<揺れる中国経済>「デフォルト容認」の意味するもの―李克強首相の複雑な胸の内を読み解く

八牧浩行    2014年3月14日(金) 8時39分

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13日、中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)が閉幕。習近平政権は7.5%成長を維持しつつ、膨らむ「シャドーバンキング(影の銀行)」対策を優先課題とする方針を確認した。社債のデフォルトなど金融リスクへの警戒も広がる。写真は上海市内。

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2014年3月13日、中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)が閉幕。習近平政権は7.5%成長を維持しつつ、膨らむ「シャドーバンキング(影の銀行)」対策を優先課題とする方針を確認した。足元の景気情勢が揺らぐ中で、社債の債務不履行(デフォルト)など金融リスクへの警戒も広がり、「景気」と「改革」の両立は「狭き道」となっている。

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李克強首相は全人代閉幕後の記者会見で、デフォルトの危機が浮上している金融商品に言及、「シャドーバンキング等の金融リスクについては監督を強めている。私が金融商品のデフォルトを見たいはずがない。個別の状況では(デフォルトが)避けがたいが、我々は監督を強めていち早く処理し、金融システムのリスクを避けねばならない」と強調した。

慎重な言い回しながら社債など金融商品のデフォルトを一部容認した上で、金融リスクの拡散防止に全力を挙げる考えを示したもので、方針転換といえる。中国では、業績悪化企業などを救済してきたが、3月7日、初の社債の利払い不履行が発生。ただ金融不安が広がれば、経済に悪影響を与えるため、個別に慎重に対応、救済の必要性を判断する見通しだ。 

◆「成長と改革の両立」は狭い道

李克強首相は記者会見の中で、「多重の目標の実現には、合理的な平衡点を見つけ出す必要がある」と強調した。複雑に交錯する多くの課題を、バランスをとりながら解きほぐそうとしているが、李首相も認めるように、狭い道(ナローパス)を通すような厳しいかじ取りを強いられる。

全人代は14年の国内総生産(GDP)成長率目標を「7.5%前後」とすることを決定。李首相は「人民の生活を改善するには、毎年1000万人以上の都市労働力を生み出す必要がある。7.5%前後という目標は雇用を確保し、人民の収入を増やす上で合理的な目標だ。安定成長で就業機会を確保しつつ、インフレや金融リスクを抑え、大気汚染に対処せねばならない。我々は今年も経済を合理的な範囲に保つ能力と条件がある」と言明した。

その上で、李首相は「(実際の成長率が)少し高くても低くても容認する。GDPだけを追求することはしない」と強調した。経済成長率目標には弾力性があるとの認識を表明したもので、足元の景気諸指標が減速している中で、これも注目すべき発言だ。目標は果たして「雇用対策上の至上命題」なのか?それとも「安定成長への減速容認」なのか?

中国はなお実質的な計画経済下にあり、従来、政府は目標を順守するため、財政支出拡大などによりほぼ達成してきた実績がある。ところが、不動産バブルの醸成など「帳尻を合わすためのインフラ投資」の弊害も目立っているのが実情だ。李氏発言は、改革断行のための「陣痛」は不可避であり、先行きを見通せないことを披歴した格好。微妙に揺れる胸の内も見て取れる。

「中国経済を取り巻く環境が複雑さを増していることは否定しない」と李首相が同日の記者会見で表明した直後に発表された1〜2月の主要経済指標は厳しい数字だった。工業生産は前年同期比8.6%増と約5年ぶりの低い伸びにとどまり、消費動向を示す社会消費品小売売上高も11.8%増と、13%台だった昨年の伸びに届かなかった。中国政府が進める鉄鋼業の過剰設備の廃棄や腐敗撲滅・綱紀粛正・贅沢禁止などの「改革」の影響とされている。

◆シャドーバンキング制御は可能か

こうした中、中国経済に詳しい専門家の見立てはやや楽観的だ。関志雄・野村資本市場研究所シニアフェローは「シャドーバンキングが破たんしても、中国の銀行本体の財務状況は良好で、損失をカバーする体力があるし、そもそも国有銀行だから政府が支援に乗り出す」と語っている。河合正弘・前アジア開発銀行所長も「シャドーバンキング関連の地方政府を中心とした債務は年間GDPの50〜60%に達しているが、中国の金融当局は解決へ正面から取り組んでいる。日本のバブル崩壊後の金融混乱や米国のサブプライム問題をきっかけとしたリーマンショックと異なり、中央政府の強い権限や高い財政力などを背景に、この問題の制御は可能だ」と分析している。

20年のGDPを10年水準の2倍に拡大する目標を掲げる中国。習指導部が「痛み」をどこまで覚悟して、改革を進めるか世界の耳目が集中している。同時に金融リスクの膨張を抑えると同時に、過度の信用収縮や景気の下振れを避ける―。多くの高いハードルを乗り越えることができるか。(Record China主筆・八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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