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「介護の美しさを伝えたい」日本人の感動的な詩集に在日中国人が共鳴し、世界に発信

配信日時:2020年7月4日(土) 13時20分
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母親を介護している在日中国人の孟梅さんが、石井佐和さんの介護詩集「母のあし音」を仲間と共に多言語に翻訳し、日本語と合わせて4カ国語併記の詩画集にしてこのほど出版した。写真は孟さんと母親。

日本だけでなく中国でも多くの人が介護問題に直面する中、母親を介護している在日中国人の孟梅(モン・メイ)さんは、石井佐和さんの介護詩集「母のあし音」に救われたという。孟さんは「母のあし音」をより多くの人に広めようと、仲間と共に1年半かけて中国語・英語・スペイン語に翻訳。日本語も合わせ、珍しい4カ国語併記にした。さらにイラストも加え、このほど詩画集として出版。なぜそれほどこの詩集のために行動できたのだろうか。レコードチャイナとの取材でその思いを語った。

孟さんは中国の黒龍江省で2人姉妹の次女として誕生。30年前に日本の大学院に留学した。その後、日本の大手メーカーに入社。シンガポールや香港で駐在員を経験した後に日本に戻り、当時社内では唯一の女性の主任として仕事に明け暮れた。さらに家庭を持ち、子育てでも忙しくしている間に中国に残った母親とは疎遠になっていったという。転機が訪れたのは2年前。中国に出張し、実家に寄った時に1人で暮らす母親が認知症になっていたことを知った。

◆再会した時、お母様はどんな様子でしたか?

母は昔、親鳥のように大きく暖かな羽で私たち家族を守ってくれる存在で、どんなことがあっても絶対に弱音を吐いたり倒れたりしませんでした。しかし、再会した時は妄想のような話をしており、最初は不思議でした。認知症で変わってしまったのだと分かった時は、ショックで涙が止まらなくなりました。

◆大きな変化だったのですね。小さい頃はどんなご家庭でしたか?

母が務めていた病院には日本人とロシア人がたくさんいました。その影響で、小さい頃は日曜日は家族4人できれいな服を着て、日本のお花見のように公園で敷物を敷き、ロシア風のパンを使ったサンドイッチを食べながら楽しく過ごしていました。

母は料理上手で、日曜日は夜もお正月のようにごちそうをたくさん作ってくれました。母が作ってくれたサンドイッチやごちそうの味は今でも忘れられません。家族だんらんの時間は幸せそのものでした。

◆素敵なご家庭ですね。お姉様もいらっしゃるそうですが、なぜ孟さんが介護を?

姉は離れたところに住んでいる孫の世話をしており、あまり母と一緒にいられません。父に先立たれて以来、母は15年ほど1人で暮らしていました。

30年前、日本に行く直前に母が言ってくれた「つらかったらいつでもいいから帰ってきてね」という言葉に私はずっと支えられてきました。父が亡くなった時は日本にいてみとれず、つらい思いをしたこともあり、今度は私が母をそばで支えようと決心しました。

◆介護を始めてからの生活はいかがでしたか?

当初は仕事と介護の間で悩んでいました。外国語学校の校長にならないかという誘いを受けていて、正直なところ、すごくやりたかったです。しかし、校長の仕事と介護が両立できるとは思えませんでした。母は「ちょっとだけだから大丈夫」と言って散歩に出た後、失踪してしまったこともあります。警察に探してもらったところ、家から徒歩で1時間以上かかるような場所で保護され、老人ホームに送られていました。「大丈夫って言ったのに」「なぜ帰ってこれないの?」と思い、とても悲しかったです。

こうしたことがたくさんあって、うつ病にもなりかけました。しかし、これまで家族のことを考えられていなかった分、今は仕事や自分のやりたいことをすべて捨ててでも母の最期の時間を幸せにしたいです。

◆「母のあし音」を初めて読んだのは、介護で悩んでいた時だったと伺っています。手に取ったきっかけは何ですか?

たまたま石井さんと出会い、その数日後に石井さんが送ってくれました。「母のあし音」には石井さんが母親を10年間介護しながら書いた詩が載っています。陰りなく温かい言葉から、「母親が平穏な晩年を過ごせるように」という石井さんの思いを感じられます。当時、介護で悲しいことがたくさんあったのですが、苦しみや孤独ばかりではないと気付き、明るい気持ちになれました。

(介護詩集「母のあし音」)

◆孟さんの介護生活を変える出会いだったのですね。孟さんの心に響いた詩を教えてください。

「母のあし音」は本全体が物語のようにつながっているのが魅力なので、取り上げたい詩は1つだけではありませんが、「おとりかえの歌」を紹介します。

<おとりかえの歌>

「毎朝 毎朝 おとりかえ/熱いタオルで拭きましょう

きれいに きれいに拭きましょう

誰よりもきれい/ピカピカの九十八歳よ

毎朝 毎朝 おとりかえ/お口も お目々も拭きましょう

きれいに きれいに 拭きましょう

誰よりもきれい/ピカピカの九十八歳よ

毎朝 毎朝 おとりかえ/心も 体も拭きましょう

きれいに きれいに 拭きましょう

誰よりもきれい/ピカピカの九十八歳よ」(原文ママ)

石井さんがいつも介護しながら鼻歌で歌っていた、人間愛の美しさを感じる歌です。

◆4カ国語併記で出版しようと思ったのはなぜですか?

私のように介護で悩んでいる人はたくさんいます。高齢化が進んだ現代の中国でもよくある問題です。私はこの本から力をもらったので、他の言語にも訳してさらに多くの人に読んでもらいたいと思いました。

いろいろと市場を調べた結果、多言語併記の詩画集にすることにしました。2カ国語のものは珍しくないので、まずは日本語・中国語・英語の3カ国語に。さらに希少な形にしようと思い、スペイン語も加えました。

◆珍しい詩画集を作るにあたって、苦労されたと伺いました。

翻訳も苦労しましたが、イラストレーター探しも大変でした。いろんな人をあたりましたが、断られたり考えが合わなかったりしてなかなか決まりませんでした。最終的に担当してくれた柳田文也先生も、詩画集っぽい絵は描いたことがなかったので快諾はしてもらえませんでした。しかし、説得を重ね、「母のあし音」を読んでもらうと、「涙が出た」と言って担当してくれることになりました。

◆「母のあし音」を通して、母国の中国や世界の人に伝えたいことは何ですか?

介護は「苦痛の旅」と言われることもあり、立ち止まってしまう人もたくさんいるでしょう。そんな人たちにこの本を通じて、介護の美しさや人間愛を伝えたいです。暗い日々の中で苦しんでいた私が立ち上がれたように、これからもこの本が介護の旅の途中の人々やこれから介護を始める人々に大きな力と温かな光を与えられるよう願っています。(取材/毛利)

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