老子の思想は現代と未来の人類社会を救うために有効だ―東欧の研究者が解説

中国新聞社    2022年6月25日(土) 23時30分

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日本人ならば、古代中国の老子が説いた「無為自然」という言葉に接した場合、なんとなく見当がつく。ではキリスト教文化の影響が強かった欧州人が老子の思想に接した場合、どのように感じるのだろう。

日本は古くから中国の文化を受け入れ学んできた。だから、例えば紀元前の老子が説いた「無為自然」と言われても、なんとなく見当はつく。では、キリスト教文化の影響が強かった西洋人が老子の思想に接すると、どのようなことを感じるのだろうか。スロバキア最高の研究機関であるスロバキア科学アカデミーの上級研究員などを務めるマリナ・チャルノグルスカ氏は、老子「道徳経」及び漢代に書かれた注釈書をスロバキア語などに訳した経験を持つ。チャルノグルスカ氏はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材を受けて、老子の思想に対する自らの見方や欧州における反応を語った。以下はチャルノグルスカ氏の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

■キリスト教文化圏に生まれたが、次第に疑問を持つようになった

私はスロバキアの伝統的なカトリックの家庭に生まれた。しかし成長するにつれて、キリスト教は人間の生命の真理ではないことに気づいた。人は世界をさまざまな方法で見ることができるが、人が生活する宇宙を神が創造した空間と定義することはできない。私は国と国、人と人の間の「善し悪し」「善し悪し」をどう考えるべきかと考えるようになった。

私は「道徳経」や「荀子」などを学んだ結果、中国の哲学者が西洋の哲学者よりも地球や自然、人間社会の真実の法則を現実的に観察していると考えるようになった。西洋哲学における「一神論」の信仰は、現実から逸脱している。西洋世界は中国哲学の知恵を受け入れて学び、人類のさまざまな行為によって地球が受けた損害を補い、人と人との協力、団結の真実の関係を築く必要があると思う。

アリストテレスは紀元前384年に生まれ、同322年に亡くなった。老子はアリストテレスより先に生まれたと見られているが、二人はほぼ同時代の人だったと言ってよいだろう。両者は政治や道徳についての考え方に多くの共通性がある。

もちろん老子とアリストテレスには大きな違いも存在する。老子は「全ての生命は生から死に至る、逃れられない過程にある」と考えた。それが「道」だ。そして超自然的な神が生命を創ったのではないとした。老子によれば「道」が「徳」を創った。この法則を無視すれば、自然の脅威にさらされると考えた。

古代ギリシャでアリストテレスの師だったプラトンは、人間が世界の中の主体であるという個の思想世界を発見した。アリストテレスはこの世界観をさらに論理的に延長した。アリストテレスの思想は後に宗教と神学に組み込まれて西洋思想の主流になった。壮大な神学思想を得た西洋人は、全世界はキリスト教化されねばならないとの信念を持つに至った。

■対立者との共存目指す中国思想、対立者の征服めざす西洋思想

中国の哲学には「陰」と「陽」という概念がある。「陰」と「陽」は対立する一方で、相互に組み合わさることで統一をもたらす。対立と統一とは、異なるものが共存することでもある。中国の思想では、人と自然も調和して共存することが理想と考えられる。

しかし西洋の発想では、対立するものは「征服されるべき」存在だ。つまり、闘争が強調される。西洋人は今も、「対立と闘争」の発想を強く持つ。

西洋哲学史を調べれば、対立する考えを持つ相手と闘うことを必要と考える傾向が強いことが分かる。そして西洋人は、生活においても「反対派」を一掃しようとする。このような発想は、世界にとって極めて危険だ。西洋の政治家は、この発想によりイデオロギーの戦いに勝利しようとするからだ。

私は、西洋は中国哲学に啓発されるべきだと考える。現代社会では「相互共存」がこれまで以上に重要だからだ。

「聖書」は、生命は神により創造されたと説く。老子「道徳経」は自然と生命の法則をそのまま説く。私は「道徳経」の方が「聖書」よりも「命の知恵」を正しく表現していると考える。

「道徳経」を翻訳する前段階としては、チェコの哲学者のエゴン・ボンディ氏と、王弼(226-249年)の著作を研究した。例えば王弼が記した「道徳経」の注釈は、老子の思想を考える上で極めて重要だ。

ボンディ氏は2007年4月に他界したが、私はその年に中国に行った際、漢代の河上公という人物が著した「道徳真経注」を見て、こちらの方が見出しの簡潔さや全章に注釈があることなどから、現代の読者には適していると考えるようになった。

翻訳作業が終わったのは2020年で、2022年になってから対訳の形式の書物として出版された。部数は3000冊と少なかったが、スロバキアの人口が550万人程度であることも考え合わせてほしい。とにかく、この3000冊は発売直後に完売した。

■訳書が大評判に、未来の世界を救うために有効な思想だ

スロバキアの読者はこの対訳書に強い関心を持った。そのため主要紙やテレビ番組から取材依頼を受けるほどだった。スロバキア人は、その他の西洋の民衆のように西洋の世界観やキリスト教の信仰を守ってきたが、今ではそれらの観念の合理性を疑問視する人が多い。人間の生命の規則については、西洋哲学よりも正確で真実な説明を『道徳経』に見出したのかもしれない。

欧州の研究者は今も、「闘争」についての解釈と研究を続けている。かつての十字軍を思い出せば理解できるはずだが、「あらゆる矛盾を解決する」という考え方は、際限のない宗教戦争を招く。このような状況が続けば、人類社会は将来、巨大な悲劇に見舞われかねない。

西洋人はもちろん、よりよい生活を望んでいる。中国哲学の知恵も徐々に理解してはいる。しかし、伝統的な考え方の束縛から解放されることは、容易ではない。

西欧で非理性的な「反中」感情が台頭しているのは、東西の思想観念が衝突しているからではないだろうか。私は、東西文明の相互学習を強化するにはどこから着手すればよいのかとも考えている。

地球における人類の未来には、搾取や侵略ではなく、全人類の協力が必要だ。戦争は遠のいたように見えるが、現実はそうでない。中国古典哲学の知恵は人類文明の世界により前向きな思考を提供してくれる。私も中国古典哲学の世界観をできるだけ世界に広めねばならないと考えている。

文化そのものに良し悪しはない。しかし、目指すべき方向を間違えてしまうことはある。世界の文明の発展は想像をはるかに超えている。私は西洋と東洋が兄弟のような関係になる日が来ることを願っている。(構成 / 如月隼人

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