私たち3人には毎日新しいマスクを配り、自分は1枚のマスクを使い続けた日本の支配人―中国人実習生

日本僑報社    2022年3月5日(土) 11時30分

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「今まで勉強した日本語は活かせるのかな」「日本社会は人間関係が希薄になっていると聞くが、実際はどうなんだろう」と、さまざまな不安と疑問を抱えながら、実習のホテルに着きました。

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窓の外、雪は降りやむことを知らずに周りの山を白く染めていました。雪を見たことはありますが、こんな静かで真っ白な雪景色は初めてです。美しすぎて思わず、「まさに雪国なんだなあ」とつぶやきました。私がここにいるのは人生初の海外実習のためです。

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「今まで勉強した日本語は活かせるのかな」「今身につけているビジネスマナーで大丈夫なんだろうか」「日本社会は人間関係が希薄になっていると聞くが、実際はどうなんだろう」と、さまざまな不安と疑問を抱えながら、実習のホテルに着きました。

迎えてくれたのはホテルの支配人でした。支配人はあんまり表情を変えることなく、淡々と仕事内容などについて説明してくれました。冷たい気もしましたが、「偉い人なんだから。外国の実習生に自ら説明するだけで十分だ。重要なのは仕事じゃないか。よし、頑張れ!」と自分を励ましながら、実習生活が始まりました。

最初のころは、何もできず、話し相手もいなくて、ただ、フロントの隅に立って、働いている先輩たちを見ながらメモをとるしかなかったです。とても心細く、つらく感じました。そんな私の様子に気づき、時々支配人がいろいろ教えたり、助けてくれました。正直びっくりしました。あんなに偉く、忙しい人が私みたいな実習生を相手にするとは想像もしませんでした。

その後は、仕事にもだんだん慣れて、楽しく毎日を過ごしました。しかし、突然全世界で猛威をふるった新型コロナウイルスの影響で、観光客が激減し、毎日予約キャンセルの電話の対応に追われていました。日々感染状況が厳しくなる中、ホテルの従業員全員が、マスクをつけて仕事をするように言われました。今回の新型肺炎が中国で感染が広がったことで、同じく実習にきた北海道の別のホテルの友達は、職場の従業員に差別的なことを言われたそうです。

そんな厳しい状況の中、運悪く私は熱を出してしまいました。支配人が病院まで付き添ってくれました。その時は何も考える余裕がありませんでしたが、翌日、出勤の時、皆に白い目で見られるんじゃないかととても不安でした。しかし、「おはよう!体調もう大丈夫ですか。うん、良かった。じゃ、今日もよろしくね。あ、マスクは?なかったらあそこにあるよ」と支配人がいつも通り優しく話しかけてくれました。あまりにも意外だったので、言葉が出ず、ただ「ありがとうございます」としか答えられませんでしたが、心の中はいつもより温かかったです。

その日の夜、支配人と打ち合わせした際に、支配人の使い捨てのマスクが毛羽立ってボロボロになっていることに気がつきました。マスクの入手が困難の中、私を含めて中国からの実習生3人には毎日新しいマスクを配りながら、支配人は1枚のマスクを何回も消毒して使っていたのです。

思い返せば、支配人はいつもそうでした。パソコンに向かって仕事をしている時も、そのほかの場所でばったり会った時も、必ず向こうから先に元気な声で「おはようございます!」と声をかけてくれました。フロントでタバコを買う時にもやさしく「ありがとう」と言ってくれます。いつも同じコートを着ていて、私たちがドラマでよく見る偉そうにいかめしく振る舞う支配人とは全く違います。きっと、初めて外国で仕事をしている心細い私たちを常に気遣ってくれていたのだと思います。

その後も、差別されることなく、無事に3カ月の実習を終えることができました。その優しさに、何回「ありがとう」と言っても、感謝の気持ちは伝え切れません。

彼から学んだことは、「大人の社会人としてどう振る舞うべきか」「仕事への向き合い方」です。さらに、「本当の国際人とは外国人に対しても相手の立場や気持ちに寄り添い、心配りできる人だということ」に対する気づきです。未曾有の非常事態の中でこそ分かる人間性に、国による違いはないと思います。

■執筆者:陳瑶(煙台大学)

※本文は、第16回中国人の日本語作文コンクール受賞作品集「コロナと闘った中国人たち」(段躍中編、日本僑報社、2020年)より「ありがとうと伝えたい」を転載・編集したものです。文中の表現は基本的に原文のまま記載しています。なお、作文は日本僑報社の許可を得て掲載しています。

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