<遠藤誉が斬る>ウイグル爆破事件の背景に上海協力機構の強化――閉幕したアジア相互協力信頼醸成会議

Record China    2014年5月24日(土) 6時52分

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22日、新疆ウイグル自治区のウルムチ南駅で大きな爆破事件が起き、31人が死亡し、94人(一説には300人)が負傷した。 これら一連の事件の背景には何があるのか。少数民族の問題だけではない、中国周辺諸国との関係から読み解く。写真は22日の爆破事件現場。

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今年4月30日夕方、新疆ウイグル自治区ウルムチ南駅で爆破事件が起きたばかりだ。そのすぐ近くにある朝市で、5月22日、さらにスケールの大きな爆破事件が起き、31人が死亡し、94人(一説には300人)が負傷した。

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これら一連の事件の背景には何があるのか。少数民族の問題だけではない、中国周辺諸国との関係から読み解く。

◆新シルクロード経済ベルト構想で置き去りにされるウイグル人

4月30日のときは習近平国家主席のウイグル自治区視察を狙った行動であることは明らかだ。習近平は4月27日からウイグル入りし、30日の午前中にウイグルを後にした。

なぜ「駅」が狙われたかは、2013年11月6日に本コラムで分析した「新シルクロード経済ベルト」に深く関係する。

「新シルクロード経済ベルト」とは中国と中央アジア5カ国(カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン)とを結ぶ経済圏で、中国は中央アジアから天然ガスや石油などを輸入している。中国全土に広がるそのパイプラインの拠点がウイグル自治区にあるが、しかしウイグル地区の経済発展から、肝心のウイグル人が取り残され、宗教的にも弾圧されているという現実がある。

ウイグル人を置いてきぼりにしながら、中国の経済発展はさらに西へと向かっている。

今年3月末にオランダのハーグで開催された核セキュリティ・サミット(NSS)に参加した後、習近平はフランスやドイツ、ベルギーなど、ヨーロッパ諸国を歴訪した。3月29日にドイツのデュースブルグ(Duisburg)に習近平が着いた瞬間に合わせて、貨物を満載した重慶市発の列車が、終点であるデュースブルグに到着。このとき習近平は、重慶市とドイツのデュースブルグを直結する「渝新欧」路線を象徴と位置付けて、「中国と欧州連合(EU)をつなぐ、巨大な新シルクロード構想」に関して演説をした。

「渝新欧」路線は2011年1月に開通したもので、重慶(渝)と欧州を直結することから、この名がある。

「渝新欧」路線は、重慶市を出発して、西安、蘭州、ウルムチ(新疆ウィグル自治区)を経て北彊鉄道を西に越え、同じくウィグルの阿拉山口を経てカザフスタン に入り、ロシア、ポーランドを通り、ドイツのデュースブルグに到達する。全長1万1179キロという、世界最長路線の一つだ。

 

これらから見えるように、中央アジア5カ国と中国を結ぶパイプラインだけでなく、中国と欧州を結ぶ直結列車もまた、ウイグルを経由しなければならない。

中国が今後の経済の中心を映していこうとしている巨大新シルクロード経済ベルトの大拠点が「新疆ウイグル自治区」と「その駅」にあるということになる。だから、4月30日の爆発は「駅」を狙っているのである。

◆アジア相互協力信頼醸成措置会議と上海協力機構

それでは5月22日の爆発は、何を受けたものか。

それは、取りも直さず、5月20日、21日に上海で開催された「アジア相互協力信頼醸成措置会議(CICA:Conference on Interaction and Confidence-Building Measures in Asia)と深く関係している。

CICAはソ連が崩壊した翌年の1992年に、中央アジアのカザフスタンが提唱したもので、アジア地域の「安全保障」に関して話しあうことを目的としている。

 

CICAと重なっているのが、上海協力機構だ。

これは2001年に設立された「中国、ロシア、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、ウズベキスタン」6カ国による多国間協力組織で、「国際テロ、民族分離主義、宗教過激主義」への共同対処を決定している(トルクメニスタンは中立を宣言し客員参加)。対象の一つに、中国からの分離独立を標榜する「東トルキスタン・イスラム運動」(ETIM:Eastern Turkistan Islamic Movement)が含まれている。最近のウイグル関係の暴動や爆発事件を、中国政府が全てテロであると結論付けている、その組織である。

CICAの中には、この上海協力機構6か国がすべて正式メンバーとして加盟している。

 

今年4月末、米国のオバマ大統領は日本を含めた東アジア諸国を歴訪し、フィリピンと20年ぶりに軍事同盟を再締結した。

クリミヤ問題で孤立したロシアのプーチン大統領は習近平にさらに接近し、CICAでは中ロの緊密度をアピールした。それに応えて習近平も2018年からロシアの天然ガスを輸入する経済提携に署名したが、これは南シナ海の「縄張りを荒らす」と中国が見ている米比(アメリカ-フィリピン)軍事同盟への反発の意思表示だ。

今般のCICAサミット会議で、習近平とプーチンは「上海協力機構」の強化と新シルクロード経済ベルトの協力を確認し合った。その「上海協力機構」が取締りの対象の一つとしているのが「東トルキスタン・イスラム運動」なのである。

 

ロシアの孤立化と中国の南シナ海における挑戦的な覇権。

この2つの国が結びつきながら、新たな冷戦構造を創り上げようとしている。

こういった国際情勢を観測していれば、次はいつどこでウイグル人の抵抗が発生するかは予測できるはずだ。にもかかわらず、習近平政権はその予防に失敗し続けている。

実は、5月18日に「東トルキスタン・イスラム運動」主要メンバーを容疑者として指名手配したばかりだ。それを嘲るかのように、起きた事件。徹底した取締り強化を図りながら、犯行を許してしまった習近平政権へのダメージは、計り知れない。 

<遠藤誉が斬る>第35回)

遠藤誉(えんどう・ほまれ)

筑波大学名誉教授、東京福祉大学国際交流センター長。1941年に中国で生まれ、53年、日本帰国。著書に『ネット大国中国―言論をめぐる攻防』『チャイナ・ナイン―中国を動 かす9人の男たち』『チャイナ・ジャッジ毛沢東になれなかった男』『チャイナ・ギャップ―噛み合わない日中の歯車』、『●(上下を縦に重ねる)子(チャーズ)―中国建国の残火』『完全解読「中国外交戦略」の狙い』、『中国人が選んだワースト中国人番付』など多数。

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