戦争危機を煽れば、国民の危機意識を刺激してしまう=東アジア軍備管理交渉待ったなし―林亮教授

Record China    2021年8月15日(日) 16時10分

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日中シンポジウムがこのほど東京の国会議員会館で開催され、林亮・創価大学文学部教授が「中国の奮発有為戦略と東アジア安全保障」と題して講演。軍拡を抑止するための「包括的軍備管理交渉」の必要性を強く訴えた。

国際アジア共同体学会が主催する日中シンポジウムがこのほど東京の国会議員会館で開催され、林亮・創価大学文学部教授が「中国の奮発有為戦略と東アジア安全保障」と題して講演した。「グローバル化した世界では国内向けに国民の支持を得ようとしてナショナリズムに訴え戦争の危機を煽れば、各国の国民の危機意識は、政府に戦争に備える圧力を作り出す」と警告。中国国民が「戦狼外交」を好み攻撃的な対外政策を望めば中国政府も積極的な外交を展開するようになると強調した。インターネットやSNSを通じて情報が氾濫する世界では各国の指導者はナショナリズムを抑えきれないと強く懸念。東アジア地域の軍拡を抑止するための「包括的軍備管理交渉」の必要性を強く訴えた。                        林亮教授の講演要旨は次の通り。

1,中国抑止力の増強

イージス・アショアが配備中止になったとほぼ同時に、「敵地攻撃能力」という戦後日本の専守防衛政策と日米安保条約の枠組みを根本的に変更しかねない政策提言が行われた。しかし敵地攻撃能力は米国からの一連の武器購入によってすでに自衛隊に保有されている。 レーザー誘導爆弾や長距離精密誘導兵器、F35ステルス戦闘爆撃機や空中哨戒管制機などの敵ミサイルの発射基地、飛行場などを攻撃する兵器システムを自衛隊は導入してきた。さらに米国は、従来から中国や北朝鮮を目標とする多数の長距離巡航ミサイルを在日米軍基地に配備済みである。

中国の軍事力近代化・増強は確実に進んでいる。トウ小平時代の「韜光養晦」路線を転換し、習近平体制は積極的な「奮発有為」の外交政策に転換した。中国は兵器の近代化に務めてきた。米ロがINF条約によって禁止してきた中距離核戦力も増強した。さらに通常兵器の近代化も推進し、その結果中国は一定の対米近接拒絶能力を保有するに至ったと言われている。

対米最小限核抑止力の水準にあった中国核戦力は、近代化・増強された。米国本土まで射程に収める大陸間弾道弾DF5は、液体燃料使用で発射準備に時間が掛かり先制攻撃を受けやすい脆弱性の高い核戦力であった。しかも配備数は15-20基程度で数量的に不十分である。さらに報復核戦力の要となる潜水艦発射弾道ミサイルも旧式で補足されやすい上に、ミサイルの射程も短く報復力としての不十分であった。しかし新型の巨浪2型の射程は7000㌔以上に延伸され、原潜は中国空・海軍が守備する聖域でのパトロールが可能となった。これらの進歩により大陸間弾道弾の発射準備時間は短縮され、戦略原潜の生存性は確保され、中国核報復力は大幅に強化された。

これらの核戦力の近代化の結果、中国核抑止力はトウ小平時代の対米最小限核抑止力から、習近平体制下の確実な対米最小限核抑止と近接拒絶型の抑止力を併せ持つ状態へと変化したと筆者は考える。

2,東アジア地域軍拡の脅威

中国の継続的な軍備の近代化と増強に日米をはじめとする各国が同様に軍備の近代化と増強によって対抗していることが問題となる。所謂ツキディディスの罠である。中国も中国の軍備近代化を脅威と感じる日米も同様に相手の脅威に怯え軍備近代化を進めている。

特に私が危機感を抱くものが所謂「アジアINFの脅威」である。中国は台湾や日本列島の米軍基地を射程に収める中距離ミサイルを増強してきた。ロシアとのINF条約を破棄した米国は中距離ミサイル戦力の中国との空白を埋めるべく「アジアINF」を開発、配備するだろうと言われている。これは1979年12月NATO二重決定によるヨーロッパ核危機に匹敵する核戦争の危機を東アジアに引き起こす可能性がある。この敵地攻撃論が引き起こした東アジア核危機は、「アジアINF」配備問題が顕在化するよりずっと以前に起こっていた。我々が気づかなかっただけである。

3,中国はアジア軍備管理条約に参加するか?

中国は自国の核戦力の劣勢を理由に、米ロを加えた国際的な軍備管理条約に加わることを避けてきた。しかし中国もSTRT交渉をはじめとする世界的な核軍備管理条約に無関心だったわけではない。私は武漢大学と清華大学、プリンストン大学と共同「ニュー・スタート条約延長とその後、背景にある軍備管理」と命名された国際シンポジュウムに参加した。この国際シンポジウム開催自体が、中国が国際的な核軍備管理体制への本格参入を考慮していることを意味していると考える。 趙通清華大学教授などが主張しているが、現在の核秩序崩壊は中国の国益にならないと中国は考えているようだ。シンポジウムでもオープンスカイ条約の停止を危惧する意見が中国側出席者から発言されており、米ロの核軍備管理体制の維持を中国が歓迎しているのは明らかである。中国が国際的な核軍備管理レジームに強い関心を持ち参入を検討していることは間違いないだろう。

4,東アジアの包括的軍備管理交渉主導を

日本の地政学的な位置、日米安保条約の存在、緊密な日中関係から、日本は包括的な核軍備管理条約推進を主体者として積極的に主導しなくてはならない。私は中国も米国や日本と多少の体制の相違はあるが基本的には民主主義国家だと考える。中国でも日本や米国と同様に、政治指導者が国民の意思に反した政策を遂行することは難しい。政治指導者は国民の意思を推し量りながら外交政策を進めている。

恩師の中西治教授は「国民が戦争を望めば戦争は起こる」と常に語っていた。中国国民が「戦狼外交」を好み攻撃的な対外政策を望めば中国政府も積極的な外交を展開するようになるだろう。日本も米国も対中危機意識を高めるべきではない。    グローバル化した世界では国内向けに国民の支持を得ようとしてナショナリズムに訴え戦争の危機を煽れば、その危機意識は簡単に国境を越えてツキディディスの罠を作り出す。各国の国民の危機意識は、政府に戦争に備える圧力を作り出す。インターネットやSSNを通じて情報が氾濫する世界では各国の指導者はナショナリズムを抑えきれない。

中国が6年以内に台湾に侵攻すると唐突に報道された。前防衛大学校長・国分良成氏は、「それは、何年後という具体的な予測ではなく、象徴的な意味での発言だと思います。中国が東シナ海に出るのは、太平洋に出るということであり、米軍と自衛隊の動きを抑える意味があります。そして、台湾を包囲することが狙いでしょう。本当に武力行使するかどうかは、別の話だと考えます」(2021年06月05日朝日新聞 朝刊オピニオン)と冷静に分析したが、このような危機を煽るかのような報道は米中双方に危機意識を醸成する。

米フォーリンアフェアーズ誌は、「中国の台湾侵攻は近い」の記事と同時に「米同盟国が核武装するとき」(FOREINGN AFFAIRS REPORT NO.7 2021)と掲載し、日本の核武装の可能性さえ論じている。日本は台湾地域まで射程の納める長距離精密誘導弾の配備を始めようとしている。さらに米国がアジアINF配備の準備を始めれば東アジアの地域の緊張はさらに高まるだろう。

日本の地政学的な位置、日米安保条約の存在、緊密な日中関係から、日本は包括的な核軍備管理条約の枠組みを主体者として主導しなくてはならない。まずは核禁止条約への加盟あるいはオブザーバー参加をして、日本の核武装があり得ないことを米中に明確に意思表示する必要がある。その上でアジアINF禁止条約(Asian INF treaty)アジアABM禁止条約(Asian ABM treaty)アジアSTART軍備管理・軍縮条約(Asian START)を米国や中国と緊密に協力しつつ進めていかなければならい。

ツキディディスの罠の連鎖をとどめるために日本が核兵器を保有する意思を持たないことを強く主張しなくてはならない。(主筆・八牧浩行

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