<コラム>ニュース中国語事始め=大統領選たけなわ、飛び交う米国政治用語

如月隼人    2020年11月2日(月) 17時40分

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米国では大統領選も最終局面。中国でも関連報道が増えています。そこで今回は、米国の政治に関連するニュース用語をご紹介しましょう。写真はトランプ大統領。

米国では大統領選も最終局面。中国でも関連報道が増えています。そこで今回は、米国の政治に関連するニュース用語をご紹介しましょう。

現職大統領のトランプ氏ですが、中国では<特朗普(te4lang3pu3)>です。ただし、中国国外のメディアや、中国でも政府発表や正式の報道以外では<川普(chuang1pu3)>の訳語がよく使われます。英語で「Trump」と書くことで分かるように、「t」と「r」の間には母音がないのですが、<特朗普>では、はっきりと母音が入ってしまいます。<川普>の発音の方が、むしろ英語に近く聞こえてくるから不思議です。<川>は<ch>の部分で舌先を上に受けて口蓋の天井に接触させる発音なので、「r」の音に似て聞こえるのかもしれません。

なお、<川普>には、四川なまりの<普通話(pu3tong1hua4)>(共通中国語)の意味もあります。

対立候補のバイデン氏は<拝登(bai4deng1)>です。両候補が所属する「共和党」と「民主党」は中国語でも<共和党(gong4he2dang3)>、<民主党(min2zhu3dang3)>と、日本語と同じ文字です。「選挙」は、中国語でも<選挙(xuan3ju3)>ですが、国政において最も重要な選挙は<大選(da4xuan3)>と呼ばれます。米国の場合なら大統領選、日本ならば衆議院選挙すなわち総選挙に用いられる言葉です。

中国語では「米国」のことを<美国(mei3guo2)>と言うことをご存じの方は多いと思います。そして日本語の「アメリカ合衆国」に対応する中国語は、<美利堅合衆国(mei3li4jian1 he2zhong4guo2)>です。

ところで「『合衆国』は誤訳だ」という意見を聞いたことがありますか? 「アメリカ合衆国」の原語は「The United States of America」ですよね。「States」は、米国を構成する「州」の複数形です。ですから、本来なら「アメリカ合州国」と書くべきだったという主張です。「明治政府は中央集権国家を目指していた。だから、欧米列強の一角だった米国が多くの州の連合体みたいな国だと広く知られるのは都合が悪い。だからわざと『合衆国』の文字を使った」という説もあるようです。

でも、どうかなあ。「合衆国」の書き方は、江戸時代から使われていたからです。例えば、日本が江戸時代の末期に米国と結んだ日米和親条約の日本語版では、米国のことを「亜墨利加合衆国」とか書いています。さらに、中国(清)が1844年に米国に締結させられた不平等条約である望厦条約では、米国のことを「亜美理駕洲大合衆国(ya4mei3li3jia4zhou1 da4he2zhong4guo2)」と書いています。「アメリカ」の部分の書き方は違いますが、いずれも「合衆国」としています。

さて、話をニュース用語に戻しましょう。まず、米連邦政府所在地の「ワシントンD.C.」は、中国語で<華盛頓哥倫比亜特区(hua2sheng4dun4 ge1lun2bi3ya4 te4qu1)>です。「D.C.」の部分は「District of Columbia」の略記であり、「District」とは「地区」、「区域」のことなのですが、日本語でも中国語でも「特」の文字を追加しています。なお、日本のニュースでは簡単に「ワシントン」とすることが多いのですが、中国語でも同様に<華盛頓>と短く表現します。

米国の連邦政府の立法府は、日本では「連邦議会」と呼ばれることが多いのですが、中国語では<美国国会(mei3guo2 guo2hui4)>です。また、日本で言う「上院」は<参議院(can1yi4yuan4)>、「下院」は<衆議院(zhong4yi4yuan4)>です。日中の訳語の大きな違いの理由は、日本では米国での通称を翻訳し、中国語では正式名称本位の訳語を採用したことです。

まず米国下院の原語正式名称は「United States House of Representatives」です。直訳すれば「合衆国代議士の家」で、中国語ではこれを<衆議院>としているわけです。一方の上院の正式名称は「United States Senate」で、語源は日本では「元老院」と訳されている古代ローマの「セナートゥス」です。

「元老院」と言うと長老の会議のように思えますが、実際には支配階級に属する者が選ばれる政策決定機関(帝政期には形骸化)で、30代の議員も珍しくなかったと言います。米国の「下院」には政治に国民の世論をより直接に反映させ、「上院」には各州を代表する性格があります。したがって、「上院」が“上級国民”の意見を代表するというわけではありませんが、名称としては古代ローマからの伝統が反映されているわけです。

中国では歴史上、<参議>という官職も設けられました。「官」とはすなわち上流階級ですから、<参議院>という名称は、語源をたどれば支配者階級で構成される組織だった「上院」にふさわしいのかもしれません。

日本語の「上院」と「下院」は、米連邦議会の両院の通称である「upper house」と「lower house」を訳した言葉です。これらの通称の由来は、建国当初の小さな2階建ての議事堂で、人数が少ない「上院」が2階部分を、人数が多い「下院」が1階部分を使用したことによるとされています。

さて、次は世界最高の権力者とも言われる米国大統領です。米国「大統領」の原語は「president(プレジデント)」ですが、中国語では<総統(zong3tong3)>と訳されていまです。面白い事に、中国の<国家主席(guo2jia1 zhu3xi2)>もpresident」と英訳されています。つまり米国のトランプ大統領も、中国の習近平国家主席も、台湾の蔡英文総統も、英語の肩書は「「president」になるわけです。

米大統領の官邸である「ホワイトハウス」は<白宮(bai2gong1)>です。英語の記事では「米国政府」を示す語として「White House」を使うが多いのですが、中国では外国で発表された記事を翻訳して紹介する場合、「White House」をそのまま<白宮>と訳すことがよくあります。日本でも同様ですが、中国の記事の方が<白宮>のままで使うことが多いようです。

英語記事ではまた、「Washington(ワシントン)」を米国政府の意味で、「Beijing(北京)」を中国政府の意味で使うことがよくあります。中国語記事の場合、自国でオリジナルに執筆した記事の場合には、たいていの場合<美国政府(mei3guo2 zheng4fu3)>、<中国政府(zhong1guo2 zheng4fu3)>あるいは<美方(mei3fang1)>(米国側)、<中方(zhong1fang1)>(中国側)という言葉を使うのですが、外電を引用した場合には原語をそのまま訳して<華盛頓>、<北京(bei3jing1)>といった言葉を使うことが、よくあります。

中国にとって、外交問題での交渉などの相手となる米国国務省は、中国では<美国国務院(mei3guo2 guo2wu4yuan4)>と言います。ところで、中国にも<国務院>があります。中国の<国務院>は、「中国政府」と同義です。憲法では<中華人民共和国国務院,即中央人民政府>(中華人民共和国国務院とはすなわち、中央人民政府である)と定めています。

中国語の<美国国務院>とはつまり「米国外務省」です。一方で、中国の<国務院>は「中央政府」です。同じ<国務院>の語を使って混乱しないのか、ちょっと気になるところです。なお、米国国務省のトップである「国務長官」は、中国語では<国務卿(guo2wu4qing1)>です。

米国連邦政府には、日本の中央官庁の「省」に存在する機関が15存在するのですが、中国語で「国務省」を<国務院>と訳したのは例外で、他の「省」には全て「部」を使っています。「商務省」は<商務部(shang1wu4 bu4)>、「国防総省」は<国防部(guo2fang2bu4)>といった具合です。

日本語では政府機関を示す名称に「省」の文字を使いますが、中国の場合には<部>です。「外務省」に相当する中国の政府機関は<外交部(wai4jiao1bu4)>といった具合です。日本の「大臣」に対応する中国語は<部長(bu4zhang3)>です。

なお、米国の「国防総省」には「ペンタゴン」という通称があります。中国語では<五角大楼(wu3jiao3 da4lou2)>です。「ペンタゴン(pentagon)」の本来の意味は「五角形」で、米国防総省の建物が上から見て五角形の形をしていることに由来します。中国語の<五角大楼>は、通称が建物の形に由来することを明確に示しています。ただし、「五角形」のことを中国語では通常、<五辺形(wu3bian1xing2)>言います。

●ピンインの表記について:本コラムでは中国語を< >の中に、日本語の常用漢字の字体で表示しています。以下の部分のピンインについては、ローマ字表記の直後に声調を算用数字で添えます。軽声は0とします。 u の上に2つの点を添えるピンインには v を用います(例:・東西 dong1xi0、・婦女 fu4nv3)

■筆者プロフィール:如月隼人

1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。

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