影の銀行がデフォルトしたら金融が健全になるはず、中国のデフォルト期待論と「剛性兌付」の神話

Record China    2014年3月14日(金) 16時4分

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中国「影の銀行」の投資商品デフォルト問題が再び注目を集めている。日本語記事では「影の銀行崩壊、中国経済、やばい」的な報道が目立つが、中国国内の報道を読むと「時はきた!一発デフォルトかますことで中国金融は正常な道を歩むのだ」という期待論も少なくない。

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先月来、中国「影の銀行」の投資商品デフォルト(債務不履行)問題が再び注目を集めている。日本語記事では「影の銀行崩壊キター!中国経済、やばい」的な報道が目立つが、中国国内の報道を読むと「時はきた!一発デフォルトかますことで中国金融は正常な道を歩むのだ」というデフォルト期待論も少なくない。

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これはいったいどういうことなのか?解説してみたい。

■影の銀行とはなにか?

まずおさらいとして「影の銀行」とは何かについて簡単に触れておきたい。

・影の銀行とは、従来型の銀行とは違い当局の規制を受けない金融仲介形態全般ぐらいの意味。

・「仲介形態」なので、「影の銀行のB社です!」的な会社があるわけではない。銀行や証券会社などがやっている業務が影の銀行。

・「影の銀行」は中国特有の存在ではない。サブプライムローンの際には米国の「シャドーバンキング」がレバレッジを拡大させたとして注目されている。

・影の銀行は2種類に大別できる。

・1つは銀行のオフバランス取引(貸借対照表(バランスシート)上に計上されない取引)。委託融資(ある企業が別の企業、プロジェクトに融資するのを金融機関が仲介する)、信託融資(ある企業、プロジェクト向けの融資を信託商品として一般向けに販売)の2種類がある。

・金融に厳しい規制が課されている中国では、影の銀行が適切な資金の運用と必要な場所への資金の供給を担っているというプラスの側面もある。

簡潔にまとめれば以上のようになるだろうか。解説を読んで、ずいぶんと影の銀行の肩を持つじゃないかと思われる方もいるだろう。もちろんハイリスクの投資商品として相応のリスクがあることは間違いないのだが、なんでもかんでも影の銀行を悪役扱いしてすませばいい話ではない。

例えば中国の地方債務の高まりと影の銀行がワンセットという言葉で説明されることが多いが、これが影の銀行のすべてではない。そもそも地方政府は土地を担保に銀行から金を借りてインフラ建設をしてGDPを底上げするという手法をやっていたのが、それを2010年に中央政府に禁止されたので影の銀行が重宝されるようになったという歴史がある。

問題は影の銀行で金集めしたかどうかではなく、返せるレベルの負債なのか、持続可能な地方財政なのかという点にある。

■投資商品が絶対にデフォルトしない中国

さて前置きが長くなった。続いて「デフォルト期待論」について。

現在、デフォルトが懸念されているのは吉林省信託が中国建設銀行を通じて一般投資家向けに販売した投資商品「吉信・松花江(77)号」だ。上述の影の銀行の説明では信託融資にあたる。9億7270万元(約164億円)の資金を調達し、6回に分けて償還する計画だったが、第5回の返還が遅れている。

ついに中国にも融資焦げ付きがキタっ!と驚くのはポイントを外している。実は融資を受けた山西聯盛能源有限公司に返済能力はなく、普通の意味での融資焦げ付き、投資商品デフォルトはとっくの昔に到来しているし、珍しい話ではない。

これが他の国ならば投資家の皆さんは元本割れの大損をこくことは必至なのだが、中国では違う。当初予定されていた利回り全額はもらえないだろうが、元本は保障されるとみられている。それはなぜか?

「吉信・松花江(77)号」の償還をめぐる駆け引きは現在進行形だが、本来ならば大損をこくはずなのに掛け金が返ってきたという事案は先日あったばかり。それが1月31日に償還期限を迎えた「誠至金開1号」事件だ。こちらも融資を受けていたのは石炭会社で実質破綻状態。どう考えても大損必至だったのだが、「謎の投資家」が現れて、一般の投資家の皆さんが持つ投資商品を購入。予定されていた利回りは割り込んだものの、元本は保障された。

■「剛性兌付」の神話

「剛性兌付」(絶対支払い)という言葉がある。ハイリスクな投資商品がこげついたとしても、謎の投資家があらわれたり、意味不明なほど親切な合併相手が登場してくれたり、あるいは銀行の不自然な融資によって、最終的には投資商品の元本は保障されるという意味だ。

もちろんそんな親切な偶然は存在せず、政府が秩序維持のために仲介して一般投資家の元本が毀損しないよう手を打ってきた。どんなハイリスク投資商品を買っても元本は保障されるというステキな慣習である。

もっとも弊害も大きい。本来、投資家がかぶるべき損を謎の投資家や親切な合併相手がかぶってくれているわけだが、そのコストはただではない。なんらかの形で便宜がはかられたり、あるいは独占産業の分厚い利益で補填していることになる。

またハイリスクな投資商品でも元本が保障されるとなれば、少々怪しげな会社への融資でも利回りがいい商品を買ってしまうのは自然な話。となると、安全安心の優良企業でも利回りを高くしないと資金調達ができなくなってしまうという問題がある。

■中国政府のタイトロープダンサー能力に期待

こんな歪んだ金融はどぎゃんかせんといかん、一発デフォルトを起こして「剛性兌付」の神話を破壊しなくては。

これが一部で高まるデフォルト期待論だ。地方政府がらみがデフォルトするのは論外だが、企業向けの投資商品は単発でデフォルトがあったほうが金融システムが健全になるかも、という話である。1月の「誠至金開1号」、そして2月の「吉信・松花江(77)号」がその嚆矢(こうし)になるのではとも噂されてきたが、どうやら回避されそうな状況にある。

まあ「デフォルト一発、健全金融」という発想にも怖さがある。「今後は剛性兌付はないんですね。じゃあリスクとリターンをしっかり考えなきゃね」となってくれればいいのだが、「今後はいつデフォルトが来てもおかしくない。とりあえず影の銀行からは資金引き上げや!」という方向に雪崩を打つようなことがあれば、影の銀行が支えてきた金融市場が崩壊しかねないからだ。

というわけで、中国当局はどこかで「剛性兌付」の神話を打破しなければならないし、そうした改革は焦眉の課題だが、それが金融システム全体のリスクに発展しないように配慮するソフトランディングを目指さなければならないという七面倒くさい状況にある。

この面倒な舵取りを中国当局はどうこなすのかが見もの。もちろん失敗するとその影響は日本にも及ぶ。頼むからとちらないで、でも改革も頑張って、と無責任に祈るばかりである。

◆筆者プロフィール:高口康太(たかぐち・こうた)

翻訳家、ライター。豊富な中国経験を活かし、海外の視点ではなく中国の論理を理解した上でその問題点を浮き上がらせることに定評がある。独自の切り口で中国と新興国を読むニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。

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