<東日本大震災10年>福島原発事故が暗い影、旧避難地域の居住3割―チェルノブイリとの共通点

八牧浩行    2021年3月11日(木) 5時50分

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東日本大震災が発生した2011年3月11日から10年。大震災による死者・行方不明者は1万8425人に上る。原発事故による深刻な影響もあり、完全な復興までの道のりはなお遠い。写真は日本の防災訓練。

東日本大震災が発生した2011年3月11日から10年。今年3月1日時点の大震災による死者は12都道県で1万5900人。このほかこの10年間で3767人が関連死と認定され、行方不明者は6県で2525人に上る。今なお4万1241人が避難を余儀なくされている。原発事故による深刻な影響もあり、完全な復興までの道のりはなお遠い。

特に復興が遅れているのが福島県。東京電力福島第1原子力発電所で爆発が起き、原子炉建屋の上半分が吹き飛んだ。記録映像からは、すさまじい地震と事故の記憶がよみがえる。

◆遅れる廃炉作業

炉心溶融(メルトダウン)で大量の放射性物質を出した原発を解体し、溶け落ちた燃料デブリを安全に取り出す廃炉作業が進められているが、困難を極めている。政府と東電は事故から30~40年で廃炉を完了する計画を推進。現在毎日4000人前後が作業にあたっている。

しかし作業は相当遅れている。3号機の建屋上部のプール内にあった使用済み燃料取り出しは4年半遅れて始まり、今年2月にようやく終えた。最難関とされるデブリの取り出しは当初計画より大分ずれ込み2022年内に開始の予定だ。

漏出した放射線によって、住民と大地は深い傷を負った。除染が進み、政府による福島県沿岸部の避難指示は、帰還困難区域を除いて解除された。しかし、10市町村の旧避難区域での居住率はなお31%にとどまる。避難の長期化で生活基盤を移した住民が多く、帰還者数は頭打ちの状態だ。地元自治体は存続への危機感から、住宅補助の充実や雇用創出をアピールし、移住者に帰還を呼びかけるが計画通り進まない。

避難先で既に就職していたり、病気がちで生活をやり直すことが困難だったりする「戻らない被災者」問題だ。避難指示地域でなくても、乳幼児・児童を連れて遠方に移り住んだ家族が増えたが、その多くは子どもの健康を懸念し、帰還していない。雇用機会や医療・福祉施設や買い物環境の充実を求める声も目立つ。

◆「放射能は人間の繋がりを強制終了」

1986年4月26日に原発事故が起きた旧ウクライナ共和国・チェルノブイリと福島を往復し、撮り続けている写真家・中筋純氏は、原発事故被災地の浪江町を訪れた際、「人の気配はなく、カラスの鳴き声と、破れたトタン屋根の軋(きし)む音だけが響いていた。時とともに町の息吹であった人々の生活感は抜けていき、まるで抜け殻が転がっているようだった」と語る。「放射能は人間の営みとか土地の歴史とか人間の繋がりをすべて強制終了させてしまう」とし、「事故から年月が経つと放射能とか補償とか分断され、社会全体がイメージを共有できない状況がある」と懸念。「チェルノブイリ事故も同じであり、放射能被災地に行くたびに、恐ろしさに圧倒される」と語っている。

◆続く「風評」被害

今年2月1日現在の福島県の人口は 182万人。震災前の202万人から20万人も減少した。深刻だったのは「風評」被害。農作物などの「風評被害」について、「中通り」の中心都市・郡山市の品川萬里市長は震災5年後の時点での記者会見(日本記者クラブ)で、「残念ながらまだ解消しておらず、福島県産というだけでやめたという反応も少なくない」と顔を曇らせていた。

福島県の内堀雅雄知事は「最大の課題は福島第一原発の廃炉だが、高い放射線レベルの炉の中では、ロボットによる作業でさえも困難を極める」と慨嘆。「世界の英知を結集して取り組んでもらいたい」と訴えていた。その上で、「風力など再生可能エネルギー開発に注力し、2040年ごろには、県内電力需要の100%を賄うことを目標にしている」と強調していた。

◆隠ぺいされた「メルトダウン」

安倍晋三前首相は2013年の東京五輪招致の演説(アルゼンチン。ブエノスアイレス)で、原発汚染水状況を「アンダーコントロール(管理下にある)」と世界にアピールした。原子力規制委員会の新基準についても国会で「世界一厳しい」と胸を張った。しかし、メルトダウン(炉心溶融)状態だったことがその後判明、この深刻な事実を隠ぺいしていたのだ。

今後、作業の大きな障害となるのが、流入する地下水などから大半の放射性物質を除去した後の処理水の扱いだ。放射性トリチウムが残っているため、すべてタンクに保管している。その総数は1000基を超え、このままでは22年夏~秋には増設余地がなくなる。デブリ取り出し用の機材やデブリを保管する場所を確保できなくなるからだ。

経済産業省委員会は20年2月、処理水の海洋放出が他の方法に比べ「より確実」とする報告書をまとめたが、水産業を営む人たちの反対は根強い。処理水はもともとデブリに触れた水で、海洋放出が始まれば風評被害で再び打撃を受けると懸念も高まっている。

◆消滅した海岸林や田畑が蘇る

こうした中、宮城県名取市では、大津波によって消滅した海岸林や田畑を再生する事業が進行している。この再生計画を推進する公益財団法人「オイスカ(OISCA)」や「名取市海岸林再生の会」は、大津波により壊滅的な被害を受けた海岸林を再生するために、クロマツ約50万本の育苗・植栽を行ってきた。この事業がスタートした当時、OISCA幹部は「森づくりには人づくりが不可欠と考えており、人々に頼りにされる森にしていきたい」と語っていた。大震災2年後の2013年に植えたクロマツの苗木は大きく育ち、一面砂漠のようだった海岸に緑の森が甦っている。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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