中越関係に突然のきな臭さ、関係悪化を招いた3つの伏線と2つの地雷

Record China    2014年2月10日(月) 19時45分

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中越関係がきな臭くなっています。日本メディアで報じられましたが、年明けから中国によるベトナム漁船の「破壊」があったようです。写真はベトナム・ハノイ。

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中越関係がきな臭くなっています。日本メディアで報じられましたが、年明けから中国によるベトナム漁船の「破壊」があったようです。同時に、南シナ海領海における警察権を強化したとする中国海南省の条例が注目され、周辺国の激しい反発を呼んでいます。

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この「破壊」や条例については他の方にお任せするとして、本稿ではベトナムの視点から、「きな臭さ」が増す経緯を追って見ることにします。私の見るところ、この「きな臭さ」には「3つの伏線」がありました。さらに今後、情勢を悪化させかねない「2つの地雷」が待っています。

■伏線1:安倍首相靖国参拝を巡って

両国関係で一つ伏線として考えられるのは、年末にあった安倍首相の靖国神社参拝への対応です。中韓を筆頭に反対の声が大きかった中、ベトナムは基本的に「超様子見」でした。

そんな態度を見かねてか、12月30日に中国の王毅(ワン・イー)外相がロシア、ドイツ、ベトナムの3カ国外相と電話会談をしています。いずれも「日本の問題」、つまり靖国参拝問題について意見を交換しています。中国外交部ウェブサイトによると、ロシア外相は「中国と意見が一致」、ドイツ外相とは「意見交換をした」(直接の日本批判はなかったということ。恐らくドイツの本音は「もうEUとして立場は表明したからいいでしょ、じゃないかと)。そして気になるベトナム外相も「日本問題を含む地域の問題について意見交換した」とだけ。つまり日本批判を控える様子見に徹したわけです。

頑なに「様子見」を続けるベトナムでしたが、中国の熱意におされてか、翌31日にベトナム外務省が安倍首相靖国参拝に関する声明を発表。しかしその簡潔、差し障りの無い、そっけない声明を見るに「様子見」を貫き通したとも言えるかもしれません。中国にとってはベトナムのノリの悪さはあまり歓迎できる話ではありません。

■伏線2:ベトナムがロシアから調達した潜水艦がついに到着

中越はともに旧正月が本番のお正月。新暦では元旦だけがお休みです。その1月1日にベトナムで流れたニュースは、ベトナムがロシアから調達したキロ型潜水艦、「ハノイ」号がサンクトペテルブルクから2万7000kmの航路を経て、12月31日、カムラン港に到着したというものでした。同艦は昨年5月、ベトナムのズン首相が訪露時に契約したものですが、海軍力向上は中国との領土問題を念頭に置いた動きと言えます。

今回来たのは1隻目ですが、お買い上げは全部で6隻。総計20億ドルの高い買い物ですが、ネットで見る限り国民の反応はおおむねポジティブです。2隻目がロシアのサンクトペテルブルクで引き渡しされたというニュースには、「オレが給与1カ月分寄付するから、もっと買え!」という根拠ないけど威勢の良いコメントが人気を集め、「みんながみんな、君のような愛国者ならあと35隻買える」という、大雑把な試算コメントまで付いています。

ともあれロシアからベトナムへという軍備の流れは、ベトナム戦争終盤から戦後にかけてのベトナムとソ連の蜜月時代、団結しての中国への対抗を想起させるものでもあり、中国側からすると気に入らないニュースとはなったでしょう。

■年始の伏線その3:「衝突映像」の公開

年明けにあったもう一つの伏線は、CCTVによる中越船舶衝突映像の公開です。2007年6月、南シナ海での中国国家海洋局指揮下の巡視船とベトナム「武装船」が衝突した映像が、CCTVの番組「走遍中国」で公開されました。

中国のSNSでは予想通りベトナム批判のレスが多数。一方、引用したBBC Vietnameseのフェイスブックにも、ベトナム・ネット民からのコメントが多数寄せられ、中越両国のネット民がお互いに怒りを高める展開に。それにしても6年以上前の事件映像をなぜこのタイミングで公開したのか。憶測を呼んでいます。

これだけのネタだけに、ネット民の反発にとどまらず、ベトナムメディアも絶対に取り上げるはずと思っていたのですが、反応したのはThanhNien、DoiSongPhapLuatという、ややヤンチャなメディアだけ。しかもネットニュースだけの扱いで紙面では報じられていません。

TuoiTreをはじめ商業系メディアが絶対食いつくネタだと思いましたが、非常にローキーで抑えられました。これは明らかにベトナム政府の思惑があったでしょう。領土問題は国民の絶対的な支持は得られる反面、ベトナムでは非常に珍しい市内でのデモなどにも発展することがあり、政府も基本的には自由にしつつも、過激になり過ぎないよう抑える時はあります。

衝突映像という前振り、さらには報道禁止という鬱憤もあったためでしょうか、海南省の条例にベトナムメディアは一気に反応します。10日、ベトナム外務省は海南省の条例に関して「ベトナムの領海に触れたもので、全くの無効。撤回するべき」とはっきりした声明を発表しました。この声明が、海南省の条例を切り口にすれば南シナ海問題を報じてもOKというお墨付きになり、ベトナムのネットニュースサイトは一気に過熱しました。紙メディアの国際面でも取り上げられています。

■西沙諸島海戦40周年と中越戦争勃発35周年という2つの地雷

年明けからきな臭いニュースの続く南シナ海と中越関係。上述3つの伏線が海南省の条例に結びつき、緊張を高める下地となったのではないでしょうか。

ですがこれだけでは終わらない可能性があります。というのも、2014年のベトナムには対中感情がさらに悪化しかねない2つの地雷があるからです。

第一の地雷は西沙諸島海戦40周年。1974年1月15日に勃発した同海戦で、中国が西沙諸島(パラセル諸島、ベトナム語ではHoang Sa)を支配下に置きました。当時はまだベトナム戦争中だったのですが、西沙諸島を支配していたのは敵にあたる「ベトナム共和国(南ベトナム)」ということで、中国もケンカを仕掛けられたという次第。戦後、統一ベトナムは抗議をするも、今に至るまで西沙諸島は中国の支配下にあります。

ベトナムでは毎年のように西沙諸島、南沙諸島に関するイベントが開かれています。「領土を守れ!」というスローガンは毎日のようにメディアで聞かれるほど。特に中国に実効支配を許している西沙諸島に対する思いは強いのです。

さらに2月17日には第二の地雷、中越戦争開戦35周年という記念日も待っています。こちらの記念日も対中感情を悪化させる契機になりかねません。

ベトナム政府、そして中国政府はこの2つの地雷をどう処理するのか。対応を間違えれば、中越関係が一気に悪化することも考えられるだけに、慎重な対応が求められることになります。多難な船出となった2014年の中越関係、今後どう推移していくのでしょうか?

◆筆者プロフィール:いまじゅん

ハノイ在住のベトナムウォッチャー。ブログ「ハノイで考えたこと」作者。中国在住も長かったので、ベトナムから見た中国、中国とベトナム比較といった視点にも注目。個人的には湘南ベルマーレの熱烈サポーターということから、サブトピックとしてはアジア・ベトナムサッカーにも関心大。

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