<日中100人 生の声>コロナの沼で咲いた華―神康文 春花園BONSAI美術館館長

和華    2022年2月26日(土) 18時20分

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小林國雄親方は手紙3枚も書いて、秀蓮と結婚することを勧めてくれました。写真:多くの方々と盆栽に見守られながら結婚式を開催。

駐車場を埋め尽くす大型バス、館内にあふれる世界各国の笑顔、そしてオリンピックを想定して温めていた数々のイベント…。そのすべてが消えました。当然年間3万人以上の入館者が訪れていた春花園BONSAI美術館の売上は大幅に落ち込みました。

この苦境を打開しようと盆栽の宅配オンライン創作体験、インターネットを利用したライブでの盆栽健康診断、盆栽のレンタル業務プラン作りを行ったものの、外国人のお客様をもてなし続けてきた私達は苦闘を強いられ続けています。

そんな中、中国系メディアの取材依頼メールが入りました。その書き手こそ日中文化交流誌『和華』編集長、孫秀蓮でした。彼女が偶然テレビで報道されていた一億円の盆栽作家、小林國雄を知ったことがきっかけです。そして2020年10月18日、取材の打ち合わせに訪れた彼女を案内したのが私でした。

小柄な彼女が口を開けば日本と中国、双方の伝統文化を担う先輩方の話が滝の流れのようにほとばしり、気がつけば館長である私の方が日中文化の案内をされていました。専門家として一つの分野を深く語る人は多くいます。しかしこれほど多くの人と交流があるとは。きっと彼女は根っから働き者で、人が好きなんだろうなと思いました。

後日、盆栽作家として国内外から536回以上の取材を受けてきた小林國雄親方は彼女の取材を受けてふとつぶやきました。「あの取材の娘はただ者じゃない。神くん、ああいう活発な娘はいいぞ」と。こうして親方の大推薦の下、私たちはコロナ禍に関わらず密に連絡を取り始めました。

親方の元で数多の取材文校正をしてきたこと、中国を筆頭とした120名を超える外国人弟子たちと交流してきた経験、なにより年中親方の仕事を補佐する私にとって、彼女に仕事のことも理解され、しかも話題が尽きないということは人生最大の幸福と言っても過言ではありません。

私たちの付き合いはまだ短くとも、公私共にお互いを深く理解していました。そこで結婚前提での付き合いを青森の実家に住む両親含め、姉、伯母に報告することにしました。しかしその反応はお正月に地震、雷、火事、台風を同時に味わうかのような反発。急接近した私たちは家族全員に「中国という国は信用ならない!中国人と結婚するのは反対!」と口を揃えて反対されます。

見かねた小林國雄親方は手紙3枚も書いて、秀蓮と結婚することを勧めてくれました。それも虚しく、どうしても断固反対…。私は家族に孫さんの人柄を見て欲しかったが、理解してもらえない日々が続きました。

そして小林親方に相談をして決断しました。ついに反対を押し切り、2021年2月1日、両親に内密のまま出会って3カ月半で電撃入籍したのです。「たとえ家族から絶縁されても、秀蓮との人生を歩みたい」。そう強く思いながら結婚式を計画し始め、式場は2人が出会った春花園BONSAI美術館になりました。

しかし、妻となった秀蓮は「産んでくれた両親に感謝しなさい!結婚式に来てもらおうよ!」と。 その言葉に私も改めて心を込め、思い切って家族へ1カ月先に迫る結婚式の招待状を出しました。

両親は初めて電話で4人で話そうと言われ、 挨拶すら許してくれない状況からようやくテレビ電話での四者面談が叶いました。最初は取調べのような空気で、中国の政治体制、孫家の家族構成、仕事に対する姿勢などの質問の連続でした。彼女が答えるごとに少しずつ両親の表情がほころび、最後は笑って話しができるまでになり、「結婚式に喜んで参加します」と言ってくれました。

そうして2021年5月19日。降りしきる雨の日の結婚式場には、お世話になっている80名のみなさまを東京都の許可の元、万全のコロナ対策をしてお招きしました。

挙式は日本と中国両方の文化を織り交ぜ、中国の「茅台酒」がスポンサーとなり、樹齢千年を超える盆栽が人の営みを見守る世界初となる「盆前婚」を行いました。盆栽入刀で協同作業を終え、切られた枝の数が子孫繁栄を象徴します。そして中国周の時代の結婚儀礼を取り入れた「漢服式」、中国の伝統芸能「変面」のパフォーマンス…、とりわけお世話になった方々の前で晴れの門出を祝っていただけたことは、本当に貴重で一生忘れられない経験となりました。

私たち2人は育った文化は違いますが、今後は秀蓮と一緒にどんな苦難でも乗り越えていけると信じています。最高の相談役として今年で50年目の金婚式を迎えた親方夫婦もそばにもいます。人生の山も谷も、味わい尽くした生きる智恵を勉強させてもらっています。

今年で結婚50周年を迎えた小林親方夫婦

「彼女はあなたの人生軌道を修正する」と小林親方がよく言った通り、2人の暮らしでは毎日彼女の鋭いツッコミが冴え渡ります。寅年と辰年の私たち2人は時にぶつかることもありますが、歳下の龍は先手を打って大人しく虎の尻に敷かれることで笑いの絶えない夫婦生活を送っています。

コロナ禍の中で天から授かった縁を活かし、私と妻秀蓮は、お世話になった人々、日本と中国、そして世界中の人々、全てに希望と愛に満ちた未来が訪れることを期待しております。

結婚式に出席した筆者の両親と一緒に

※本記事は、『和華』第31号「日中100人 生の声」から転載したものです。また掲載内容は発刊当時のものとなります。

■筆者プロフィール:神康文(じんやすふみ)


春花園BONSAI美術館館長。1988年青森県生まれ。東海大学文学部アジア文明学科卒業後、盆栽界の鬼才小林國雄に内弟子入門。6年間の修業期間で海外からの研修生、お客様との交流を通じて英語と中国語を習得し、外国人お客さん対応の窓口を担当。2018年より春花園BONSAI美術館の館長に任命され、SNSなどを通して国内外へ盆栽芸術の魅力を発信している。

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