中国国産スマホOS「COS」は世界への挑戦か?それとも…中国企業研究費詐欺列伝

Record China    2014年3月22日(土) 15時0分

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中国独自開発、中国が独自の知的所有権を保有するOS「チャイナ・オペレーション・システム(COS)」は、中国の世界に対する挑戦なのか?それとも中国企業・研究機関による詐欺的研究費略奪イベントなのか?写真は中科紅旗リナックスのテレビCM。

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中国独自開発、中国が独自の知的所有権を保有するOS「チャイナ・オペレーション・システム(COS)」は、中国の世界に対する挑戦なのか?それとも中国企業・研究機関による詐欺的研究費略奪イベントなのか?

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■中国官民一体による世界への挑戦か?それとも国を食い物にした詐欺か?

2014年1月25日、中国科学院と上海聯[丹三]収網絡通訊技術有限公司が共同開発したオペレーションシステム・COSが発表された。Linuxをベースに開発されたこのシステムはパソコン、スマホ、タブレット、セットトップボックスなど組み込み用など幅広い用途に活用でき、しかも発表時点で10万ものアプリが稼働するという、信じられないレベルの優れものだという。

そのCOSだが発表会で用意された実機は台湾HTCのアンドロイド携帯Butterfly s。画面デザインもアンドロイドをカスタマイズしたHTCのOS・Senseにそっくり。さらに中国のネット掲示板には「試作機を入手したけど、Butterfly sの箱まんまだった。箱の裏面にOSはCOSっいうシールが貼ってあったけど、剥がしたら下に「OS Sense6.0」って書いてあった」という書き込みまで登場。

「どんだけパクってんのや」「HTCが開発に協力している?」「いやいやHTCのエンジニアが外部に情報売って捕まった事件があったけど違法にソースコードを入手したのではないか」「COSってCopy Other Systemっていう意味かな」などなど疑いまくる声が多数。

また「高速鉄道しかり、中国政府は付加価値の高い技術を掌握することを望んでいる。COSはそうした狙いのもと開発された」という、COSは海外企業に対する挑戦という筋書きで解説するメディアも少なくない。

中国政府が独自技術の掌握を望んでいることは間違いないが、ではCOSが本当にそうなのかと言われると疑問が残る。海外からみると中国は官民一体のように見えるのだろうが、中国メディアではむしろ「企業が独自技術開発と宣伝して政府から補助金をしぼりとろうとしている」との見方が主流のようだ。

■お上がくれる甘い汁だけが頼りです…中国国産IT技術列伝

中国メディアのひねくれた見方はゆえなきものではない。これまでにいくつもの研究費詐欺が発覚した歴史があるがゆえだ。網易のコラムサイト「The Other Side」が記事「IT業界の“国産自主開発”=助けようのない阿斗」で数々の事件をまとめている。ちなみにサブタイトルの「助け用のない阿斗」(扶不起的阿斗)は中国語の慣用表現でダメ人間の意。三国志の劉備の息子、阿斗(後の劉禅)に由来する言葉である。

(1)中国半導体産業の期待の星、漢芯

上海交通大学の陳進(チェン・ジン)氏が開発したDSPチップ、漢芯。2003年から2005年にかけ、次々と新たなモデルが発表され、中国が半導体産業でも先進レベルの製品を開発できるようになるのではとの期待が高まった。ところが2006年、ネット掲示板でそのお粗末な内実が暴露された。実はこのDSPチップはモトローラの製品を購入したあと、刻印されたロゴを紙やすりで削り取ってその後に「漢芯」というロゴをつけただけだったという。この紙やすりテクで1億1000万元(約18億円)の研究費を国からゲットしている。

(2)中国独自開発のOS、麒麟OS

中国独自開発のコンピューターOS・麒麟。中国国防科技大学、レノボなどそうそうたる企業が共同で開発した。中国政府の重要研究プロジェクトに指定され、8000万元(約13億円)の研究費をゲットしている。この麒麟OSもネットユーザーの暴露で内実が判明した。実はソースコードの大半がオープンソースOS・FreeBSDの流用。研究費獲得の条件はコアの独自開発だったが、これも流用であきらかに詐欺だった。

(3)中国科学院開発のCPU、龍芯

COS開発でも名前が上がっている中国のアカデミー、中国科学院。その計算機技術研究所が開発したCPUが龍芯だ。当初、他社の知的所有権を一切侵犯していない独自開発のCPUと宣伝されていたが、後に米ミップス・テクノロジーズのアーキテクチャと95%一致していることが判明。中国科学院はパクリを否定していたが、2006年にミップス・テクノロジースとアーキテクチャー使用許可の契約を交わした。なお龍芯は健在で、同CPUを採用したパソコンも販売されている。

(4)中科紅旗リナックスの消滅

文革京劇風テレビCMで世界を笑わせてくれた、中国独自開発のLinuxディストリビューション、中科紅旗リナックス。やはり中国科学院がバックについている。他社の知的所有権を侵害していたわけではないが、「主な収入は政府の研究費」という状況から脱することができなかった。2012年に研究費が終了すると会社は速攻で破綻。先日、会社の完全な清算が発表された。ウインドウズ支配から脱却するための切り札と一瞬期待されたが、使っている一般人を見たことがない。

■中国は一体ではない

とまあ、こうした数々の伝説が残されているため、「中国人が作り上げた」「国産!自主開発!」というCOSの煽り発表会を疑わしく思う人が多いわけだ。

この「外側から見ていると中国は官民一体、上から下まで一丸となってうまいことやっている…ように見える」という問題はなにもIT業界だけにとどまらない。例えば記事「中国に外交政策はあるのか?中国をとかく強大に描くチャイナウォッチャーともう一つの視点」で取り上げた外交。中国内部の事情を見てみると、複数のプレイヤーが勝手なことをやらかしていることも多い。

ビジネスでもそうだ。地方政府が中央政府の裏をかいてアグレッシブな開発を進めようとしたり、他地域の企業に負けないよう地元企業に有利な産業政策や政府調達契約を作ったりというのはざらにある。

こうした状況を考えれば、COSは「中国の世界に対する挑戦」説よりも、「お上を食い物にしようとぶちあげた」説のほうに信憑性を感じる。もっともあまりにも華麗なぶちあげをかましすぎてツッコミが殺到してしまっているため、これで研究費獲得は難しいかもしれないが…。

◆筆者プロフィール:高口康太(たかぐち・こうた)

翻訳家、ライター。豊富な中国経験を活かし、海外の視点ではなく中国の論理を理解した上でその問題点を浮き上がらせることに定評がある。独自の切り口で中国と新興国を読むニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。

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