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<コラム>香港政府のウイルス検査、市民はそっぽ

配信日時:2020年9月10日(木) 10時20分
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先週末、香港政府が9月1日から希望者を対象に無料で実施している新型コロナのウイルス検査「普及社区検測計画 」を受けてきた。
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先週末、香港政府が9月1日から希望者を対象に無料で実施している新型コロナのウイルス検査「普及社区検測計画 」(通称、全民検測)を受けてきた。

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この検査は、感染源や感染経路が不明なケースの主因とみられる無症状の感染者の早期検出を狙ったもの。9月7日現在、感染者の累計は4890人だが、このうち渡航歴がなく香港内で感染した人の3割余りは、感染経路が不明なためだ。

短期間で全民に対応できるほど大規模な検査を実施する必要があるため、香港政府は、中国本土で新型コロナが大流行した際に住民に対して行った検査を参考にした。また、その検査に携わった専門家約600人が来港し、香港の医療従事者と共に検査にあたっている。

検査は、香港ID(身分証)か香港出生証明書を保持し、症状がない6歳以上の香港住民なら、国籍問わず、一回限り受けることができる。ネットで氏名、香港ID番号、連絡先電話番号を入力し、学校や体育館など 141カ所の検査所の中から、希望の場所と検査時刻を選んで予約する。

私は香港島の展示会ビルで検査を受けた。まず、ビルの入り口で、携帯電話で受け取った予約確認通知を見せて、体温チェックをして入場する。受付で登録を済ませると、検体を入れる容器を手渡されて検査会場に進み、指定されたブースに行く。椅子に座ると、検査員が綿棒で、グリグリと左右の鼻の奥の粘膜を取り、その後、喉の唾液を採取する――という具合だった。

検査のブースは20個あって、各ブースで防護服に身を包んだ検査員が2名ずつ待機していた。検査に訪れた市民はまばらで、広い会場は、ガラガラ。登録から採取まで、わずか5分程度だった。会場を出る際には、携帯用消毒液のお土産が付いた。検査結果は3日以内に、陰性ならSMSで携帯電話に知らされる。陽性なら衛生署から連絡が来る。

同じ検査を私立病院で受けると、費用は約2000香港ドル(約2万7000円)する。にも関わらず、8日午前8時現在、予約者数は約121万3000人と、人口の約16%にとどまっている。民主活動家らが不参加を呼びかけ、多くの市民の反応も冷淡なのだ。

「外出を控えているのに、わざわざ見知らぬ人が多く集まる検査場に行く方が、感染リスクが高い」とか、中国本土の支援を受けた検査だから「検査を口実にして、香港と中国の両政府は我々のDNAまで収集し、管理するつもりではないか」、「個人情報が中国本土に送られる恐れがある」など、警戒感を露わにする市民が少なくない。「誤って陽性と診断されないとも限らない」と、検査の信ぴょう性を疑問視する情報まで飛び交う始末だ。

香港は7月に入って過去最大の感染第三波が訪れ、一日の新規感染者が100人を超す日が続いたが、最近は落ち着き、市民の間でひっぱく感は遠のいた。また、昨夏以降続いていた大規模な反政府デモが、新型コロナ感染防止を理由に封じ込まれているため、民主派市民は、検査に参加しないことで政府に抵抗したいとの思いがあるのも事実だ。

これに対して政府は、収集した個人情報はこのプロジェクト終了後1か月以内に消去するし、陽性反応が出た後もさらに複数回検査する、と市民の不安を取り除くのに躍起だ。また、反政府的な市民が検査の趣旨を歪める情報を意図的に流していると非難し、多くの市民に検査に参加して欲しいと呼びかけている。

7日間で約85万6000人分の検査結果が出て、その中から16人の感染者が見つかった。検査期間は予定より4日間延長して9月11日までにしているが、状況を見てさらに3日間延ばす可能性もあるという。

感染拡大リスクを抑えこみ、一刻も早く経済の低迷から抜け出したいのは、全民共通の想いのはず。だが、本来は安心を得るための検査が、民主派市民に政治問題の材料にされ、受けない方が安全とそっぽを向かれるあたりに、今の香港社会の難しさと、政府と市民との溝の深さが透けて見える。(了)

■筆者プロフィール:野上和月
1963年生まれ。1995年から香港在住。日本で産業経済紙記者。香港で在港邦人向け出版社の副編集長を経て、金融機関に勤務。1987年に中国と香港を旅行し、西洋文化と中国文化が共存する香港の魅力に取りつかれ、中国返還を見つめたくて来港した。新聞や雑誌などに、香港に関するコラムを執筆。読売新聞の衛星版(アジア圏向け紙面)では約20年間、写真付きコラムを掲載した。

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