新疆「ジェノサイド」の証拠なし=「少数民族人口急減」「不妊手術強制」は論拠薄―丸川東大教授

Record China    2021年8月16日(月) 22時20分

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丸川知雄・東京大学社会科学研究所教授が「新疆人口問題の捉え方」と題して講演。新疆ウイグル地区での「ジェノサイド」の証拠をつかんだとする論考などについて、中国の公式統計を基にそれらの妥当性を検証した。

国際アジア共同体学会(会長=進藤栄一・筑波大名誉教授)が主催する日中シンポジウムがこのほど東京の国会議員会館で開催され、日中の有識者約100人が出席した。丸川知雄・東京大学社会科学研究所教授が「新疆人口問題の捉え方」と題して講演。新疆ウイグル地区での「ジェノサイド」の証拠をつかんだと主張する論考などについて、中国の公式統計を基にそれらの妥当性を検証した。「少数民族人口の急減」論や「不妊手術の強制」論などを掲載した新聞記事について、「『ジェノサイド』というほどのことが起きている証拠はまだ提示されていない」と指摘した。

丸川知雄教授の講演要旨は次の通り。

◆「ジェノサイド論」の検討

米国の政府と議会が、中国の新疆ウイグル自治区で「ジェノサイド」が行われていると認定した。新疆で法的手続きを経ない拘束などの人権侵害が行われている可能性はあると考えるが、「ジェノサイド」というほどのことが起きている証拠はまだ提示されていないと思う。

そうしたなか、中国の公式統計から「ジェノサイド」の証拠をつかんだと主張する記事がいくつか現われた。ここでは、それらの主張の妥当性を検討する。

1.「少数民族人口の急減」論  まず、平野聡「これぞ動かぬ証拠 ‶新疆ジェノサイド〟示した中国統計年鑑」を検討する。平野は『中国統計年鑑』2018年版で新疆自治区の少数民族人口が1654万人だったのが同2019年版では1498万人になっていることを指摘し、これがジェノサイドの証拠だという。しかし、同年鑑の2010年版から見ていくと、新疆の少数民族人口は2009年の1317万人から2015年の1412万人へ緩やかに増加したのち、2016年と17年に突然1571万人、1654万人に急増し、2018年は1498万人と、元のトレンドに戻っている。つまり、2016年と17年の数字が異常である。2020年の人口センサスの結果によると、2020年11月の新疆の少数民族人口は1493万人で、従来のトレンド上にある。

要するに、2016年と17年の異常値を除けば、少数民族人口の推移に特に不自然な点はなく、異常値は単なる間違いだったとみられる。ではなぜ間違いが生じたのか。『新疆統計年鑑』と対照すると、『中国統計年鑑』の2016年と17年の少数民族人口は、新疆の総人口マイナス漢民族人口と等しいことがわかる。漢民族人口は2015年から18年の間に75万人減少して786万人になった後、2020年の人口センサスで突然1092万人に急増した。このような不自然な動きになったのは、就学や就職といった人口の社会的な増減がかなり多く、流入人口が十分把握されていなかったためだと思われる。

漢民族人口が十分に把握されず過少評価になっていたのに、2016年と17年だけ総人口マイナス漢民族という計算式で少数民族人口を算出したため、過大評価になってしまったのである。

2.「不妊手術の強制」論  次に、新疆のウイグル族たちに不妊手術が強制されている疑惑を裏付ける数字を公式統計に見つけたとする記事について検討したい。まず『西日本新聞』2021年2月4日付が新疆の不妊手術数が2014年には3214件だったのが18年には約6万件と18倍に増えていると指摘した。『産経新聞』や『朝日新聞』も同じ統計を見ながらも不妊手術数が14倍、19倍になった、となぜか比較対象を微妙に変えつつも、やはり2018年の件数の多さを指摘した。しかし、3紙とも同じ統計で2019年の不妊手術数が9343件に急減した事実には触れておらず、「急増」だけを印象付ける操作を行っている。また、この統計は新疆全体の手術数を示しているので、新疆の人口の50%前後を占めるにすぎないウイグル族に対する「強制」不妊手術急増の証拠とするには余りに間接的である。

『西日本新聞』5月19日付は新疆の出生率が2017年の15.88‰から19年には8.14‰に急減したことを指摘し、これと「不妊手術強制」との関連を匂わせている。だが、そもそも新疆の結婚数が2015年の29.3万組から18年には16.7万組に急減しており、出生率の低下にはその影響を考慮する必要がある。

なお、『新疆統計年鑑』には新疆の不妊手術数が2014年には14万件弱、18年には9万件弱と、より「衝撃的」な数字が載っているのだが、なぜか3紙ともこれには触れていない。同年鑑は地区別の不妊手術数を載せているので、実態にもっと迫ることができる。それによると不妊手術数はウイグル族が多く住むアクス、カシュガル、ホータンなど南疆で特に多い。また、他の地区では2017年以降手術数が急減したのに、ホータンではむしろ増加し、2018年にはホータンの全女性の6.1%が不妊手術を受けている。2016年までホータンの出生率は20‰以上だったのが18年には8.6‰に急落している。ここでは不妊手術増加と出生率低下との因果関係は鮮明である。

新疆では都市部の漢民族は子供1人まで、都市部の少数民族は2人まで、少数民族の農牧民は3人までと定められており、ホータンでは人口の87%は3人子政策の対象である。しかし、「貧乏子だくさん」の傾向があることから、2005年から不妊手術に対する奨励金を出すようになった。すなわち、子供が1人ないし2人いる夫婦が不妊手術を受ければ1人あたり年600元を生涯にわたって受け取ることができる。南疆では不妊手術を受けた年に3000元の一時金を受け取れるなどさらにインセンティブが強化された。つまり、不妊手術の増加や急減はこうしたインセンティブが与えられたり停止されたりしたことによるものであろう。これは「強制」がないことの証明にはならないが、少なくとも強制を仮定しなくても不妊手術の増加を説明できる。(主筆・八牧浩行

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