日中韓印など16カ国の世界最大広域経済圏交渉が進展、15年末妥結へ―日本のメリットはTPPの数倍!

八牧浩行    2014年3月3日(月) 8時0分

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環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が難航している中で、アジアの大部分を全域をカバーする自由貿易協定(FTA)である東アジア地域包括的経済連携(RCEP=アールセップ)の交渉が進展している。写真は国際色豊かな上海市内。

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 環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が難航している中で、アジアの大部分を全域をカバーする自由貿易協定(FTA)である東アジア地域包括的経済連携(RCEP=アールセップ)の交渉が進展している。関税や投資規制の緩和など8つの分野で協議。実現すれば人口34億人(世界の半分)、GDP20兆ドル(世界全体の3割)、貿易総額10兆ドル(世界全体の3割)を占め、欧州連合(EU)を凌ぐ、世界最大の広域経済圏となる。参加国は米国主導のTPPとも一部重なり、双方に参加する日本は「橋渡し役」としての主導的なポジションを担う。

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RCEPは東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国と日本、中国、韓国、豪州、インド、ニュージーランドの合計16カ国が参加。域内の関税引き下げ、サービス貿易に関する制限の撤廃、投資の促進・自由化などに取り組む。貿易や投資の円滑化により、国際的、地域的なサプライチェーン(供給網)の整備を促す狙いもある。

すべての関税撤廃を原則とするTPPに比べ、RCEPは「参加国の個別かつ多様な事情を認識する仕組みなので各国の発展段階に沿った歩みが可能となる」という。このため所得が低く経済基盤が未整備な新興国も参加しやすいとされる。

 

◆関税ゼロ「10年以内に90%以上」目指す日本案が軸

交渉分野は、(1)物品貿易(2)通信や金融などサービス貿易(3)投資(4)経済及び技術協力(5)知的財産(6)カルテルを抑える競争政策(7)紛争解決(8)その他―の8項目。昨年5月にブルネイで開かれた初回全体会合では、関税とサービス貿易、投資の3分野で作業部会を立ち上げることで合意し、各作業部会で協議されている。この初回会合に続いて既に2回の全体会合が開催され、交渉は進展している。

最大の焦点である関税をめぐる交渉での各国の立場は異なる。豪州やASEANは「すぐに関税を無くす品目、5年後に無くす品目と期間ごとに目標を定める」方式を提唱。ASEANは「低所得国には別枠の目標を認める」よう求めている。中国、韓国は「事前の目標設定は不要」との立場だ。日本は「10年以内に90%以上」を目指すことを提案している。

日本の貿易品目9018のうち、農水産品は2419品目。全品目の90%の関税を無くすことで合意しても、関税を維持できる約900品目の大半を農水産品に充てれば「聖域」を守りやすくなるという狙いだ。関税交渉で日本は攻守の戦略を求められる。例えば自動車など工業製品。各国に関税撤廃を求める「攻め」の分野だが、中国やベトナムは国内産業の保護・育成を掲げており、この分野の大幅市場開放を渋っている。日本が「守る」農業分野ではオーストラリアやニュージーランドはTPPと同様、関税の撤廃・引き下げを強く求めるスタンスだ。

中国、韓国以外に90%の目標設定に反対する国はほとんどないため、日本の提案を軸に交渉は進捗しつつある。8月に予定されている閣僚会合までに共通の自由化率を決められれば、目標の2015年末の交渉妥結も視野に入ってくる。

サービス貿易では日韓、豪州、ニュージーランドが「原則的に全て自由化し例外項目だけを載せる」方式を主張。中国、インド、ASEANは「原則全て禁止とし自由化を許す項目だけ載せる」ことを求める。対立しているのは、環境保護、労働力の移動、インフラ整備を含む政府調達の3項目を交渉で扱うかどうかの点。豪州とニュージーランドは「包括的な経済連携とするなら加えるべきだ」と主張。これに中国やインドは難色を示している。 

◆大きい日本企業の利点

日本は関税、政府調達、知的財産など21分野を話し合うTPP交渉との両にらみで交渉の主導権を強める方針。日本と同じくRCEPとTPPに参加する豪州やニュージーランドと連携を深める機会になる。日本にとって「攻め」の分野である知的財産の保護や外資規制の撤廃については、豪州、ニュージーランドと共同歩調を取る構えだ。

RCEPはTPPより市場規模も大きく、ASEAN諸国、中国、インドにサプライチェーン(供給網)を持つ日本企業にとってメリットは大きい。製品、部品、投資などの妨げとなる壁を低くして、域内で共通の貿易・投資のルールを整えれば企業の生産体制はさらに低コストで迅速に機能するようになる。

RCEP参加国は経済発展の段階が異なり市場開放の程度もまちまちだが、世界の成長センター・アジアの主要国を網羅するRCEPは、日本にとってTPPの数倍のメリットがあるとされる。早くから先進国としてアジアをけん引してきた日本は交渉をリードし、より高い水準の自由化実現へ最優先課題として取り組むべきである。(Record China主筆・八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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