現地滞在で中国語力は実際伸びるのか?中国の日本語教師の視点

大串 富史    2021年10月15日(金) 23時20分

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中国でさらに4年生活した結果、見たところ脳の日本語野で中国語の読み書きを処理する能力はそれなりにアップしているものの、脳の中国語野で話したり聞き取ったりする能力は思うようにアップしていない。資料写真。

先日、TECC(中国語コミュニケーション能力検定)第2回プレテストの募集開始のお知らせメールが来た。プレテストであるから当然無料、しかもオンライン受験とのことなので、受けてみることにした。

今回受けてみたTECCの他にも、主要な中国語の資格試験は3つある。まず国家資格である全国通訳案内士試験(外国人旅行者を相手にしたプロの観光ガイドの資格)。次いで中検こと中国語検定(日本の英検に相当)。さらにHSKこと漢語水平考試(中国の教育部が認定する国際的な中国語の語学検定試験で、TOEICまたはTOEFLに相当)である。

ではTECCとは一体どういうテストなのか。公式サイトによれば「TECC(Test of Communicative Chinese)は、その名が示すとおり、中国語によるコミュニケーション能力を測定する検定」で、「断片的な知識や高度に専門的な内容ではなく、実際にコミュニケーションする際の中国語運用能力を正確に測定するため、出題内容も日常生活やビジネスシーンでよく使われる中国語を素材として厳選して」おり、「その評価方法として、日本で初めて1000点満点の『スコア表示方式』を採用」しているとのこと。

実はこの、「断片的な知識や高度に専門的な内容ではなく」「1000点満点の『スコア表示方式』を採用」というところにTECCのミソがある。それはどういうことか。

中国語を勉強している読者であればご存じだろうが、先にご紹介した中検1級は、相応の受験準備をしなければネイティブの中国人でさえ受かるのが難しい。一方でHSK(正確には新HSK)6級は、それなりの準備をしさえすれば僕のような語学オンチでも取得が可能だ。

それらに対し、TECCはネイティブの中国人(または台湾人や華僑)であれば受験準備なしでも1000点満点が可能で、テスト慣れしていないような主婦の人でさえ高得点が取得できる。「実際にコミュニケーションする際の中国語運用能力」が、そのまま点数に表れる。

別の記事にも書いたが、僕自身は新HSK6級の資格を有しているものの、約4年前に受けたTECCの結果は550点を少し上回る程度だった。とはいえ、中国という言語環境に8年間どっぷりつかった結果、凡人な僕でさえビジネスレベルにまで達することができた。

では中国でさらに4年生活した結果、中国語力は一体どの程度向上したのか。率直、ネイティブに幾許かでも近づいているのだろうか。

そんなわけで、あっという間に試験当日になってしまった。TECCは「実際にコミュニケーションする際の中国語運用能力」を確かめるだけなのだが、若干の不安と緊張を覚えつつテストに臨む。

すると、推奨環境がGoogle Chromeで「試験開始後、テスト画面は自動的に最大化」して他のアプリが使えなくなる(つまりカンニングができないようになる)ものの、なんとブラウザ本体の複数のタブは開いたままだ。というかパソコンを2台置きしてもう1台をちらちら見るという裏ワザも成立してしまいかねない。

とはいえ実のところ、1問を1分前後で答えなければならない状況下で不審な動作をAIに感知されないよう細心の注意を払いながら辞書を引いたり自動翻訳したりするのは、たとえできたとしても容易ではなかろう。だいいちTECCは中検やHSKとは違い、お免状やお墨付きとしての価値はほとんどない。テストに注力し自分の中国語力を正確に測った方が得策である。

ところが後半のリーディング(読み取り)に入ってすぐ、テストが突然終了してしまった。サポートセンターに連絡をすると、サブシステムで受け直してくださいとのこと。さすがプレテストだけあって、今回のような各種不具合は万事想定済みだったようだ。

それから数日後、返却されてきたスコアは661点。うーん、4年間どっぷりでも100点強アップ程度なのか。しかもリスニング(聞き取り)が35点程度のアップに対し、リーディングが70点弱アップという、なんともな結果である。

なんともな結果、というのは前にも書いたように「話すことと聞くことは脳内でセットになっており、脳内の新たな言語野形成にとって必要不可欠であって、これに読み書きをプラスできる。だが逆に読み書きだけでは、いつまでたっても脳内に新たな言語野は現れない」からだ。

つまり僕の脳内の状況というのは、見たところ脳の日本語野で中国語の読み書きを処理する能力はまあそれなりアップしているものの、脳の中国語野で話したり聞き取ったりする能力は思うようにアップしていない。

では結論として、現地滞在で中国語力は実際伸びるのか。

個人的な経験から申し上げれば、中国においでになって僕のように10年以上が過ぎれば、少なくとも語学オンチの僕並みの中国語力が自然と身につく。これは世界中の移民の皆さんの外国語力が、貧富や能力や環境にかかわりなく10年スパンで生活にほぼ困らなくなるのと同じである。

だがどうやら、それ以上の語学力の伸びは思ったほど簡単ではない。

つまり脳内の新たな言語野の形成は生理現象として万人に生じるものの、その言語野をネイティブ並みにするのに、現地滞在しつつ自然の成り行き任せでは恐らく時間切れになる。

それで現地滞在10年後には、3つの道がある。

1つ目はそのまま自然の成り行きに任せる。2つ目は奮起して言語野の訓練に日々いそしむ。そして3つ目の奥の手は、母語を使うのをやめ言語野が衰退するのに任せつつ、新たな言語野をその分使うことにより言語野の分担の割合を変化させる。

ちなみに僕は中国で日本語教師をし、それ以前に僕らのハーフの娘に日本語を教え、5、6年後には家族で日本に引き揚げてくる予定でもあるため、残念ながら3は選べない。とはいえ2をする時間もエネルギーもないから、やっぱり1止まりになりそうだ。つまり自然の成り行き任せで、帰国で時間切れとなる。

興味深いのは「YouTuber・“バイリンガールちか”のネイティブ英語はめざさない! | マイナビニュース」という記事の「小学校1年生時に父親の仕事の関係でアメリカ・シアトルに渡米。以後、16年間をアメリカで過ご」したというバイリンガールちかさんでさえ、「私も帰国してから10年以上経ちますし、家では主人とは大体日本語だし、打ち合わせもほぼ日本語です。英語をしゃべるのは動画を作るときと娘のプリンと会話するときぐらいで、『あ、あれ、何て言うんだっけ』と単語を忘れることもあります」と言っていた。

以前の記事でもコメントいただいたが、脳のすべての機能と同様、言語野も使わないと衰退するのである。バイリンガルでもそうらしい。

そう考えると僕の一番のおすすめは、やはり10年間の中国(または他のターゲット言語の現地)滞在、ということになる。

そう、中国語が思うように伸びないと悩んでいるそこのあなた!あなたこそ、中国に10年滞在するだけで、そんなお悩みとは永遠におさらばできますよ!

同時に言語野の訓練に日々いそしみつつ、日本語を使うのをやめ中国語だけを使うことにより言語野の分担の割合を変化させれば、ネイティブ並みになれるかもです。もっとも、そこまでしたい場合はそれに伴う損失と、かかりそうな時間とエネルギーの計算もどうぞお忘れなく。

■筆者プロフィール:大串 富史

本業はITなんでも屋なフリーライター。各種メディアでゴーストライターをするかたわら、中国・北京に8年間、中国・青島に3年間滞在。中国人の妻の助けと支えのもと新HSK6級を取得後は、共にネット留学を旨とする「長城中国語」にて中国語また日本語を教えつつ日中中日翻訳にもたずさわる。中国・中国人・中国語学習・中国ビジネスの真相を日本に紹介するコラムを執筆中。

関連サイト「長城中国語」はこちら

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