<激動!世界経済>アべノミクス、家計負担重く失速か=97年の「平成恐慌」時に酷似―消費増税スタート

八牧浩行    2014年4月1日(火) 5時22分

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1日、日本の消費税率が5%から8%に引き上げられた。これにより、家計の負担は6.3兆円(国民1人当たり約5万円)増加。このほか14年度は、国民年金など社会保険料の引き上げ(5千億円)や年金の減額(8千億円)などが重なる。写真は東京・銀座。

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2014年4月1日、日本の消費税率が5%から8%に引き上げられた。内閣府試算では、これにより、家計の負担は6.3兆円(国民1人当たり約5万円)増加。このほか14年度は、国民年金など社会保険料の引き上げ(5千億円)や年金の減額(8千億円)などが重なる。低所得者や新規住宅購入者への負担軽減策も講じられるが、新たに8兆円近い負担が家計にのしかかる。

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◆「経済失政」繰り返すな

名目国内総生産(GDP)の2倍の1000兆円の借金を抱え、当初予算の1割が国債の利払いに消える日本にとって、財政健全化は重要課題である。財務省は「消費増税を引き上げなければ国の破綻が現実になるリスクがある」と警告し、消費税引き上げは最優先課題と強調する。

しかし、過去の消費増税の事例をみると、税収全体が逆に落ち込む懸念も捨てきれない。消費税率が3%から5%に引き上げられた97年4月。この時、大蔵省(現財務省)だけでなく、本来、経済失速を懸念しなければならない経済界や通産省(現経済産業省)までもが「10月以降は成長軌道に回復する」との楽観論を振りまき、消費税引き上げを後押した。経済界は消費税上げと引き換えに、法人税の引き下げという長年の悲願を達成したため、このような「奇怪な態度」をとった。当時、通信社経済部長だった筆者はこの時の異常な状況をつぶさに取材、「自陣営」の利益や主張を優先させ、先行きや全体の繁栄を考えない政財官界の行動に疑問を持った。

案の定、この年後半から、深刻な不況に見舞われ、「経済失政」と言われる事態に陥った。97年4月、消費税引き上げ(年間の国民負担増5兆円)だけでなく特別減税廃止(2兆円)、医療費の引き上げ(2兆円)も加わった、いわゆる3点セットにより合計9億円の国民負担増が発生。これが山一証券や北海道拓殖銀行等金融機関の相次ぐ破綻と貸し渋りにつながり、家計や企業の景況感が悪化し消費が落ち込んだ。「9兆円の国民負担増になり大変なことになる」と警鐘を鳴らす経済学者もいたが、政府・大蔵省の圧倒的なキャンペーンの前にかき消された。

今の状況は当時と酷似しているが、97年当時は、先行して事前に減税措置が取られ、しかも消費税引き上げ幅はわずか2%に過ぎなかったにもかかわらず、日本経済は未曽有のダメージを受けたのである。消費税収は翌98年度に引き上げ前の96年度に比べ4兆円超増え約10兆円となったが税収全体では2.7兆円減の約49兆円にとどまった。

歴史は繰り返す。消費税引き上げの影響は大きい。日本経済が失速しないか、この教訓をしっかり踏まえ対策を講じなければ取り返しのつかない事態となろう。山一証券や北海道拓殖銀行の破たんは97年4月の消費税引き上げの半年後の11月。経済失速に伴う金融危機はその後も日債銀、長銀破たんなどさらに燃え盛り、「平成恐慌」といわれた。今回は電気代や食品価格もさらに上がる見通し。2〜3月に消費増税を前にした駆け込み需要が発生したが、4月以降反動で需要が大きく落ち込むのは必至だ。

◆頼みの公共事業も職人不足深刻

消費増税や物価高に伴う負担をカバーする賃上げがなければ、消費需要のダウンは避けられないが、その賃上げも大企業の一部にとどまり、大半の中小企業や非正規の労働者には及んでいないのが実情だ。アベノミクス第3の矢である“成長戦略”も進展しておらず、期待外れの感が強い。

5.5兆円の補正予算もあり、7〜9月期以降景気は回復するとの楽観見通しもあるが、頼みの景気対策にも懸念材料がある。補正予算のうち約3兆円、14年度本予算のうち5兆9千億円が公共事業関連だが、建設労働者の著しい不足が原因で予算の多くが未消化という異例の事態が生じ、頼みの公共事業は供給面から限界に直面している。

◆アジアの成長取り込め

現在、97年当時と大きく違うのは、日本を取り巻く環境だ。IMFによると、96年は中国の名目GDPが日本の5分の1にすぎなかったが、13年に中国のGDPは日本の1.8倍に急拡大、世界最大の消費大国に成長している。今後、人口減少が進む中で、景気の失速を防ぐには、外需の下支えが欠かせない。中国、韓国、東南アジアなど世界の成長センター・アジア諸国の需要を取り込めるかどうかが、消費増税を乗り越えて日本経済がデフレを脱却できるかの成否を握っていると言えそうだ。(Record China主筆・八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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