<コラム>「メイソウ」は「中国版100円雑貨」という誤解と、あんまりな皮肉

大串 富史    2020年11月14日(土) 8時20分

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中国の某所で見かけた「メイソウ」。日中の物価の差や中国の2元店の存在からすれば、「中国版100円雑貨」と言うよりはむしろ「中国版ワンコイン雑貨」と言ったほうがしっくりくる。

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「だってこれ、100円に見えないじゃないですか。日本のお土産にぴったりですよ」。もう10年近く前になるが、友人が日本のいわゆる100円ショップで買ったというパン切りナイフのことを、そう言って見せてくれた。

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当時、中国に滞在していたその日本人の友人は、日本に一時帰国の折、中国の友人たちへの「安上がりな」日本のお土産ということで、日本の100円ショップを大いに活用していた。

それから10年もたっていないのだが、中国における雑貨ショップは全く様変わりしてしまったようにも見える。日本で既に知られている「メイソウ」をはじめとした、日本人にとって違和感のない雑貨ショップが中国全国のあちこちで開店しているからだ。

これについて「中国版100円雑貨のメイソウ、本家しのぐ 世界4200店 | 日本経済新聞」という記事では、「日本風の商品や店づくりで成長してきた中国の雑貨店大手、名創優品(メイソウ)が米ニューヨーク証券取引所に上場した。世界80超の国・地域で4200店以上を展開しており、日本の100円ショップのような専門店で『ダイソー』や『無印良品』の模倣だとの指摘もあるが、成長スピードは本家を上回る」と紹介する。

ダイソーは創業43年で世界5500強店舗、無印良品は西友ストアー(現:合同会社西友)のプライベートブランドとしてのスタートから数えて創業40年で国内海外合わせて1000店弱であるから、2013年に中国広東省広州市で1号店がスタートしたというメイソウの「成長スピード」は、確かに日本の比ではない。

その一方で、「メイソウ」がまだ存在していなかった頃から中国で生活している僕からすれば、「中国版100円雑貨のメイソウ」という上記報道の物言いは、日本人にありがちな誤解と、あんまりな皮肉とに満ちている。

というのも、中国には日本の100円ショップに相当する「2元店(または2元超市)」があるからだ。「メイソウ」のような「10元店」が中国のあちこちで開店する、もっとずっと前からである。

しかもそれら「中国版100円雑貨」は、「メイソウ」以上の「成長スピード」で、中国全土のあちこちに展開していた。以前に僕がいた北京の郊外でも、ぱっと見、町の金物店のような店構えの2元店が、当時でもマクドナルド1店舗当たり3店舗以上はあったと記憶している。

では中国の「2元店」と「10元店」の違いは、一体どこにあるのか。

ごくごく簡単に言ってしまえば、中国の2元店の商品は日本の100円ショップのそれに相当し、中国の10元店の商品は「無印良品」や「ユニクロ」(「メイソウ」のロゴは「ユニクロ」にそっくりという指摘がある)や、強いて言うならドン・キホーテあたりで売られているワンコイン(100円の5倍で500円)の商品に相当する。

もう少し正確に言うと、中国の2元店の商品は2元つまり日本円にして約30円だから、マックスでも30円(原価は20円以下)の価値しかないものばかりである。だから質的にも、日本の100円ショップの商品に遠く及ばない。

もっと具体的には、使い物にならなかったり、耐用性やデザインがなんだかなであったりする。たとえば掃除用のブラシであれば、使ってまもなく毛が抜けてくる。マグカップであれば、30円の質感とデザインのものしかない。

だがここで強調したいのは、中国の人的にはそれで事足りていた、という点だ。

ブラシの毛が抜けてきたなら、もう少しましなブラシを別の2元店で探して買い替えればよかったし、30円の質感またデザインのマグカップであっても、白湯(中国では水ではなく白湯を飲む)が飲めればそれでよかった。「安上がりな」100円ショップの「日本のお土産」が喜ばれたゆえんである。

ところがここ数年の間に、「<コラム>以前は大歓迎な『2元店』、今はどうして不人気?あまりにリアルな3つの原因 | 百度」という記事が言うところの「2元店の終わりは一時代の終わり」、つまり中国市場全体の変容が生じた。

まず、アリババの取締役であったジャック・マー氏が予告していた通り、中国ではネットショップによりリアルな店舗が(2元店も含め)大幅に駆逐されてしまった。

次いでここ数年の地価の急激な上昇により、日本の10倍以上の人口を擁する市場での薄利多売という2元店のマーケティング戦略そのものが、そもそも成り立たなくなってきた。

最後に、30円の代物では最近の中国の人々の要求を満たせなくなった。今どきの中国の消費者にとって、2元店の商品ではもはや事足りないのである。

だから、「中国版100円雑貨のメイソウ、本家しのぐ」というキャッチは日本人目線から見れば確かにそうなのだが、「メイソウ」が日本の企業をしのぐまでになったのは、むしろ「中国版100円雑貨」であった中国の2元店の減少と関係がある。

そしてここで強調したいのは、中国では実際にこのことが生じ、日本では生じる気配がない、という点である。

つまり、日本の100円ショップが数年のうちに駆逐されてしまうとか、同時に日本の消費者の志向が無印良品やユニクロやドン・キホーテのワンコイン商品にシフトするなどということが、日本では今のところ起きそうもない。

というか、そもそもリアル店舗をどんどん駆逐してしまうほど強力なネットモール(リアル店舗より安く送料無料である場合がほとんど)や、リアル店舗が店じまいをせざるを得ないほどの地価の高騰(それによって一番潤うのは地方政府だったりする)などという状況も、日本ではまず生じ得ない。

だからここに、「中国版100円雑貨のメイソウ」という、日本人にとっての誤解と皮肉がある。

まず、「中国版100円雑貨のメイソウ」は、なぜ誤解なのか。

日中の物価の差(物によって違うが2ないし5倍)や中国の2元店の存在からすれば、「中国版100円雑貨のメイソウ」と言うよりはむしろ「中国版ワンコイン雑貨のメイソウ」と言ったほうがしっくりくる。

ではこの「中国版ワンコイン雑貨のメイソウ」は、なぜ日本人にとっての皮肉なのか。

「今中国では、100円ショップなんかより500円ショップのほうが盛況です!」とでも言えば、幾らかでも分かりやすいだろうか。

しかも10年足らずで、である。

「パックス・チャイナ」という新語や、米国との「押し合い」は、10年前にはなかったのである。だから、僕たちが娘を連れて日本に帰国予定の6年後に、中国は-そして日本は-どうなっているんだろうと思わざるを得ない。

あるいは中国の人たちが「安上がりな」中国のお土産ということで、中国の10元店の商品を大いに活用、という日が来るのかもしれない…などと妄想してみる。あんまりといえば、あんまりな皮肉である。

「だってこれ、ワンコインに見えないじゃないですか。日本人へのお土産にぴったりですよ」。

■筆者プロフィール:大串 富史

本業はITなんでも屋なフリーライター。各種メディアでゴーストライターをするかたわら、中国・北京に8年間、中国・青島に3年間滞在。中国人の妻の助けと支えのもと新HSK6級を取得後は、共にネット留学を旨とする「長城中国語」にて中国語また日本語を教えつつ日中中日翻訳にもたずさわる。中国・中国人・中国語学習・中国ビジネスの真相を日本に紹介するコラムを執筆中。

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