「日本国憲法は社会主義的」のウソ―社会主義憲法と近いのは自民党改憲草案、中国憲法と酷似

Record China    2014年3月8日(土) 17時23分

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自民党の赤池誠章議員が参院憲法審査会で、現行憲法は「“憲法違反の存在”」「スターリン憲法の影響を受けている」と発言、話題となっている。写真は国会議事堂。

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自民党の赤池誠章議員が参院憲法審査会で、現行憲法は「“憲法違反の存在”」「スターリン憲法の影響を受けている」と発言、話題となっている。

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社会主義憲法の一つ、中華人民共和国憲法をも研究対象にしている筆者の立場からいうと、日本の現行憲法が社会主義憲法の影響下にあるとの赤池議員の指摘は言いがかりに近いように思われる。むしろ自民党憲法改正草案のほうが社会主義憲法に近い性格を有している。

■現行日本国憲法は社会主義憲法の影響下にあるのか?

赤池議員の発言は2014年2月26日開催の参議院憲法審査会でのもの。該当発言は以下のとおり。

(日本国憲法は)旧ソ連の1936年スターリン憲法に影響されており、共産主義が紛れ込んでおります。第24条の家族生活における個人の尊重や、両性の平等、27条の勤労の権利および義務などは、その条項にあたるといわれております。社会主義者や共産主義者が護憲になる理由がここにあるわけです。

(「「憲法自体が“憲法違反の存在”」自民党副幹事長・赤池 誠章議員による憲法審査会冒頭発言書き起こし」 Blogos、2014年3月1日参照)

確かに「両性の平等」や「勤労の義務」は社会主義国がまず規定したという歴史はある。しかし現在では「両性の平等」は世界的に普遍なものである。もしこの論理が成り立つならば、日本以外の多くの西側諸国も社会主義憲法の影響下に置かれていることになるだろう。

また「勤労の義務」についても、社会主義憲法とそれ以外の憲法では言葉は同じでも意味が違う。社会主義国家における「勤労の義務」は国家の発展のために「働かせる」、いわば強制労働を規定したものであった。実際、ソビエト連邦や旧東ドイツ、中国、北朝鮮などでは無職の者を強制収容所に入れるための規定が存在した。

また「個人の尊重」だが、社会主義国家は国民全員が国家に忠実なロボットでなければならないため、社会主義国に「個人の尊重」条項は置かれないのが基本である。

■自民党改憲草案こそ社会主義憲法に類似している

以上指摘したとおり、現行憲法が社会主義憲法の影響下にあるとの認識は成立しがたい。むしろ自民党改憲草案のほうが社会主義憲法の特色を持っていると言うべきだろう。

自民党憲法草案前文第3段落には「和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する」、草案第24条には「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」という文章がある。

「和を尊ぶべし」という考えは道徳に属する分野であろう。この法律と道徳の結合こそ、社会主義法の大きな特徴である。

例えば中国の婚姻法の第4条は「夫婦は相互に忠実であり、互いを尊重しなければならない。家族成員は敬老愛幼をし、相互に助け合い、平等、和睦、文明的な婚姻関係を維持しなければならない」と規定している。自民党改憲草案第24条とうり二つだ。

また改正草案第13条には「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない」と書かれ、国民の権利よりも「公の秩序」を優先すると規定されている。現行憲法第11条のように「基本的人権を国民に与える」と直接の権利付与をうたっていない点も注目される。

全体の利益が最優先されるのは社会主義法理論の特徴である。現行中国憲法第51条には「中国公民は、その自由及び権利を行使するときには、国、社会及び集団の利益並びに他の公民の適法な自由及び権利を損なってはならない」という、ほぼ同じ規定が存在する。

さらに改正草案第99条第3項には「(緊急事態宣言が出された場合にも)基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない」と規定されている。基本的人権は「最大限に尊重」するのみで、「絶対に侵してはならない」ものではないわけだ。つまり、緊急事態の場合、国家が人権規定を停止できるという意味であり、中国と同じく法律によって権利を剥奪することが可能だという前提が存在している。

■日本国憲法は押し付けられたものなのか?冷静な議論のために知っておくべきこと

このように見ていくと、自民党憲法改正案は、社会主義憲法、特に現存する社会主義大国である中国の憲法を参考にしたとしか思えない規定が随所に存在する。特にそれが色濃く表れているのが人権規定だ。よく「人権弾圧国家・中国」という言い方がされているが、日本も同じになりたいということだろうか?

なお、憲法改正についてなされる主張に「GHQに押し付けられた憲法であり、自分たちで憲法を作るべき」というものがある。しかしこれは憲法史的にはもっと丁寧な議論が必要で、「押し付けられたと捉える説がある」とするのが正確なところだ。

実際には憲法起草前にアメリカ政府との間では憲法に関して意見交換が行われている。マッカーサー草案発表と前後して日本の知識人の多くも憲法私案を作成していたが、この私案は日本国憲法とその価値観を同じにしていた。さらに帝国議会はマッカーサー草案を支持していたし、極東委員会から憲法施行後一年後二年以内に改正の要否につき検討する機会を与えられていたが、日本政府は改正の必要なしと判断していた。

「憲法が押し付けられたもの」だから改正しようというのは、憲法史的には公平な論理ではない、むしろ憲法改正のために「押し付けられた」という理屈を強調しているに過ぎないのではないか。

改憲論はきわめて政治的なテーマだ。改憲派・護憲派を問わずイデオロギー的な意見が大半を占めている。残念ながら、専門書を読まなければ中立的な意見や事実を知ることが難しいという状況にある。改憲、護憲どちらの志向を持つにせよ自ら学ぶ姿勢を必要だ。

事実を踏まえた冷静な議論が行われること、そして「人権弾圧国家、日本と中国」と呼ばれる日が来ないことを祈っている。

◆筆者プロフィール:高橋孝治(たかはし・こうじ)

日本文化大学卒業。法政大学大学院・放送大学大学院修了。中国法の魅力に取り憑かれ、都内社労士事務所を退職し渡中。現在、中国政法大学 刑事司法学院 博士課程在学中。特定社会保険労務士有資格者、行政書士有資格者、法律諮詢師、民事執行師。※法律諮詢師(和訳は「法律コンサル士」)、民事執行師は中国政府認定の法律家(試験事務局いわく初の外国人合格とのこと)。『Whenever北京《城市漫歩》北京日文版増刊』にて「理論から見る中国ビジネス法」連載中。

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