<日中100人 生の声>再び懇親会を開催できるその日を願って―泉川友樹 日中交流団体職員

和華    2022年2月19日(土) 14時30分

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「2月1日の春節懇親会は中止します」。私のコロナ禍はこの連絡から始まった。写真は2018年春節懇親会。

「2月1日の春節懇親会は中止します」。私のコロナ禍はこの連絡から始まった。

1年で最も月が丸い「中秋節(中秋の名月)」と全く月がない「春節(旧正月)」。中国人にとっては帰郷して一家が集い、絆を確かめあう大切な日だ。何かの理由で中国に戻れず日本で中秋節や春節を過ごす中国の友人のために、中国に興味のある方々と一緒に楽しんでもらおうと懇親会を企画してもう10年以上続けている。参加者は私がこれまでに出会った中国人や中国に興味のある人達。国籍、年齢、性自認、職業、思想・信条、信仰、中国語のレベルなどは関係ない。ひたすら食べ、飲み、語り、楽しむ会だ。始めた頃は10名程度の参加だったが、フェイスブックや微信などで交流の輪が広がったこともあり、この数年は毎回30~40人が集う大イベントになっている。

2020年もこれまで通り春節懇親会を企画していた。そのような中、突如襲ってきたのが2019年末から武漢で流行し始めていた新型コロナウイルス「Covid-19」。中国はこの未知のウイルスの脅威を認識してからは非常に強い行動制限措置を取り、1月23日には感染が拡大していた湖北省武漢市を封鎖した。日本では1月14日に国内初の感染者が確認されたがその数はわずかだったため、私は当初コロナを「対岸の火事」だと思っていた。しかし、感染者が徐々に増え始め、WHOが1月30日に緊急事態を宣言したことから不要不急のイベントは控えるべきと判断し、春節懇親会を急遽中止することにした。感染拡大は今も続いており、残念ながら1年半経っても開催できていない。ただ、今思えばリスクコントロールのために下した当時の決断は間違っていなかったと思う。

武漢封鎖後、中国は他の地域でも同様の厳しい措置を講じ、春節休暇も重なったことから工場が全面的に稼働を停止してマスクなどの医療物資不足が深刻化した。ほどなくして、日本在住の中国人から「マスクを中国に送りたいが、入手可能か」との問い合わせが職場に相次いだ。幸い、職場は新型インフルエンザ対策のために早くからマスクの調達ルートを確保していたため、彼らの要望に迅速に応えることができた。私が事務局長を務める「琉球経済戦略研究会」からは2月10日に子ども用マスク6000枚と医療用手袋1万枚を沖縄県の友好省である福建省へ寄贈した。琉球国の時代から続いてきた福建省との長い友好往来を表す「守禮之邦 源遠流長(礼を守る国の往来は悠久の歴史を刻む)」をメッセージとして添えた。

福建省への支援物資

その後、中国は3カ月程度で感染拡大の封じ込めに成功し、4月8日には武漢の封鎖も解除された。しかし、この頃には新型コロナウイルスが世界的に流行し、日本でも感染が拡がっていた。4月7日には第1回目の緊急事態宣言が発令され、自粛要請を中心とした各種制限措置が採られた。今度は日本でマスクが手に入らなくなった。

「一方有難 八方支援(困ったときはお互い様)」。この時期には「中国が厳しかった時に助けてもらったお返しに、今度は中国から日本にマスクを送りたい」との連絡が続々と寄せられた。中国国際貿易促進委員会福建省委員会、中国国際貿易促進委員会大連市分会、在日中国企業協会、深セン易聯技術有限公司などから合計で10万枚以上のマスクの寄贈があり、その内、約7万枚が私の故郷の沖縄県及び那覇市に贈呈された。大連からの支援物資には「たとえ遠く離れていても心は共にある」という王融の詩「寸心無遠近 日月共為照」が添えられていた。その心遣いが非常に有難く、嬉しかった。また、私自身には日本政府から10万円の特別給付金があったので、同窓生の中国の友人2名と一緒にマスク3000枚を購入し、母校の沖縄国際大学に寄贈した。現在、日本も中国もマスクの生産体制が整い供給不足問題は解消されたが、このように困難な時期に互いに励まし合い、助け合った経験は今後に活かされると確信している。

コロナ禍に見舞われた私の2020年はこのようにして過ぎ去った。2006年から今の職場に勤めているが、1度も中国に行かなかった年はこれが初めてだった。この間、以前と変わったことといえば、中国に対する理解を深めようと中国関連の書籍を読み返したことだ。友人にも『文化苦旅』、『敦煌』、『花甲録』などを読むように勧めた。

昨今はコロナ禍で人的往来や直接交流が滞った結果、多くの人が中国の状況を知るのに間接情報のみに頼らざるを得なくなり、誤解に基づく理解や極端な中国観が広がってきたように思う。個人的には中国ほど複雑で多様性に富んだ国はないと思っており「これが中国だ」という一面的な見方が社会を覆ってしまうのに若干の不安を感じている。そこで、最近は個人的に新聞や雑誌に投稿したり、知人のラジオ番組やYou Tubeに出演したりして、中国に対する私なりの見方を紹介するようになった。等身大の中国を立体的に捉えるための一助になればと考えている。

知人のラジオ番組に出演

現在、中国も日本もワクチン接種が進んでいる。新型コロナウイルスのリスクを大きく低減できれば、日本も中国も早晩交流が全面再開されるだろう。来年9月には日中国交正常化50周年を迎える。そのころまでには社会活動がコロナ前の水準に戻ってほしい。そして、その時には中止していた中秋節や春節の懇親会を開催し、中国の友人と国交正常化50周年を大いに祝いたい。

※本記事は、『和華』第31号「日中100人 生の声」から転載したものです。また掲載内容は発刊当時のものとなります。

■筆者プロフィール:泉川友樹(いずみかわゆうき)


日中交流団体職員。1979年沖縄県生まれ。2003年北京外国語大学に留学。その後、通訳者養成学校インタースクールで「中国語通訳コース本科Ⅱ」修了。中国語講師等を経て、日中経済交流促進団体に就職し現在に至る。要人会談(習近平李克強温家宝等)を含め通訳実績多数。中国語検定1級、旧HSK11級(高等A級)、全国版中国語通訳案内士

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