<中国は今!>習近平が打ち出す「GDP英雄不要論」―安定成長への軟着陸は可能か?

Record China    2014年4月26日(土) 9時54分

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つい先日、北京に行ったついでに天津市まで足を伸ばした。天津市郊外には今、濱海新区という新たな経済開発地区が展開しており、現地は新たなビルが続々と建設中だ。写真は天津のハイテクパーク=筆者撮影

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つい先日、北京に行ったついでに天津市まで足を伸ばした。天津市郊外には今、濱海新区という新たな経済開発地区が展開しており、現地は新たなビルが続々と建設中だ。ニューヨークタイムズはここを「中国のマンハッタン」と書いたほどだ。

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このような新たな経済の原動力を得て、2012年の域内総生産(GDP)は河北省の半分以上と、天津の経済生産性の高さが際立っている。しかも、天津の経済成長率は13.8%増と、中国の31省市自治区・直轄市のなかで最高を記録しているほどだ。

ところが、北京の経済紙の編集委員と話していたら、「中央政府は2014年の経済政策の一つとして、もはや『GDP(国内総生産)至上主義』をとらないことを決めた」と語っていた。地方政府がGDPを増やしたいばかりに、インフラ整備や不動産投資など無理な開発を行い、逆に赤字を増やすケースが多いためだ。そればかりか、実際の数字を隠して、少しでもGDP値を上げようとしているのだ。

なぜ、そのようなことをするかというと、地方指導者の行政成績がGDP値で評価されてきたからだ。ほぼ3年から4年ほどの任期中に赴任地のGDPを上げないと、次にワンランクアップのポストにつくことは難しくなる。GDPは即出世の重要な要素なのだ。

ところが、1980年代から90年代にかけて二桁成長が当たり前だった中国経済にも最近、陰りが見え始めているのは否めない。昨年の経済成長目標は前年比7.5%増で、今年は7%に減速する見通しだ。

習近平指導部が発足して1年以上経つが、習主席は最近「もはやGDPの成長率で、英雄であることを論じるほど、話は簡単ではなくなった」とたびたび強調するようになり、GDPで地方指導者を評価することをやめようと呼びかけている。

前出の編集委員氏は「最高指導者の習主席が『もはやGDP英雄は要らない』と主張しており、共産党幹部の人事を決定する党中央組織部も昨年末に記者会見を開いて『幹部の業績をGDPだけで判断することはできない』と人事考課の方針転換を明らかにしたほどだ」と指摘する。

この背景には、地方指導者が功を焦るあまり、経済開発を急ぎ、影の銀行(シャドーバンキング)を通じて多額の借金を作り慢性赤字に陥っていることがある。結局、地方の債務は回り回って中央政府が処理しなければならず、地方の債務が膨らめば膨らむほど中国全体の金融システムが不安定になる恐れがある。さらに、開発にともないPM2.5といった大気汚染などの環境破壊や、業者との癒着など腐敗問題も深刻になっている。

そういえば、経済的に躍進めざましい天津では、海沿いに位置しているにもかかわらず、PM2.5がひどかった。北京から中国版新幹線「和諧号」に乗っても、窓から見える景色は一様に黒ずんでいたほどだ。もはや経済発展よりも環境対策が優先されるというわけだ。

それを象徴して、習近平指導部が打ち出した今年の主要経済方針は「穏中急進」の4文字に集約される。一定の成長を保持しつつ、旧弊を打ち破って構造改革を進めていくというものだ。「人事評価同様、言うは易く行うは難しだ。強力なリーダーシップが求められるだけに、習主席にとって今年は正念場となるのは間違いない」と編集委員氏は断言する。

◆筆者プロフィール:相馬勝

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。

著書に「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)など多数。

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