<中国は今!>中国経済の今後を左右する人物、劉鶴氏=ハーバード大で学んだ経済専門家

Record China    2014年1月27日(月) 17時4分

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27日、12年11月に習近平指導部体制が発足してから1年以上が経つ。写真は2012年11月に発足した習近平指導部。真ん中が習近平主席(CCTVより/筆者撮影)

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2014年1月27日、一昨年11月に習近平(シー・ジンピン)指導部体制が発足してから1年以上が経つ。この間、北京では11月に中国共産党第18期中央委員会第3回総会(3中総会)、12月には経済工作が開催され、今後10年間の経済政策の大枠をほぼ決定した。さらに、3中総会で創設が決定された中国共産党中央全面深化改革指導小組(グループ)が22日、北京で開催され、最高責任者の同小組主任に習近平国家主席、副主任には李克強首相に加え、習主席と近い政治局常務委員の劉雲山(リウ・ユィンシャン)、俞正声(ユー・ジョンション)の両氏が就任した。

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習主席が進める改革の内容は、同小組に「全面」という言葉がついているように、多岐にわたっており、経済体制改革のほか、環境問題をメーンにする生態文明体制改革、民主法制改革、文化体制改革、社会体制改革、党の制度体制改革、党員の不正を摘発する規律検査体制改革−という6分野に渡っている。

このなかで、習主席が最も力を入れているのが腐敗問題を取り締まる規律検査体制改革であり、もう一つ加えるのならば、民主法政改革だろう。汚職や横領といった腐敗の撲滅は習主席が昨年11月に党総書記に就任以来、一貫して主張してきた最大の課題であり、国民への公約だ。

また、習主席はこれまで評判が悪かった労働改造所などの廃止を打ち出しており、これが民主法政改革の主眼となるとみられる。これは、習主席の父親の習仲勲(シー・ジョンシュン)氏が副首相を解任され、文化大革命(1966〜76年)期間中を含め労働改造所に収監されるなど、10数年にわたって軟禁生活を送らざるを得なかったのだが、それに法に則っていない不当な措置だった。文革が終わって、父親が釈放された際、習仲勲氏は息子たちの顔を見分けられず、「近平か、(弟の)遠平か」と尋ねたという。その場で家族全員が泣き崩れたエピソードを遠平氏が綴っている。この父親との再会の経験が、習主席の人生に大きな影響を与えたのだ。

これらの改革のために、副主任には腹心の俞正声、劉雲山の両常務委員が起用されたのだろう。

では、李首相の担当はと言えば、経済体制改革であるのは間違いないところだ。これまで中国メディアが報道してきたように、李首相は経済のエキスパートで、「リーコノミクス」という言葉がもてはやされるなど、李首相の経済政策に期待が集まっている。

ところで、中国では新指導部発足1年後の3中総会や年末の経済工作会議で経済政策を決めており、今回もその伝統が踏襲されたわけだ。この2つの大会は現在の経済政策の要でもある改革・開放路線を採択した78年末以来、最も節目になる会議で、大幅な規制緩和を盛り込んだ重要な経済計画を協議。習近平指導部は自動車やアパレル、家電、電子製品など内需拡大を重視し、従来の国有企業独占の産業構造を改め、民間企業が積極的に市場に参入することで、停滞気味の経済を活性化させる方針だ。

李首相は昨年、上海に自由貿易経済区を創設しており、経済改革推進の旗振り役を務めてきた。その李首相や習主席が中心になって打ち出した今年の主要経済方針は「穏中求進」の4文字に集約される。一定の成長を保持しつつ、旧弊を打ち破って構造改革を進めていくというものだ。

とりわけ、李首相が重視しているのが金融の自由化である。国有銀行が主導してきた金融サービスを多角化して、各種金利などを自由化して競争原理を導入し、民間のハイテク産業やサービス業への資金流入を拡大させることが主眼。これまで制限されてきた外国金融機関の本格的な中国市場参入も視野に入れる。

自由化推進のキーマンが李首相だが、もう一人ブレーン的な人物を挙げろと言われれば、経済・財政政策の最高決定機関である党財経指導小組(グループ)の弁公室主任を務める劉鶴(リウ・ホー)氏だろう。劉氏は経済政策を立案・統括する国家発展改革委の副主任も兼ねており、副首相級だ。

劉氏は習氏より1歳年上の61歳。習氏とは小学生時代からの幼馴染み。ともに文革で地方に下放されたが、70年代後半に北京の大学に戻り旧交を温めた。習氏は25年も地方幹部を経験したが、劉氏は経済畑に進み、ハーバード大など米国の大学で経済を学び、帰国後も中国政府中枢で経済政策立案に携わった。

中国では現在、習近平指導部の経済改革におけるバイブル的報告書として「中国経済増長十年展望(2013〜2022年)が注目されている。中国政府のシンクタンクである国務院発展研究センターが発行しており、同センター副主任の劉世錦(リウ・シージン)氏が編集の監修者となっているが、劉鶴氏も編纂委員会の顧問として名を連ねており、同書は今後の経済改革の青写真的な存在として注目を集めている。

劉氏は習近平指導部が正式に発足した昨年3月の全国人民代表大会(全人代)で発展改革委副主任に就任。習主席の引きが強かったといわれ、3中総会の重要決議である「改革の全面深化に関する若干の重大問題の決定」の起草に中心的な役割を果たした。

面白くないのが国有企業を中心とする既得権益層だ。劉氏は米国の大学で学んだ期間が長く、最近もオバマ政権の大統領補佐官や経済ブレーンと密接な関係を保っている。政策も資本主義的な色彩が強い米国流であることから、「米国の利益の代弁人」と名指しで批判されるなど集中砲火を浴びている。

それだけ劉氏の改革が既得権益層の利益を脅かすほど急進的で総合的な証拠で、劉氏の経済政策が成功するかどうかは、習主席の改革に対する本気度が試されているといえそうだ。

さらに、劉鶴氏と李首相との“相性”も気になるところだ。習主席は上海閥と太子党(高級幹部子弟)グループに支持されており、李首相の共青団(中国共産主義青年団)閥とは折り合いが悪いと伝えられている。劉氏は明らかに習主席に近いだけに、李・劉両氏の関係が経済政策に反映されることも考えられる。とはいえ、派閥を抜きにしてみれば、両氏とも学究肌で、改革志向だけに、似たもの同士で、うまが合うとも考えられる。実際、劉氏にとってみれば、李首相は上司だけに、習主席の意向を持ち出して、李首相との関係を悪化させるのは避けたいところで、両氏の動きは今後の経済改革に大きな影響を及ぼすことは間違いないだろう。

◆筆者プロフィール:相馬勝

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。

著書に「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)など多数。

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