<コラム>京東数科、アント・グループに続いて上場申請、京東はアリババについていけるのか?

高野悠介    2020年9月30日(水) 9時20分

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最近の経済界は、アリババ系フィンテック企業、アント・グループ上場の話題で持ち切りである。企業価値は1500~2000億ドルと見積もられ、今年最大のIPOとなるのは間違いない。資料写真。

最近の経済界は、アリババ系フィンテック企業、アント・グループ上場の話題で持ち切りである。企業価値は1500~2000億ドルと見積もられ、今年最大のIPOとなるのは間違いない。その陰にかくれて、もう1つの大型IPOも報じられている。それはライバルの京東系フィンテック企業「京東数科」である。アリババを京東が必死で追う、ネット通販業界と同じ構図となるのだろうか。

■京東、金融事業の歴史

京東の金融事業は、アリババ(アント・グループ)ほど広く知られていない。

アント・グループの活躍は、とにかく派手である。モバイル決済の「支付宝」、MMFの「余額宝」、小口金融の「花唄」「借唄」信用スコアの「芝麻信用」、重大疾病共済の「相互宝」などさまざまな新商品を世に送り出し、常に金融改革の中心にいた。京東数科はそれらを地道に追いかけていく。

2013年10月、京東金融として独立運営を開始。

2014年2月、消費者金融商品“白条”をローンチ。

同年3月、資産管理の“京東小金庫”、モバイル決済の“京東支付”ローンチ。

同年7月、“京東金融アプリ”ローンチ。

2016年1月、セコイアキャピタル中国など有力投資家から66.5億元の出資受ける。

2017年1月、銀聯カードと戦略提携。

同年6月、中国工商銀行と戦略提携

2018年11月、京東数科に衣替え。

2019年以降、人民日報、北京大興空港などの公的機関や、他のハイテク企業ともどんどん提携を進めている。

■スーパーアプリを目指す?

京東数科の上場は、アント・グループ同様、ネット金融の初期を担った先行者利益を生かし、成功するだろう。すると次に目指すものは何だろうか。

アリババが支付宝をスタートしたのは2003年、京東は約10年遅れた。それでも必死で食いついた結果、2017年以降、京東数科の成長は加速する。2017年の売り上げは91億元、2018年136億元、2019年183億元、2020年は上半期だけで103億元と、毎年平均40%以上伸びている。そしてユニコーン(設立10年以内、企業価値10億ドル以上のベンチャー)企業の仲間入りをした。

直近の企業価値は、2000億元(300億ドル)と見積もられている。十分に立派な評価値だが、アント・グループは少なくとも1500億ドルだ。そして生活総合サービスの“スーパーアプリ”運営企業から脱し、ハイテク企業への転身を図ろうとしている。

中国のスーパーアプリといえば、WeChatとAlipay(支付宝)の2つである。京東の本体(ネット通販アプリ)は、テンセントグループの一員として、WeChatミニプログラム画面上の好位置に配されている。一方ネット通販の2位争いライバル「拼多多」も、やはりテンセント系として同様の地位にある。こうしたテンセントとの微妙な立ち位置の中で、京東数科は、支付宝のような第3のスーパーアプリを目指すのだろうか。

■「快銭支付」の買収へ動く

最近の報道によれば、京東数科は、決済企業の「快銭支付」に16億元を出資、買収を検討しているという。スーパーアプリを目指す動きのようにも見える。

快銭支付は現在、国内4億のユーザー、650社の企業、200の国内外金融機関をカバーしている。フィンテック4位の大手であり、京東が欲してやまない全国をカバーする決済免許を持っている。これは京東数科にとってチャンスだ。

しかし決済そのものは、WeChat PayとAlipayの寡占状況にあり、そこからは利益は生じないという。京東数科が必要としているのは、ビジネスのデータである。WeChat PayとAlipayは、個人、法人を問わず、決済を通じた顧客データがどんどん手に入る。彼らはそれを材料にソリューションを提案し、法人客のオフライン業務まで手中にしてしまう。京東数科は、快銭支付をテコにこの状況を打破し、新しい中小企業顧客を吸引したい。

スーパーアプリへの道ではなく、B2B強化の道を行く構想だ。

■京東数科のB2Bシフト鮮明に

実際に、京東数科は8月、B2Bシフトの強化を目指し、機構改革を行った。

現状、京東数科の売り上げの30%は、親会社の京東に依存している。その一方で、6月末の段階において、AI技術、ロボット、スマートシティ、フィンテックなどの分野で4億人のユーザー、800万の中小企業、600の金融機関をカバーしている。これに快銭支付のユーザーが加われば、確かに心強いパワーが得られそうだ。

そして8月、機構改革を行い、前段、中段、後段の3つに組織を分けた。B2Bビジネスの各段階に、きめ細かく対応するためと思われる。

■まとめ、アリババのB2Bは超強力だが

しかし、B2Bはアリババの創業事業であり、そのラインナップはスキが無く超強力だ。京東が別の選択肢を提示しても、中途半端なものに見えてしまう。果して成算はあるのだろうか。

そんな折、デジタル人民元のテスト拡大が伝えられた。デジタル人民元を拒否できる機関や個人はなく、電信ネットワークの有無にかかわらず、決済可能になるという。そのデジタル人民元が広く普及すれば、WeChat PayとAlipayの決済アドバンテージは、今後どうなるのだろうか。ゼロクリアとなるかも知れず、中小企業向けB2Bのビジネス環境も、激変する可能性もある。そこまでを見越し、データ収集とB2Bに注力するならば、京東数科は、単なるAlipayの二番煎じとはいえない。中国ビジネス界には日本にはないスケール感があり、そこには京東数科の発展余地も、十分残っていそうだ。

■筆者プロフィール:高野悠介

1956年生まれ、早稲田大学教育学部卒。ユニー株(現パンパシフィック)青島事務所長、上海事務所長を歴任、中国貿易の経験は四半世紀以上。現在は中国人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中国最新のB2Cビジネスと中国人家族について、ディ-プな情報を提供。著書:2001年「繊維王国上海」東京図書出版会、2004年「新・繊維王国青島」東京図書出版会、2007年「中国の人々の中で」新風舎、2014年「中国の一族の中で」Amazon Kindle。

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