<コラム>日本の藩校より古い、開校1000年になる蘇州中学と大三元の銭棨像を訪ねて

工藤 和直    2020年7月13日(月) 23時40分

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日本の藩校より古い、開校1000年になる蘇州中学と大三元の銭棨像を訪ねた。

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江蘇省蘇州市人民路699号にある蘇州中学は、蘇州市にある省立高級中学(日本で言う公立全日制普通高等学校)、北宋景祐2年(西暦1035年)創立の蘇州府学が前身である。西暦1713年、府学に紫陽書院を創立。1904年に江蘇師範學堂となり、1927年に江蘇省立蘇州中学、1952年に江蘇高級蘇州中学と改称。1978年に江蘇省蘇州中学、2004年に江蘇省四星級普通高級中学、2019年に江蘇省蘇州中学になった。現在78学級・4100名が学んでいる。

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日本で歴史ある公立学校は江戸時代の藩校を創立起源とし、明治国家になって旧制高校・中学(現在の高等学校)となった学校が多い。最も古い高等学校は米沢興譲館高校で、400年前の西暦1618年(元和4年)創立の学問所「禅林文庫」が起源となり、西暦1697年米沢藩興譲館となった。その他に挙げられるのは、岡山朝日高校(西暦1641年岡山藩花畠教場)、会津高校(西暦1664年会津藩日新館)、萩高校(西暦1719年萩藩明倫館)、篠山鳳鳴高校(西暦1766年篠山藩振徳堂)、福山誠之館高校(西暦1786年福山藩弘道館)、修猷館高校(西暦1784年福岡藩修猷館)などである。その他、鹿児島薩摩藩造士館(西暦1773年)は旧制七高(鹿児島大学)と旧制一中(鶴丸高校)になった例もある。

北宋景祐2年(西暦1035年)故郷に知事として帰って来た「範仲淹」は、南園(人民路45号)に府学を創建した(写真1中央地図)。庶民の教育を重んじ、科挙試験の重要項目であった儒教にちなみ、孔子を祭る廟と合わせ学堂とした。文廟と言われる所以である。そこは江南一帯で最高の学堂となり、蘇州は科挙試験トップ合格者である「状元」を全国で最も多く輩出した。当時の敷地は10万m2(現在は2万m2)もあり、南面から見ると左に孔子廟(明倫堂)、右に府学(大成殿)、所謂「左廟右学」の構造である。

現在の蘇州中学は、この文廟の北・西・南の三方を取り囲むようにある。現在の校内を歩くと地図にあった尊經閣・紫陽楼・碧霞池(浴徳池)・春雨池と池心亭・泮池など多くの歴史遺産がある。そして、校門正面には範仲淹の石像が出迎えてくれる(写真1右中央)。

中国では宋時代、各地に府学が作られた。その中、中国いや世界史上最も古い官営学校は前漢景帝后元3年(紀元前141年)四川成都に創立された文翁石室だ。成都府学を経て、現在は成都石室中学(成都市青羊区文廟前街93号)となっている。創立2160年になる。

中国には科挙という官史任用制度があった。3年に一度中国全土から四書五経を諳んじ、詩歌に優れた人物を30名程度試験により合格させる制度で、このトップ合格者“状元”は巨大な官僚機構の最高位となる。1300年の長き時代、驚くべき事に596名しか居なかった事であった。三段階から成る試験制度で、それぞれのトップ者を郷試では“解元”、会試では“会元”、そして殿試では“状元”と呼んだ。この3つともトップ合格した者は“三元”と呼ばれる。麻雀の“大三元”はこれが由来だ。1300年の歴史の中で三元は14名誕生した。ここ蘇州府学出身者に1名の三元が記録されている。清代の銭棨(Qian-qi)(西暦1743~1799年)である。

銭棨は蘇州長洲県出身、清乾隆帝時代(西暦1781年)及第、38歳で“三元”となった。人民路が拡張する前、書院巷との交差点付近に三元坊と言う牌坊門を建立した。残念ながら人民路の拡張工事で除去されたが、今日の土地整備でバス停名や地下鉄駅名に“三元坊”の名前が付けられ、地下鉄駅上の公園に銭棨の石像が作られた(写真2)。

銭棨は三元どころか“六元”とも言われている。郷試以降は中央で行われるが、当然故郷での試験を突破する必要がある。その三過程(県試・府試・院試)全てでトップ合格であった。この三過程トップを“小三元”といい、合わせて“六元”といわれる。1300年の歴史の中で六元(全過程トップ合格)となったのは、蘇州出身の銭棨と明代池州府(安徽省)出身の黄観の2名だけだ。中国史上最優秀の天才は、蘇州中学の大先輩になるのだ。

■筆者プロフィール:工藤 和直

1953年、宮崎市生まれ。1977年九州大学大学院工学研究科修了。韓国で電子技術を教えていたことが認められ、2001年2月、韓国電子産業振興会より電子産業大賞受賞。2004年1月より中国江蘇省蘇州市で蘇州住電装有限公司董事総経理として新会社を立上げ、2008年からは住友電装株式会社執行役員兼務。2013年には蘇州日商倶楽部(商工会)会長として、蘇州市ある日系2500社、約1万人の邦人と共に、日中友好にも貢献してきた。2015年からは最高顧問として中国関係会社を指導する傍ら、現在も中国関係会社で駐在13年半の経験を生かして活躍中。中国や日本で「チャイナリスク下でのビジネスの進め方」など多方面で講演会を行い、「蘇州たより」「蘇州たより2」などの著作がある。

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