<コラム>食事で恥をかかないために…日中の「箸の使い方マナー」を比較してみた

如月隼人    2020年11月18日(水) 23時0分

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「中国料理を食べる際には、マナーを気にしなくてよい」と言われることもありますが、「どんな食べ方だってかまわない」というわけではありません。

「中国料理を食べる際には、マナーを気にしなくてよい」と言われることもあります。中国人の食事シーンを目にすると「汚い食べ方をしているなあ」と思うことも、正直に言って多い。食事のマナーについて日本の方がうるさいのは事実と言ってよいでしょう。

しかし、中国でも「どんな食べ方だってかまわない」というわけではありません。また、「衣食足りて礼節を知る」の言葉が示すように、中国でも最近は「上品で優雅な振る舞い」を求める風潮が高まっています。しかも、社会のいわゆる「中程度以上の層」に属する人により強い。つまりあなたが中国人と食事をして、彼らのマナーに合致しない食べ方をすれば「汚い食べ方をする」と思われることもありえるわけです。

中国人の多くは「日本人はマナーを重視する」と考えています。つまに「あの人は日本人であるのに、作法がなっていない」と思われたら、人物としてより一層、低く評価されてしまうかもしれません。そこで、日本でのマナー用語と比較しながら、箸の使い方を中心に中国人の「食事の作法」をご紹介しましょう。

なお、中国語では「箸」を「●子」(クアイズ、●は竹かんむりに快、以下同じ)と言います。「箸」の方が古い呼称だったのですが、「箸(ジュー)」は「動かない/動けない」の意味がある「住」と音が同じで、船を扱う人から嫌われた。そのため「快速」であることを示す「快」と同音の「●」を使った呼称が発生して定着したという言い方があります。日本で「するめ」という食べ物の名は「する(=失う)」につながるので縁起が悪いと嫌われ、「あたりめ」の言い方が発生したのとよく似た現象だったのかもしれません。

さて、中国での箸づかいのマナーですが、箸を両手に1本ずつ握って食べ物を切り分けてはいけません。日本でいう「切箸」ですね。また、2本の箸をスプーンなどと同じように持って、食べ物をかき集めてはいけません。日本の「横箸」に相当します。また、箸を持った時に1本だけが前に飛び出てしまった場合にテーブルや食器に押し付けてそろえてはいけません。

また、食事の支度や後片付けの際に、長短の異なる箸をまとめてテーブルの上に置いてはいけません。「三長両短」につながるからとの言い方があります。「三長両短」とは「まさかのこと」、特に人の死などを表現する際に使う言葉です。棺を作る際の長さによる木材の組み合わせから出た言い方という説明もあります。

また、箸で食器などを叩くことも嫌われます。日本では「箸で茶碗を叩くと餓鬼がくる」などとされていますが、中国では「昔の物乞いは道端で、箸で食器を叩いて通行人の注意を引いた」として、貧乏になってしまいかねない不吉な行為とされています。中国人の中でも「礼儀知らず」と言われるひとは、飲食店などで従業員を呼ぶ際に、これをやってしまう場合があるようです。

中国人は複数人数で食事をする場合、基本的に大皿の料理を各自でとりわけます。その際に、自分の好きな物を選ぼうとして大皿の料理をかき混ぜてはいけません。日本では「こじ箸」などと呼ばれる行為です。この「こじ箸」をしていて他人の箸とぶつけたりすると、礼儀知らずとして特に嫌われます。

日本の場合には、大皿の料理を取る際に、取り箸ではなく自分個人が使う箸を使うことは「直箸(じかばし)」と呼ばれてマナー違反とされています。中国では大皿の料理を取る際にも自分の箸を使いますし、おいしそうな部分があると、自分の箸で相手の小皿に取り分けることが、親密さを示す礼儀とされました。

各自が自分の箸を伸ばすので、大皿で自分の箸を相手の箸にぶつけてしまうという、不作法が生じやすいわけです。ただし最近では、「衛生上の問題が大きい」ということで、「公用●子(ゴンヨン・クアイズ=取り箸)」、略して「公●」の使用が強く推奨されています。

会食中に、箸先を他人に向ける行為は、かなりひどいマナー違反と見なされます。指で相手をさすことの延長と見なされるからです。日本でも会話の際に相手を指でさしたら、失礼になってしまう場合が多いのですが、中国人の場合、何かを言いながら相手を指さすのは、「非難」を示すジェスチャーです。京劇などの伝統劇では、主人公が悪役に面とむかって理不尽さを非難するシーンなどで、最初は相手を指さして批判していたのが、しまいには怒りのために言葉が出なくなり、憤怒の表情で相手に向けた指先を震わせる、といった表現方法があります。

食べ物に箸を突きさして食べることもタブーです。日本でも「指し箸」と呼ばれるタブーですが、中国人はこのような食べ方を日本人以上に忌むようです。

箸づかいのマナーについては、日本人の方が「うるさい」ようですが、「物を食べる再には、2本の箸の先端で食べ物をつまんで口に運ばねばならない」という感覚は、中国人の方が徹底しているようです。考えてみれば、日本食には「おにぎり」のように手でつかんで食べるものがあります。握りずしも、現在では箸で食べる人が圧倒的に多くなりましたが、かつては指でつまんで食べる方が主流で、箸を使ったりしたら「野暮だねえ」なんて言われたそうです。

そのために、「食べ物に突きさす」行為は、箸の本来の使い方ではないということで、よけいに嫌われるのかもしれません。

「中国人の箸づかいに対する感覚」については、私自身が経験したこともあります。大学の先生数人と会食したのですが、最初に炒った落花生が出てきました。日本人の感覚だったら、指でつまんで食べてもおかしくないと思うのですが、先生方は皆さん、取り立てて身構えした様子もなく、箸で落花生を摘まんで食べました。

中国人だって、袋入りの落花生を食べる場合には指でつまんで食べるでしょうけど「皿に盛られてテーブルに置かれた以上は料理。料理であるからには箸を使って食べる」という感覚が働くようです。

米飯に箸を突きさすことが嫌われるのは、日本と同様です。「故人に食事を供える場合の作法だから」という理由も、日本と同じです。ただ、日本人は箸から箸へと食べ物を直接に受け渡しすること」を、合わせ箸」などと言って大変に嫌いますが、中国人にはこの「縁起かつぎ」はありません。

よく知られるように、日本人が「合わせ箸」を嫌うのは、火葬の際の骨拾いの作法と同じと考えたからです。この作法は、集まった親族全員で遺骨の一つ一つを、骨壺に収めるという考え方に基づくと言ってよいでしょう。日本の場合には平安時代ごろから火葬と土葬が併存するようになっていったそうです。中国は最近まで、ほとんどの場合には土葬でした。そのため、火葬に関連する作法が日常の生活の作法に、あまり影響を及ぼしていないのかもしれません。

ただ、中国人が平気で「合わせ箸」をしているかというと、そうではないようです。ある中国人に聞いたところ、相手の箸から自分の箸に食べ物を直接移してもらうのは、よほど親しい間柄でもないかぎり、やはり気持ち悪いとのことでした。彼によると、どれほど親密になれば問題ないのかという基準は、例えば「何もかも許し合った恋人」ならば問題ないかもしれない、とのことでした。

ちなみに彼は福建省の閩南地区の出身です。広い中国では地方により習慣や考え方にも違いがあり、福建省内でも地域によって違うのですが、彼の生まれ故郷では箸に神様が住んでいると考えて、箸が使える暮らしができるようにと、箸の神様にお願いをするそうです。中国人の心の中では「箸を使う」ことと「食べること」が、日本人以上に密接に結びついているのかもしれません。

ここまで「日中の箸の作法」を見てきましたが、極端な違いはないようです。日本人としての「箸の作法」をきちんと身につけており、後は「日本人はあまり気にしないが、中国人は嫌がる」といういくつかの事例を覚えてさえいれば、中国人と相当にフォーマルな会食に臨む際にも、マナーの問題で恥をかくことはなさそうです。

■筆者プロフィール:如月隼人

1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。

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