<遠藤誉が斬る>日米韓会談と北朝鮮――北朝鮮は「中韓蜜月」に激怒している

Record China    2014年3月25日(火) 6時10分

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アメリカから強い要求を受けて、日本では安倍首相が「河野談話を見直さない方針」であると国会答弁し、ようやく米日韓3か国の首脳会談が可能となった。背景には複雑に絡む北東アジア情勢がある。写真は中朝国境38度線の板門店。

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 アメリカから強い要求を受けて、日本では安倍首相が「河野談話(従軍慰安婦問題に関する河野洋平官房長官談話)を見直さない方針」であると国会答弁し、また韓国ではアメリカから「二股外交をするな」「これ以上日本と歴史問題で争うなら米韓同盟に大きなマイナス」と最後通牒を渡されて、ようやく米日韓3か国の首脳会談が可能となった。

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日米同盟と米韓同盟の絆を強くすることにより、中ロ、特にロシアに脅威を与えたいアメリカとしては、少しだけアジアにおける存在力を取り戻せたかもしれない。

しかし日韓が「より」を戻すことが果たして日本にとって非常にいいことかというと、必ずしもそうとは言えない複雑に絡む北東アジア情勢がある。

◆北東アジアに存在するねじれた関係

というのは、北朝鮮は中国が韓国に良い顔をするのが腹立たしくてならない。

韓国とはまだ戦争状態にあると位置づけている北朝鮮は、1992年に中韓国交正常化が成立すると激怒した。同盟国の中国が最大の「敵国」(韓国)と国交正常化したことになるからだ。そのため北挑戦を裏切った中国への報復として、1950年に起きた朝鮮戦争で北朝鮮のために戦った中国人民志願軍の北朝鮮にある慰霊碑を破壊したほどである。

これに激怒したのは中国のトウ小平。「歯向かえるものなら、さあ、向かって来い!」と一喝した。そこで北朝鮮は少しはおとなしくなったものの、それでも中国に対する怒りと不信感はぬぐえていない。

中国とすれば北朝鮮が滅べば、朝鮮半島は西側諸国陣営として南北統一され、陸続きのすぐ隣りにアメリカ軍が駐留することになる。それを嫌っているのを見透かしている北朝鮮は態度を変えなかった。そこでやむなく中国は北朝鮮をなだめるべく多くの経済援助を申し出ている。こういう経緯の中での中朝関係なので、北朝鮮は中国に対して「態度がでかい」のである。

 朴槿恵(パククネ)が大統領になって以来、韓国はまるで中国の属国にでもなったかのごとく、ひたすら習近平に媚びてきた。自ら「歴史カード」を持ち出して「歴史同盟」を形成し、中国の対日批判路線に便乗した。習近平も朴槿恵の切なる要望を快く受け容れて、伊藤博文を暗殺した朝鮮独立運動家、安重根(アンジュングン)の記念館を、暗殺現場の黒竜江省ハルビンに開館したほどだ。自国に建てずに、わざわざ「中国」に建てるという朴槿恵のおもねりは、北朝鮮をさらに刺激した。おもねりを受け止める習近平の計算が、米韓共同軍事演習以上に腹立たしくてならない。

 中韓の蜜月に北朝鮮は再び激怒。昨年12月には中国に近かった張成沢(チャン・ソンテク)元国防副委員長を処刑しただけでなく、「それならお前らが最も嫌っている日本に近づいてやるわ」とばかりに日本に急接近。今月19日から日朝赤十字会談が中国の瀋陽で行われた。

日本には日米同盟がある。米国との会談を実現させてくれるのは中国ではなく日本である可能性が高いかと北朝鮮は期待しているだろう。六カ国協議への呼びかけも、議長国の中国ではなく、日本の呼びかけなら応じる可能性があるほど、いま中朝関係は冷えているのだ。

 

◆それでも加速化する「中韓歴史同盟」

一方、ウクライナ情勢で一つでも多くの国を自国側に引き寄せたいロシアは、北朝鮮にも色目を使っている。すでに今年2月に、朝ロ両政府は、北朝鮮がソ連時代から抱えてきた総額約110億ドルの対ロシア累積債務を解消することに合意した。今後は両政府による共同事業も想定しているようだ。

 

このような中、日米韓3カ国首脳会談を通して日韓が「より」を戻し、万一にも韓国がアメリカに怒られて中国から離れるようなことでもあれば、北朝鮮にとって日本接近の意義は小さくなる。

 韓国内には38度線で朝鮮半島を分断させたのはアメリカだという「恨み」の痕跡があり、北のミサイルから韓国を直接に守ってくれるのは中国かもしれないという期待感もある。だからと言って韓国がアメリカに見離された場合、中国にとっての韓国の価値は低くなる。

 

その意味で韓国が媚中外交を続けていてこそ、日本には別のチャンスが待っているとも言えなくはない。

折しも3月23日夜(日本時間24日未明)、オランダのハーグで中韓首脳会談がいち早く開かれ、習近平と朴槿恵は「中韓歴史同盟」で一致した。ハルビンに安重根記念館を建てただけでなく、西安にも「光復軍」という朝鮮の抗日部隊の石碑を建設中だと習近平は明かした。日中戦争およびその後の革命戦争(中国の国共内戦)においても、朝鮮部隊は中国人民軍の前身である八路軍(はちろぐん)に協力している。その朝鮮部隊のほとんどは現在の北朝鮮所属だったのだが、この記念碑を習近平は韓国へのプレゼントとして建て、中国国内の愛国主義教育基地の一つに加えていくつもりだ。

北東アジアには、こういったねじれた関係がある。日韓首脳会談を待つよりは、むしろ北朝鮮が中韓に激怒している間に、拉致問題解決に向けて一気に努力した方が良いという日本の課題も見逃せない。

<遠藤誉が斬る>第27回)

遠藤誉(えんどう・ほまれ)

筑波大学名誉教授、東京福祉大学国際交流センター長。1941年に中国で生まれ、53年、日本帰国。著書に『ネット大国中国―言論をめぐる攻防』『チャイナ・ナイン―中国を動 かす9人の男たち』『チャイナ・ジャッジ毛沢東になれなかった男』『チャイナ・ギャップ―噛み合わない日中の歯車』、『●(上下を縦に重ねる)子チャーズ―中国建国の残火』『完全解読「中国外交戦略」の狙い』、『中国人が選んだワースト中国人番付』(4月1日発売)など多数。

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