日本人が中国人の「翻訳組」にモノ申す?「翻訳」に求められる切実な「覚悟」

大串 富史    2021年3月9日(火) 17時50分

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「翻訳組」と呼ばれる中国独特の有志コミュニティーの「翻訳校正マニュアル」の一部。ボランティアの読者によるグループ作業を旨とするネイティブの翻訳組は、どの面からしても文句を言われる筋合いがない。

先日、「『言葉が全く通じない』日本のVTuberが、中国でファン24万人。数字と引き換えに求められる切実な『覚悟』 | ハフポスト」という記事のコメント欄(より正確には転載先のYahoo!ニュースのコメント欄)を見て、正直なところ少し違和感を抱いてしまった。

まず背景となる情報を、上記記事から抜粋してみる。

「ありのままの姿ではなく、アニメ調のキャラクターになりきって動画に登場する『VTuber』のひとり『乙女おと』さんは、中国・ビリビリ動画(bilibili)では24万人を超えるファンを持つ」

「彼女は中国語を話せない。中国進出を決めた彼女を助けたのは、『翻訳組』と呼ばれる中国独特の有志コミュニティーだ」

「翻訳組は、乙女さんの動画の日本語を聞き取り中国語字幕をつける。さらに生放送が始まると、コメント欄で同時通訳をも担当する。翻訳はあくまでボランティア。あくまで『推し』を広めたいという気持ちが原動力だ」

「しかし、海外、特に複雑な歴史問題を抱える中国への進出はリスクを伴う。中国のサブカルチャー事情に詳しい北京動卡動優文化傳媒有限公司の峰岸宏行さんは『まずは歴史を学んで』と呼びかける。火種の全てを把握するのは容易ではない」

「『参謀役が必要です。まずは翻訳組とよく相談することです。彼らの力を借りてやっていくという意識がないと、どこかでつまずくのではないでしょうか』」

この記事に対し、転載先のYahoo!ニュースのコメント欄には次のような意見があった。

「実情としては翻訳組によるトラブルがかなり多い。いわゆる投げ銭の持ち逃げや中抜き、誤翻訳で言ってもいないことを事実として広められたりするケースもある」

「翻訳組ではなく投げ銭で事前に日本の二次元文化に詳しい翻訳担当者に任せるのがいいんじゃない?」

それで早速、中国は大連にある某ネットスクール(日本語学校)の同僚である中国人の日本語教師の先生方に、「翻訳組」の翻訳の質についてどう思うか尋ねたところ、複数の先生方から早速回答をいただいた。

「全体的な質は比較的高いですね。字幕組(字幕に特化した翻訳組)に加わるには、最低でも日本語検定2級が必要です」

「一般的な字幕組は最低でも初稿と訂正校による二重チェックをしてるから、質はかなり高いですよ」

「それに版権の問題もあるから、字幕組は営利目的で字幕を制作できないんです」

「多くのボランティアは恐らく作品自体に強烈な感情があるし、大部分のボランティアはやっぱり自分の日本語をレベルアップしたくて参加しています」

そうこうしているうちに、しまいには「翻訳組」の中の人だったという人と直接やりとりをする機会があった。

「マンガ・アニメ・劇場版アニメ・ドラマの翻訳も校正もしたことがある。皆好きだからするし、日本語力を鍛えるためにしている。商業ベースで意見が求められたりもするけど、自分たちの翻訳組は概してそういうのが好きじゃない。報酬をもらっちゃったりしたら、それこそ皆から笑われちゃうし」

だから結論から述べれば、Yahoo!ニュースのコメント欄にあるような心配は、率直に言って部外者(=日本人)目線の老婆心のようにも感じられる。

たとえば、「実情としては翻訳組によるトラブルがかなり多い」と言うのは、「中国進出で痛い目に遭った日本企業がかなり多い」と言うのによく似ているのではなかろうか。

別コラムでも書いたが、だったら座して死を待てばいいと?となってしまう。ほかならぬ日本政府が白旗ならぬインバウンドの旗を自ら振っているという現実は、一体どうしたらいいのか。

もっと言えば、この「翻訳組」なる存在は、中国の日本語学校の中国人教師らから相応の担保を得ている。組織的にも実力的にも、訳の分からないアブナイ組織というわけではない。当たり外れはあろうからトラブルゼロではなかろうが、トラブルが「かなり多い」というのは実際のところ何パーセントぐらいの話なのか。

「翻訳組ではなく投げ銭で事前に日本の二次元文化に詳しい翻訳担当者に任せる」という意見も、見たところ「日本の二次元文化の詳しい翻訳担当者」イコール翻訳組なのであまり現実的でない。

というか「中国の海賊版サイト『字幕組』運営者ら逮捕-海外映像作品をアップする『違法時代の終わり』| AFPBB News」という記事でも取り上げられたが、彼ら自身が「字幕組は日陰の存在であるべき」だと認識している。

ボランティアつまり自国の法の範囲内でしたいことをしているだけであれば、一体誰がその自由を妨げ得よう。一方でボランティアの一線を越えればとたんに諸々の制限が生じ、へたをすれば上記記事のような取り締まりにさえ遭いかねない。

だから彼らの言う「皆好きだからするし、日本語力を鍛えるためにしてる」という言葉には説得力がある。つまり、趣味と実益の一石二鳥だからやる。この場合の実益とは、日本語の聞き取りと作文力のスキルアップというところか。

だがそもそも、中国語ネイティブでない日本人が、中国人の「翻訳組」の中国語の質に疑問を差しはさむというその感覚に、僕は正直ついていけなかった。

「誤翻訳で言ってもいないことを事実として広められたりするケース」がゼロだと言っているのではない。とはいえ「きっと誤翻訳が多いのでは?」との誤解が広まってしまうなら、それはあんまりな話である。

つまりネイティブがネイティブに伝わるように翻訳したものに、非ネイティブはケチのつけようがない。中国で日本語を教えている日本語教師の中国人がいわば「推し」ている「翻訳組」の手になる中国語訳であれば、なおさらであろう。

では「翻訳」に求められる切実な「覚悟」とは何か。

それは一言で言うなら、恐らくはネイティブの翻訳者(つまり外国人、この場合は中国人)に頼らざるを得ないという現実を受け入れる、ということに他ならない。

もっと言ってしまえば、翻訳者の資格や肩書がどうあれ、読者である一般の人々に通じない翻訳はアウトなのである。翻訳において個人プレーよりグループ作業がより奏功し、時には一般の読者へのモニタリング(通じるかどうか意見を聞くこと)さえ必要になるゆえんである。

いずれにしても「ボランティア」な「読者」による「グループ作業」を旨とする「ネイティブ」の翻訳組は、どの面からしても文句を言われる筋合いがない。

だから、最後に言わせてほしい。

非ネイティブがネイティブレベルの「通じる」翻訳をそうそう簡単にはできない現実と、ネイティブがネイティブに「通じる」翻訳が比較的簡単にできる現実とを認める覚悟が、あなたにもありましたか?

■筆者プロフィール:大串 富史 本業はITなんでも屋なフリーライター。各種メディアでゴーストライターをするかたわら、中国・北京に8年間、中国・青島に3年間滞在。中国人の妻の助けと支えのもと新HSK6級を取得後は、共にネット留学を旨とする「長城中国語」にて中国語また日本語を教えつつ日中中日翻訳にもたずさわる。中国・中国人・中国語学習・中国ビジネスの真相を日本に紹介するコラムを執筆中。 関連サイト「長城中国語」はこちら

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