中国アパレルSHEIN、PatPat、Ciderが急成長、繊維産業はパラダイムシフトへ

高野悠介    2021年9月27日(月) 10時40分

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越境ECに特化した中国アパレルが急成長し、注目を浴びている。レディースの「SHEIN」「Cider」とベビー子供、マタニティ―の「PatPat」である。資料写真。

越境ECに特化した中国アパレルが急成長し、注目を浴びている。レディースの「SHEIN」「Cider」とベビー子供、マタニティ―の「PatPat」である。これら新勢力は、従来型産業の代表、繊維産業を一新する勢いだ。

2021年1月~7月、中国の繊維輸出は1683億5000万ドル、7.8%の伸びを記録した。服装に限れば、32.9%の高い伸びである。コロナ禍による東南アジア産地のサプライチェーン混乱も理由の一つだが、中国の変化も大きい。「SHEIN」など新勢力の他に、アリババの始めたD2Cシステム「犀牛智造」、アパレル向けAI開発の「飛榴科技」など新技術の台頭もある。

■SHEIN…100億ドル企業へ成長

SHEINの創業者、許仰天は1984年山東省の生まれ。2007年、青島科技大学を卒業、南京の貿易会社でSEO関連の仕事に就いた。一方、パートナーと共に「南京点唯信息技術有限公司」を創業する。この2009年前後は、越境Eコマースの揺籃(ようらん)期だった。彼らが最初に目を付けたのはウエディングドレスだった。2011年には、婦人服へ移行する。伝統的な卸売市場「広州十三行服装批発市場」の既存商品をピックアップ、米国向けサイトにひっそり掲載していた。

それが現在は、営業収益100億ドルを超えた。これは、ZARA、H&M、ユニクロGAP、Lブランズに次ぐ規模だ。世界220カ国へ商品を供給、毎日5000点近い商品をアップしている。2021年第2四半期は、米国のダウンロード数でアマゾンを抜き、買物アプリ1位となった。従業員数は世界で4000人を超え、最近は日本語サイトもオープンした。急成長の秘密は、早い、安い、多い、にあるが、それを支えたのはデジタル化である。

SHEINは、トレンドリサーチ、デザイン、製造、出荷までを10~15日で行う。そのため、同一の“AI大脳”で数千に上る縫製工場の生産ラインを結んでいる。また世界市場でのトレンドリサーチには、KOLマーケティング、SNSなど最新のオンラインツール利用している。AIを駆使し、ファストファッションを、リアルタイムファッションへ進化させた。

■PatPat…ソフトバンク出資の子供ベビーブランド

PatPatの創業者は、高燦、王燦、胡萌の3人。米国カーネギーメロン大学でコンピューターを専攻しオラクル、アマゾン等で勤務経験を持つ。設立は2014年、シリコンバレーだった。現在は深セン、広州、杭州仏山、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ダブリン、マニラ、ロンドン等に拠点を持っている。100以上の国と地域をカバー、毎年300%以上の成長を続け、世界最大の越境EC子供ベビーブランドとなった。

こちらもやはりデジタルがポイントだ。AIによるトレンド調査、サプライチェーンの全プロセス、商品開発、販売予測をカバーする、独自のアルゴリズムを確立した。そして単調でスピード感のなかった子供ベビー服の商品開発を、多品種、短サイクル生産で革新した。8月には、ソフトバンク・ビジョン・ファンドが1億6000万ドルの投資を行った。

■Cider…SHEINの後を追う

Ciderの創業者、王琛はもともとコールバーグ・クラビス・ロバーツ(英国)、IDGキャピタル(米国)の投資業務に従事していた。2016年、「以二三」というサブスク、ファッションレンタル企業に、共同経営者として参加した。シェアエコノミーブームに乗って、アリババの出資を得るなど拡大したが、結局、この業態は定着しなかった。以二三の最終業務停止は、2021年8月だが、王琛は2020年5月にCiderを立ち上げた。

設立わずか1年で、3回の資金調達に成功、ユニコーン企業に成長した。広州、北京、ロサンゼルス、ニューヨーク、ロンドン、ソウル、ブリスベンに拠点を置いている。

ビジネスモデルはSHEINの後追いである。ただしブランドコンセプトはSHEINと差別化を目指し、より環境に配慮した生産の持続性を強調している。また予約による限定生産を取り入れ、在庫ロスを減らしている。これはアリババの「犀牛智造」と同じ考えだ。

■改革者は門外漢

新勢力アパレル3社の共通点は以下4点だろう。

1、創業者は、繊維の門外漢。インターネット、コンピューター、ベンチャー投資の出身。

2、AIによるマーケットリサーチから、生産、販売に至るまで独自システムを構築。

3、SNS、KOLを利用した海外市場開拓。海外市場に特化。

4、広東省の既存縫製工場インフラを利用。

創業者たちに、衣料品生産のノウハウはなかった。そのため予断にとらわれず、新発想を実現できた。最新のAIによる商品設計、海外でのオンラインマーケティングなどである。また賃金上昇により、海外ブランドの受注生産に行詰まった、広東省の縫製工場資源を利用できた。天の時、地の利に恵まれた。

■繊維産業のパラダイムシフトか

従来型繊維産業の精緻を極めたのはユニクロである。2000年の秋冬シーズン、フリースを2600万枚を生産、業界を震撼(しんかん)させた。糸、生地の研究開発から、発注、生産、縫製、物流、金融など、いずれもこれまでの延長線上では不可能な革命的プロジェクトだった。それ以後、ユニクロは、単品大量生産モデルを完成させてきた。また中国市場では、実店舗と通販の融合OMO(Online Merges with Offline)も実現させた。

これに対し、新勢力3社は、人間のデザイナー頼りでは不可能な、全く新しいビジネスモデルを提示した。繊維産業に大きなパラダイムシフトを促す内容である。従来型アパレル企業の生存領域は、ますます狭まりそうだ。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

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