<激動!世界経済>アベノミクス、失速の危機=消費税と物価高で家計圧迫へ―賃上げなく頼みの株価も暴落

八牧浩行    2014年2月5日(水) 6時37分

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東京株式市場で平均株価が下げ続け、4日の終値は1万4008円と、ほぼ4カ月ぶりの安値に沈んだ。昨年末(12月30日)からの下落率は14%と大幅。安倍政権の経済政策「アベノミクス」の1枚看板「株高」が足元から崩れかけている。写真は東京・新橋。

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世界的な株安を背景に、東京株式市場で平均株価が下げ続け、2014年2月4日の終値は1万4008円と、13年10月8日(1万3894円61銭)以来ほぼ4カ月ぶりの安値に沈んだ。昨年末(12月30日)からの下落幅は約2300円。下落率は14%と、ニューヨーク市場(7%)やロンドン市場(4%)に比べ断トツの大きさ。安倍政権の経済政策「アベノミクス」の1枚看板「株高」が足元から崩れかけている。

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アベノミクスは異次元の金融緩和、円安、企業向け減税、規制緩和、公共投資などで企業収益や設備投資の拡大を図り、その成果が家計にトリクルダウンする(したたり落ちる)ことで、消費の回復につなげるのが狙い。しかし、現状ではトリクルダウンが広範囲で実現する可能性は低く、「景気回復の好循環」は実現しそうにない。

◆企業は労働コスト削減で生き残り

 2002年から08年まで続いた戦後最長の景気回復期でも、非正規雇用の増大や賃金下落を背景に労働分配率は下がり続け、経済が成長してもその果実を家計が享受することができなかった。労働分配率の低下は、世界各国で見られる現象で、その背景には、技術革新や機械化を背景とする労働需要の縮小、グローバリゼーション、株主主権の高まりによる企業収益増大圧力の増大、労働組合の弱体化など、構造的な要因が存在する。

 特に日本では、技術革新やグローバリゼーションへの対応が遅れ、付加価値創出力が低下する中で、企業の多くが労働コスト削減によって生き残りを図ろうとした。儲けが出ても内部留保に回り賃金は据え置かれるケースが多い。こうした日本企業の経営モデルが変わらない限り、雇用・賃金が一時的に回復することはあっても、持続的な拡大・上昇トレンドに転じるとは考えにくい。「富める者が富めば、貧しい者にも富が浸透する」というトリクルダウンの理論が機能しないのは、小泉政権の景気拡張期に非正規雇用者が増大、貧困が若年層まで広がってしまったこととも無縁ではない。

 こうした中、好業績企業に対し政府は賃上げ(ベア実施)するよう要請し、トヨタ自動車、日立、ダイキン工業をはじめ一部大手企業がベアを実施する方針だ。「アベノミクス効果」を取り込んで業績を伸ばし、社員には賃上げで報いる。これにより持続的な物価上昇が可能になり、デフレ脱却という政策目標にも資する―。この好循環が実現するかがカギだが、多くの企業は、賃上げには慎重な姿勢を崩していない。「グローバル競争に対応した賃金体系の改革」を進めている立場を指摘、「まずはボーナスで反映する」との“建前”を崩さない企業も多い。中小企業の大半は消費税転嫁対策で精一杯、とてもベアどころではないと訴えている。

◆「悪いインフレ」に陥る

アベノミクスは、資金供給を2倍にして2年で消費者物価を2%上昇させる、という目標を立てている。ところが、消費者物価上昇の主因は円安で、エネルギー、穀物などを中心に、輸入インフレが起きている。

日本政府やメディアが「景気回復」「デフレ脱却」をアピールしても大多数の人々は実感できない。それどころか円安で物価が上がり生活を圧迫し始め、庶民の暮らしは悪化しているのが実情だ。

景気好転で物価が上がるのが「良いインフレ」とされるのは、物価と共に賃金も上がるからだ。賃金がほとんど上がらず輸入品が上がれば富が海外に流出し、暮らしは悪化する。いま起きている物価上昇は典型的な「悪いインフレ」。日本経済を好循環に導くものではない。

 さらに4月から消費税引き上げ分3%が家計負担にのしかかる。電気代や食品価格もさらに上がると懸念されている。今は消費増税を前にした駆け込み需要が発生しているが、4月以降反動で需要が大きく落ち込むのは必至だ。

アベノミクス第3の矢である“成長戦略”も進展しておらず、期待外れの感が強い。4月の消費増税に伴うコストアップをカバーする賃上げがなければ、消費需要のダウンは避けられない。アベノミクスは失速の危機に直面していると言わざるを得ない。(Record China主筆・八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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