若者・子育て世帯重視に政策転換を―このままでは「消滅可能性国家」に?

長田浩一    2022年4月6日(水) 6時50分

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いささか旧聞に属するが、3月初めに内閣府が発表したリポート「我が国の所得・就業構造について」には二つの意味で驚かされた。

いささか旧聞に属するが、3月初めに内閣府が発表したリポート「我が国の所得・就業構造について」には二つの意味で驚かされた。一つは、1994年から2019年の25年間で、働き盛り世代の世帯所得が92万~195万円も減少したという事実。もう一つは、長年政権を担っている与党の経済失政の結果と言われても仕方のないこの事実を、野党でも民間の調査機関でもなく、政権のおひざ元の内閣府が発表したという点だ。

◆働き盛りの年収、25年で92万円以上減少

同リポートによると、全世帯の年間所得(再分配前)の中央値は、高齢者世帯や単身世帯の増加などもあり、1994年の550万円から、2019年には372万円に減少した。すべての年代で減少したが、特に目を引くのが働き盛り世代の減収。35~44歳は657万円から565万円に、45~54歳は826万円から631万円に、それぞれ大きく減少した。25~34歳の若者世代も、470万円から429万円に所得を減らしている。

これに対し65歳以上の高齢世帯は、年金が収入の中心なので再分配後の数字の方が実態をよりよく表していると思うが、317万円から291万円と、相対的に減収幅は小さかった。

なぜ内閣府が、このタイミングでこうしたリポートを発表したのか。その政治的な意図や影響についてはここでは触れない。若者や働き盛りの収入減少についてはこれまでもエコノミストらが指摘しており、驚きではないという見方もあるかもしれない。それにしても、その事実が内閣府によってこれだけ明確に提示されたことのインパクトは大きい。そして、出産・育児と子供の教育を担うこの世代の収入減が、社会にどのような影響をもたらしているのか、改めて考えざるを得ない。

◆若年世代の収入減が経済低迷の主因

私は2月25日付当欄で、日本の30年にわたる経済の低迷について、バブル崩壊後に経済界が内向きの姿勢を強めているのが一因ではないか、と指摘した。その考えに変わりはない。しかしこのリポートを踏まえると、内向き姿勢と並んで、あるいはそれ以上に、若い世代の収入減と少子化が響いているように思える。

3月23日付朝日新聞「経済気象台」のペンネーム「龍」氏が、その点を鋭く突いている。「(長引く経済低迷の理由として)少子化、人口減少がその根源であると言ったら、なんだとあきれられるだろうか。…なぜ少子化が進み、人口減に陥っているかと言えば、若い世代が結婚できるだけの仕事と所得を得ていないという単純な事実に突き当たる。」まさにその通りだろう。

◆子供が経済を活性化

なぜ少子化が経済の低迷をもたらすのか。もちろん人口が減ること自体が経済活動のマイナス要因だが、それだけではない。子供には、社会を明るく、元気にするとともに、前向きの消費を喚起する力がある。

子供が生まれると、多くの親は多少無理してでもより良い食事、衣服、教育を与えようと努力する。祖父母も、孫の喜ぶ顔見たさにおもちゃを買ったり、高いランドセルをプレゼントしたり、遊園地に連れて行ったりする(私自身、最近孫が生まれたのでこの気持ちは良く分かる)。子供が多く生まれれば、それが新たな消費を生み、社会を活気づけていくわけで、経済へのインパクトは極めて大きい。

◆昨年の出生数、団塊世代の3分の1

しかし実態は逆の方向に進んでいる。厚生労働省によると、2021年の出生数(速報値)は84万2897人で、6年連続で過去最少を更新した。団塊の世代の3分の1、団塊ジュニア世代と比べても半分以下の数字だ。最近2年間については、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に結婚する人が減ったうえ、既婚者の間でも妊娠を控える動きが強まったのが響いたと見られるが、中長期的には収入の減少が当然影響しているだろう。

何年か前、「消滅可能性都市」という言葉が取りざたされた。若年女性人口(20~39歳)が減少して人口の再生産力が低下し、その結果総人口の減少が見込まれる自治体のことだ。これはあくまで自治体を対象とした概念だが、このまま少子化が進めば、日本全体で人口の再生産力が一段と低下し、「消滅可能性国家」となってしまうかもしれない。そうならなかったとしても、「失われた30年」と呼ばれる経済の低迷が、さらに40年、50年と続くかもしれない。

◆大胆な少子化対策を!

そうした事態を避けるためには、若い人たちが安定した収入を得るとともに、結婚しやすく、子供を産み育てやすい環境を整えることが急務だ。具体策としては、最低賃金や初任給の引き上げ、非正規社員の正社員化、保育所の増設、男性の育児休業取得の義務化、生前贈与の非課税枠拡大、出産・子育てに関する各種手当の大幅増額と税制優遇などが考えられる。

私にはこのくらいしか思いつかないが、もっと効果的な施策があるかもしれない。とにかく、政府と経済界が一体となって、前例にとらわれない大胆な少子化対策を推進する必要がある。財源が足りないというなら、高齢者福祉を多少犠牲にするのもやむを得ない。もっとも、参院選を控えて高齢者の票が欲しいあまり、年金受給者への一律5000円給付を提案するような政治家に、将来を見据えた政策転換を期待する方が無理筋かもしれないが。

■筆者プロフィール:長田浩一

1979年時事通信社入社。チューリヒ、フランクフルト特派員、経済部長などを歴任。現在は文章を寄稿したり、地元自治体の市民大学で講師を務めたりの毎日。趣味はサッカー観戦、60歳で始めたジャズピアノ。中国との縁は深くはないが、初めて足を踏み入れた外国の地は北京空港でした。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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