引き続き中国にとどまるとし、うち71%が事業を拡大すると答えた。

同調査によると、51%の企業が成長する中国の消費市場でより多くのシェアを獲得できると考えており、42%の企業が中国の科学技術イノベーションから利益を得られると考えている。

このことから、ドイツ企業にとって中国は依然魅力的な市場だということがわかる。

■政治的圧力に耐えて工場運営を続けるフォルクスワーゲン

その中で、フォルクスワーゲンは政治的圧力に耐えて中国新疆の工場運営を続けている。同社は政府の投資保証を延長しようとしたが、ドイツ連邦政府から「人権上の理由で」承認を得られなかった。

同社のヘルベルト・ディース(Herbert Diess)最高経営責任者(CEO)は5月末にドイツメディアの取材に対し、新疆にある工場を閉鎖することはないと明言し、フォルクスワーゲンが新疆に残留すれば、「地元の人々にとってもっとメリットがあるだろう」と語った。

フォルクスワーゲンが中国での投資保証を得られなくなったことは、中国でビジネスを行う中で、自力で解決できない問題に直面した時に、政府の力を使って解決ができないこと、資金調達の際に優遇条件を得られなくなることを意味している。

それにもかかわらず、フォルクスワーゲンは中国での工場運営を続けているのだろうか。同社のディースCEOは、中国は極めて重要な販売市場だとし、「中国は今や世界最大の自動車市場だが、人口比で見ると、中国の1人当たりの自動車販売台数は依然として比較的低く、1000人当たりの自動車保有台数は250~300台にとどまっている。ドイツは600台、米国は800台に達している」と述べた。この一連の数字を見るだけでも、中国は依然として世界で最も重要な自動車の成長市場だと結論づけられると強調した。

また、中国はフォルクスワーゲンの重要な生産拠点であり、サプライヤーでもある。ディースCEOは、中国を単なる販売市場とみておらず、中国の技術力を評価している。その上で、「中国との『デカップリング(切り離し)』は、成長と技術進歩との『デカップリング』でもある」とメディアに語った。

■「デカップリングは幻想」 相互補完性が強い中国・ドイツ経済

フォルクスワーゲンの事例は、ドイツ企業が中国から「デカップリング」することはマイナスとなることを示している。

4月6日付の環球ネットは、ミュンヘンに本部を置くドイツのIFO経済研究所が4月に発表した報告書を紹介した記事を掲載した。同記事は、IFO経済研究所が中国と輸入取引のある4000社のドイツ企業および卸売業者・小売業者を対象にアンケート調査を行い、46%の企業が中国からの川上製品が必要だと答えており、化学工業、電子設備分野での中国依存が顕著に現れており、そのうちドイツの化学工業分野の27%の重要原材料が中国から輸入されており、電子設備分野も21.4%を占めたと報じた。

環球ネットの記事はさらに、原材料分野での中国依存も進んでいることを指摘した。電動モーターを生産するための原材料の65%を中国から輸入しており、風力タービンや電気自動車の製造に不可欠なジスプロシウム、ネオジム、プラセオジムなどのレアアースの100%を中国からの輸入に頼っている。中国は太陽光発電パネル分野で原材料・技術ともに圧倒的優位を占めており、欧州全体の自社生産能力は5~6%にすぎない。

こうした状況を受けて、ドイツの一部政治家や専門家は「中国の人権状況」への懸念から、ドイツは今後「主に価値観の近い国と貿易を行うべきだ」と主張する。

ドイツ企業は矛盾した心理状態にある。一方では、自社のサプライチェーンが中国に過度に依存しないようにしたいと願っており、他方では、中国のサプライチェーンの強みや魅力を認めざるを得ず、それが中国を「捨てがたい」と思う要因になっている。

ドイツは中国との経済的往来を「突然」断ち切ることはできないため、ドイツが突然中国経済から「デカップリング」すれば、サプライチェーンは寸断されるだろう。さらに、中国との経済関係を政治的に「デカップリング」することは、中国の大市場から離れることも意味し、多くの企業にとっては大きな打撃となる。

中国との経済往来をある日突然断ち切ることはできないし、「ゆっくり」切ることも現実的ではない。

事実はその逆だ。2016年、中国はドイツ最大の貿易相手国となり、その後、二国間の貿易額は拡大している。昨年1年だけで、両国間の商品貿易額は2454億ユーロに達した。ドイツ連邦統計庁が今年5月4日に発表した報告書によると、2021年、中国はすでにドイツの海港コンテナ輸送の最大のパートナーとなっており、同年のドイツのコンテナ取扱量の5分の1を占めている。ドイツのコンテナ輸送で最も重要な提携先10港のうち4港が上海港、寧波港、深セン港、青島港といった中国の港だ。

現在、米国、欧州、日本では、中国との「デカップリング」、対中依存度を低下させ、「サプライチェーンの安全性」を確保するといった主張が世論の支持を得ており、西側諸国は中国抜きのサプライチェーンの構築の道を模索している。だが、この構想は真に実現可能かは未知数で、中国の世界経済での位置などを考えると、あまり現実的ではない。このことから、多くの多国籍企業が生産ラインを中国から撤退するとは現段階では考えにくい。

現在は改革開放前の冷戦が激しかった時期ではない。現在の状況が「新冷戦」という見方もあるが、経済のグルーバル化が進んでおり、社会主義世界と資本主義世界を分けた経済交流は困難だ。国際的なサプライチェーンを構築するのは、市場の力ではなく、政治の力ではない。

前出の経済日報の記事が指摘するように、「小異を残して大同につく、互恵・ウィンウィンの原則」のもとでの経済交流が現実的だと筆者は考える。

■筆者プロフィール:吉田陽介

1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大学大学院卒業後、北京に渡り、中国人民大学で中国語を一年学習。2002年から2006年まで同学国際関係学院博士課程で学ぶ。卒業後、日本語教師として北京の大学や語学学校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中国共産党の翻訳機関である中央編訳局で党の指導者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中国の政治や社会、中国人の習慣などについての評論を発表。代表作に「中国の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別・肥満・彼女追っかけまで代行?」、「中国でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

この記事のコメントを見る

ピックアップ



   

we`re

RecordChina

お問い合わせ

Record China・記事へのご意見・お問い合わせはこちら

お問い合わせ

業務提携

Record Chinaへの業務提携に関するお問い合わせはこちら

業務提携