外資系企業、中国への投資に「政治リスク」は関係なし

吉田陽介    2022年2月11日(金) 23時0分

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中国でのビジネスを語る場合、政治上・経済上のリスクがあり、難しいという話が経済系のメディアなどでよく聞かれる。いわゆる「チャイナリスク」論である。写真は北京冬季五輪開会式。

■「チャイナリスク」は本当に存在するか

中国でのビジネスを語る場合、政治上・経済上のリスクがあり、難しいという話が経済系のメディアなどでよく聞かれる。いわゆる「チャイナリスク」論である。中国は日本や欧米とは政治体制が違い、政府の方針転換があると、経済活動が影響を受けるということはある。また、改革開放40年、年2桁の高成長をキープしてきた中国は、これまでのようなスピードでの成長ではなくなってきており、成長低下のリスクがある。

こうしたリスクは、外国企業の中国からの撤退論の根拠になっているが、果たしてそうだろうか。

周知のように、中国経済は昨年後半に減速が顕著となったことに加え、秩序正しい競争を促進するため、中国政府は独占的企業に対し厳しい措置をとった。「チャイナリスク」論の立場に立てば、外国企業の投資意欲は低下していることになる。

だが、中国は現在も数多くの海外投資を引きつけており、外国企業にとって魅力的な投資先になっている。

米中貿易摩擦に端を発した両国の対立により、米中「デカップリング」論が出るなど、米中経済交流も冷え込むかと思われたが、米国のウォール街はこれまで以上に中国市場に熱視線を送っているようだ。

中国商務部は1月13日、中国は昨年外資を誘致して2桁の成長を実現し、外資誘致は過去最高を更新したと述べた。このうち、米中の激しい競争、政府の監督管理のプレッシャーにさらされているハイテク産業の投資誘致も17.1%増に達した。

2000年以降、中国のベンチャー投資取引の動向を追ってきた英調査会社のプレキン(Preqin)が発表した最新のデータによると、2021年、ベンチャーキャピタルによる中国のスタートアップ企業5300社への投資は計1290億ドルに達し、2018年の1150億ドルを抜いて、過去最高となった。

1月12日付けの米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、ここ2年間、中国へのベンチャーキャピタル投資が増えており、これまでの電子商取引分野ではなく、テクノロジー産業に数多くの投資を呼び込み、過去1年間の資金の大部分は、中国政府が最も重視する半導体、バイオテクノロジー、情報技術など、優先的に発展する産業に流れていると指摘した。

また、世界の主要商業銀行や金融投資機関が加盟する国際金融協会(IIF)によると、中国の株式市場には先月125億ドルの資金が流入し、債券には101億ドルが流入した。一方、中国以外のすべての新興市場株は38億ドルに過ぎなかった。

■「政治問題は関係ない」経済的利益を重視する米国企業

前述のように米中「新冷戦」といわれているなかで、米国の経済界は世界2位の経済大国を魅力的市場ととらえており、両国関係が悪化する中でも中国はあくまでもビジネスの場としてとらえており、「政経分離」している。

ボイス・オブ・アメリカ(VOA)の記事は、ドイツのシンクタンク、メルカトル中国研究所(MERICS)のジェイコブ・ギュンター(Jacob Gunter)シニアアナリストのコメントを引用し、「ポートフォリオの観点から見れば、企業はリターンが最も得られるところに投資するだろう。中国が外資にとって魅力的なもう1つの理由は、他の多くの国の経済が新型コロナの感染拡大で大きな打撃を受けているからで、中国の全体的な成長率は鈍化しているものの、世界のどの地域より良好だ。そのため、中国の工場、中国の工業企業に投資することは、ウォール街の投資家や投資ファンドからみれば理にかなっている」と述べた。

同記事は、中国EU商工会議所の政策・コンサルティングマネジャーを昨年辞任したばかりのギュンター氏のコメントも紹介した。「中国は厳しい規制を導入しているが、相対的にいえば、まだインターネットテクノロジー企業、教育、仮想通貨、不働産など少数の業界に限られており、他の多くの産業は規制の対象になっていない。中国には依然として多くのリターンをもたらす良い投資機会があり、多くの企業は大きな潜在力を持っており、シリコンバレーと肩を並べることができる」。

世界的な会計事務所のKPMGはこのほど行ったマクロ経済動向展望報告の中で、「2022年の中国の外商投資は依然として高いレベルを維持するだろう。中国の経済ファンダメンタルズ、市場規模、産業関連、インフラ、ビジネス環境などの面における総合的な競争優位性は、依然として外資にとって比較的大きな魅力がある」と述べた。

ゴールドマン・サックスのデービット・ソロモン最高経営責任者(CEO)は昨年11月、シンガポールで開かれた国際経済会議「ブルームバーグ・ニューエコノミー・フォーラム」で「世界経済における中国の重要な地位を踏まえると、参加しないのはゴールドマン・サックスではない」と語った。中国政府からプレッシャーがかかる可能性はあるものの、「われわれは今後数年ではなく、10年、20年、30年という視点でこの問題を考えている」と述べた。

このように、企業は政治的問題よりも、その国でビジネスをしてどれだけの利益を得られるかを考える傾向にあるようだ。では、米中対立で、「自力更生」路線に転換したのではとみられる中国の対応はどうだろうか。

■「対外開放は不変の原則」外資のさらなる進出を促す中国

中国は2年ほど前から国内と国内の「双循環」戦略を打ち出しており、1978年からとりつづけてきた改革開放から、毛沢東時代の「自力更生」に戻るのではないかとみる向きもあるが、中国は「改革開放」の看板を下ろさず、さらに発展させる方向だ。

劉鶴・国務院副総理は「質の高い発展を実現する」と題した論文のなかで対外開放に触れ、こう述べた。

「中国の対外開放の方針は変わることはない。現在も、そしてこれからも変わることはない。わが国の対外開放は商品・要素移動型の開放からルールなどの制度型開放に転換しており、国際的に通用するルールと結びついた制度体系と監督管理モデルを構築する。先進国の市場の競争に加わり、先進国の高い技術・良質の直接投資を引き入れることを、対外開放のレベルを引き上げる重要な点とする」。

ここで「制度型開放」という概念が述べられているが、それは国際的ルールに則っての競争を目指すものだ。中国は改革開放以降、市場経済のもとでの競争に適応するため、統計制度や会計基準を国際的スタンダードに改革していった。現在、中国政府は「資源配分において市場の決定的役割を果たさせる」という方針を掲げており、「新たな段階の改革開放」を深化させようとしている。その措置の一つとして、さらなる対外開放を推し進めている。それは外国の投資を引き続き受け入れるというシグナルだ。

また、中国は「革新駆動型」の経済発展を模索しており、イノベーションを大変重視している。5年以上前から「インターネット+」を重要政策に据えて、イノベーションの環境を整えた結果、中国人の生活は「デジタル化」が進み、キャッシュレス決済関連技術、コロナ禍によってロボットなどの技術も進み、企業の開発研究投資も増えている。このため、中国のベンチャー投資が増えているというプレキンの分析は中国の「革新駆動型」の経済発展が有望であると外国企業が見ている証拠の一つだ。

劉鶴論文は「質の高い外国からの導入と高いレベルの海外進出」という言葉を使っているが、今後は「世界の工場」ではなく「世界の市場」としての中国の対外開放の方向性を示すものだ。そのため、今後の中国は「左」に向かい、毛沢東時代のような「自力更生」になるというものではない。

筆者は以前、とある日本企業の駐在員に「政治リスク」と日本企業のビジネスについて聞いたことがあるが、その駐在員は「企業にとって重要なのは、ビジネスとして成り立つかどうかなんです。政治リスクはさほど関係ありません」と語った。それは前に紹介した米国企業も同じではなかろうか。

現在、中国経済の発展を語る場合、世界経済とつながりを抜きに考えることはできず、「デカップリング」論の実現は極めて難しい。政治上対立している米中だが、経済面での交流は維持されるのではないかと筆者は考える。

■筆者プロフィール:吉田陽介

1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大学大学院卒業後、北京に渡り、中国人民大学で中国語を一年学習。2002年から2006年まで同学国際関係学院博士課程で学ぶ。卒業後、日本語教師として北京の大学や語学学校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中国共産党の翻訳機関である中央編訳局で党の指導者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中国の政治や社会、中国人の習慣などについての評論を発表。代表作に「中国の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別・肥満・彼女追っかけまで代行?」、「中国でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。

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