香港、待望の訪日旅行解禁だがジレンマも

野上和月    2022年6月1日(水) 16時30分

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日本が6月10日から、約2年ぶりに外国人観光客の受け入れを再開するのを受けて、日本好き香港人からは「故郷に帰れる!」などと喜びの声が上がっている。写真は5月に香港1号店を開店したマツモトキヨシ。

日本が6月10日から、約2年ぶりに外国人観光客の受け入れを再開するのを受けて、日本好き香港人からは「故郷に帰れる!」などと喜びの声が上がっている。ただ、少人数の団体旅行に限るうえ、香港に戻ったら7日間の強制隔離があるなど、ネックもあり、ただちに日本観光にでかけるというわけにはいかなそうだ。

香港人は、長期の休暇となれば、たいてい海外に遊びに行くが、なかでも日本は人気の観光先。「第二の故郷」と言ってはばからないほど、無類の日本好きが多い。

2003年に日本を訪れた香港人観光客はわずか26万人余りだったが、新型コロナが流行する前の2019年には過去最高の約230万人が訪れた。埼玉県の人口とほぼ同じ程度の約740万人の香港から、実に約3.2人に1人の割合で日本に遊びにやってきていたのだ。しかも、この人数は、同年の訪日観光客約3200万人の約7.2%を占めるから、いかに香港人の「日本愛」がすごいかがわかる。

これほどまでに日本が人気なのは、四季折々の自然があるだけでなく、品質のよい商品や心地よい“おもてなし”に触れることができる国だからだ。一昔前までは、コストが高く、憧れの観光地だった日本が、経済的に豊かになった香港人にとって、ここ数年は観光だけでなく、グルメやショッピングでも存分に楽しめる身近な旅先となったのだ。


外国人観光客の訪日受け入れ禁止中も香港で日本の観光を宣伝

一昔前は、多くの日本人が香港を「買い物天国」、「グルメ天国」と言って訪れていたが、今はまさにその逆が起こっているといってよいだろう。

新型コロナが流行する前までは、従来の航空会社に加えて、格安航空会社(LCC)が香港と日本各地を結ぶ路線を次々と就航させていったから、日本全国津々浦々まで旅する香港人が増えていった。

旅の形態も、一人旅から友達同士や、家族旅行まで様々で、個人旅行やツアーに参加して日本を訪れる。口コミで旅先の評判や情報が伝わり、「次はここに行ってみよう」というリピーター客が多いのだ。

日本が新型コロナの水際措置として、2020年に外国人観光客の門を閉ざすと、“日本ロス”となった香港人たちは、香港に出店している総合ディスカウントストア「ドン・キホーテ」で日本の製品を買ったり、回転寿司の「スシロー」で寿司を食べたりして、日本気分を味わっている。今年5月にオープンしたドラッグストア「マツモトキヨシ」も含めて、いずれの店舗も大勢の香港人客でにぎわっている。彼らはこれらの店舗で“日本ロス”を紛らわしながら、「日本旅行のために、有給休暇を使わずに取っておく」、「いつになったら日本に行けるのか」など、訪日再開を心待ちにしていのだ。


ドン・キホーテはどこの店舗も香港人で大盛況

特にここ最近は、円安が進み、一時1米ドル=131円台と2002年4月以来およそ20年ぶりの円安・ドル高水準を付けたことも、日本旅行への気持ちを一層かき立てている。香港ドルは米ドルとリンクしているので、香港ドルでも米ドルと同じように円安の恩恵を受けられるからだ。

例えば、日本の声優アーティストのファンで、毎年2~3回はイベント参加を兼ねて訪日していた30代の男性は、円安傾向が進む中で100万円以上の日本円を確保した。20代の夫婦は、「旅行用の軍資金だけど、これだけ円安が進めばいずれ円高に振れるだろうから、投資としての妙味もある」と、10万香港ドル(約160万円)以上も日本円に換えた。こんなふうに、来るべき日本旅行に備えて日本円を買い集め、用意万端の状態だ。


スシローの店舗前で順番を待つ香港市民

そんな中、6月10日に解禁される外国人の訪日観光。

香港は感染リスクが低い地域と判断され、日本入国時にウイルス検査も隔離も不要だ。ワクチン接種の有無は不問とされるので、日本が認めていない中国製ワクチンを接種していた香港人も訪日できると、安堵感が広がった。

ただ、香港人はリピーターが多いが、日本観光は少人数の団体ツアーに限定される。また、香港は水際対策を緩めておらず、香港に戻ってから検疫ホテルで7日間の隔離生活が必要だ。ツアー料金も割高――という点が、立ちはだかる。

日本旅行に力を入れている旅行会社は、早速6月11日から団体ツアーを実施する。東京と立山黒部などを回る7日間のツアーで、料金は3万香港ドル弱(約48万円)だ。参加者はこの料金に香港の隔離ホテル代を加算しなくてはならない。別の旅行会社は、8月から、大阪とその近郊を巡る14日間のツアーを実施する予定だ。香港の隔離ホテル代を加えて約4万香港ドル(約65万円)になる見込みだという。

コロナで航空会社が香港―日本便を大幅に減便したことからエアチケット代が値上がりしていることや、少人数での団体旅行となるため、ツアー代は通常よりも割高になる。さらに香港での隔離期間も合わせると、会社員には時間的にも海外旅行に出かけにくい、といった事情がつきまとうのだ。

この2年あまり、コロナで海外旅行に行けずに、ウズウズしている香港人は多い。日本なら多少ツアー代が高くても需要は多いと見る向きもある。一方で、「日本は何度も訪れており、自由に好きなところに行けなければ意味がない。個人旅行が解禁されるまで我慢する」と考える香港人もまた、少なくない。

晴れて「故郷に戻れる」状況になるとはいえ、日本に行きたい気持ちと、旅につきまとう条件や規制を天秤にかけ、心揺れる香港人は少なくなさそうだ。(了)

■筆者プロフィール:野上和月

1995年から香港在住。日本で産業経済紙記者、香港で在港邦人向け出版社の副編集長を経て、金融機関に勤務。1987年に中国と香港を旅行し、西洋文化と中国文化が共存する香港の魅力に取りつかれ、中国返還を見たくて来港した。新聞や雑誌に香港に関するコラムを執筆。読売新聞の衛星版(アジア圏向け紙面)では約20年間、写真付きコラムを掲載した。2022年に電子書籍「香港街角ノート 日常から見つめた返還後25年の記録」(幻冬舎ルネッサンス刊)を出版。

ブログ:香港時間
インスタグラム:香港悠悠(ユーザー名)fudaole89

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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