<遠藤誉が斬る>全人代に見る中国の対日強硬路線――狙いは日米の分断

Record China    2014年3月10日(月) 6時46分

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8日、全人代開催の一環として中国の王毅外相が記者会見、「領土問題と歴史問題に関しては妥協の余地はまったくない」と断言した上で、2015年にモスクワで行うことになっている「反ファシズム戦勝70周年記念」に中国が参加することを再度強調した。写真は王外相。

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2013年3月8日、全人代開催の一環として、中国の王毅外相が記者会見を行った。記者からの質問に対し、王毅外相は「領土問題と歴史問題に関しては妥協の余地はまったくない」と断言した上で、2015年にモスクワで行うことになっている「反ファシズム戦勝70周年記念」に中国が参加することを再度強調した。

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また、李克強首相が3月5日の政治活動報告で使った「第二次世界大戦後の国際秩序を乱してはならない」という言葉を引用して、日本を牽制。それにしても政府の政治活動報告で中国首相が歴史問題に触れること自体、非常に稀だ。

では中国の対日強硬路線の狙いはどこにあるのか。

それは「日米分断」という一点で焦点を結んでいる。

2013年10月9日の本コラム「<遠藤誉が斬る>中国はなぜ日中首脳会談を拒否するのか?―「強気」を支える米重大リポートを暴く」(第3回)で述べたように、領土問題に関しては「アメリカはどちらの側にも立たない」とオバマ大統領も高らかに宣言している。中国は米側のこの立場を最大限に利用し、「米中は同じ立場にある」ことを強調してきた。

そこに昨年12月26日の安倍首相の靖国神社参拝を受けて米側が「失望」の意を表したものだから、中国はこれを「最大の好カード」と受け止めて、またもや「米中は同じ立場にある」と全世界に向けて宣伝し始めた。「戦後秩序を乱す」という懸念において、米中は一致するというメッセージを発し続けたのである。

その手法として世界各国にある中国大使館の特命全権大使と当該国との対談を英語で行い、それをインターネットにアップして世界に発信し、国際世論形成に注力した。

韓国に関しては、朴槿恵(パク・クネ)大統領自身の媚中外交により「日韓」および「米韓」関係の絆は薄らいでいる。朴槿恵自身は、親日であった父親の関係から、自分が自国において親日と罵られないようにするため、保身のために必死で反日の姿勢を強調している。中国にとって、これほどありがたいことはない。中国の方から何もしなくても、「日韓分断」を朴槿恵の方からやってくれているのだから。これにより「日米」の間に隙間風が吹くことを中国は願っている。

台湾に関しては、2014年2月、1949年の中国建国以来初めての、中台最高級レベル協議が南京市で開かれた。昨年10月6日、インドネシアのバリで、APEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議が開かれた前日、中国の習近平国家主席は台湾の蕭万長前副総統と会談している。そのとき習近平は溢れんばかりの笑みを振りまいて蕭万長と握手し、「両岸問題を後の世代に残したくない」として、あたかも習近平政権内に両岸(中台)統一を成し遂げるような発言をした。

10月10日には、今度は台湾の馬英九が「両岸は二つの国といった国際関係ではない」と呼応している。習近平と馬英九との会談が、今年中には何らかの形で持たれるであろうことが考えられる。

それというのも、2013年4月に「日台漁業取り決め」が締結されたことを受けて、尖閣問題に関して日台が協力的な方向で接近するのではないかとの懸念を中国は抱いており、これを阻止するためだ。ここでは「日台」を分断させて、「米台」との距離を遠ざけることにより、結果的に「日米」の間に楔を入れることを狙いの一つとしている。

一方、北方領土問題を解決するには、今ほど絶好のチャンスはないため、安倍首相はロシアプーチン大統領と会談を重ねて良好な関係を築いてきたが、習近平はそれを上回る回数、プーチンと会談している。習近平とプーチンの仲は離れそうにない。

そこに湧いてきたウクライナ問題。

プーチンが軍事介入すればオバマが黙っておらず、日米同盟により日本は米国に付くしかない。せっかく築いてきたプーチンとの仲は消えるだけでなく、集団的自衛権が成立すればロシアと戦わなければならない事態となる。

この事態を敏感に感じ取った北朝鮮は日本に接近し、日朝赤十字会談が3月3日に中国の瀋陽で開催された。

日本を巡るこういった国際環境の中で、王毅外相が敢えて来年モスクワで開催される「反ファシスト戦勝70周年記念」を強調したのは、日本が米ロの板挟みになっていることを見透かしているからであろう。

(なお、ここに述べた内容の一部は、4月1日に小学館から出版される『中国人が選んだワースト中国人番付』で詳述した。)

(<遠藤誉が斬る>第22回)

遠藤誉(えんどう・ほまれ)

筑波大学名誉教授、東京福祉大学国際交流センター長。1941年に中国で生まれ、53年、日本帰国。著書に『ネット大国中国―言論をめぐる攻防』『チャイナ・ナイン―中国を動 かす9人の男たち』『チャイナ・ジャッジ毛沢東になれなかった男』『チャイナ・ギャップ―噛み合わない日中の歯車』、『●(上下を縦に重ねる)子チャーズ―中国建国の残火』『完全解読「中国外交戦略」の狙い』など多数。

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