梅田記者と全人代を追う(5):最大の注目「民法典」

CRI online    2020年5月28日(木) 11時50分

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CRI日本語部の梅田謙がCRIのニュース記事などを追いかけながら全人代をより深く知るためのお手伝いをする当コーナー。今回は注目の「民法典」についてご紹介します。

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 CRI日本語部の梅田謙がCRIのニュース記事などを追いかけながら全人代をより深く知るためのお手伝いをする当コーナー。今回は注目の「民法典」についてご紹介します。

 前回の記事では、今年の全人代の注目点をチェックしました。その中で2つ目に取り上げたのが、この「民法典」の草案の審議についてでしたが、これこそが今年最大の注目とも言える内容です。そのため今回は「民法典」のみにフォーカスしてみましょう。

中国の悲願「民法典」とは〜これまでの経緯

 「民法典」とは、新中国初の「法典」と名のつく法律で、今回の全人代に草案が提出・審議されていて、最終日である今日、5月28日午後に採択される予定となっています。

 民法典の編纂は、いわば中国の歴史的な悲願です。中国では1978年に改革開放が始まり、それ以降、婚姻法、相続法、養子法、契約法といった民事に関する一連の法律が個々に制定されてきました。それを統合する民法典の編纂の動きは、これまで1954年、1962年、1979年、2001年、2015年の5回ありましたがいずれも頓挫しています。

 しかし、これまで成果が無かった訳ではありません。1986年4月に成立し、翌年1月から施行された「民法通則」は民法における基本法として機能し、これを足掛かりとして2017年には「民法総則」へと見直されました。日本の「民法」は第1編「総則」から第5編「相続」までの全5編からなり、それぞれがさらに複数の章へ、章から節へと枝分かれしていますが、すべてが「民法」に内包されています。一方の中国では、2017年に「民法総則」が完成し、すべてを内包する「民法典」へとようやくまとめられようとしています。

「民法典」の気になる内容

 民法典の草案は、総則、物権、契約、人格権、婚姻・家庭、相続、権利侵害責任の計7編1260条からなっています。そのすべてが今回の全人代会期中に審議され、最終調整が行われています。

▲民法典草案のハイライトを紹介するイラスト(提供:新華社)

 前回も登場したこのイラストの白い吹き出しには、民法典の草案に盛り込まれた代表的な内容が記載されています。左から、「婚前に重大な疾病を隠していた場合の婚姻取り消しに関して」、「高利貸しの禁止」、「団体、企業、学校等におけるセクシャルハラスメントの責任明確化」、「高所からの落下物に関する管理会社の責任」です。いずれも現代社会に対応したトピックで、興味深く感じるのではないでしょうか。

 ここからは、気になる具体的な内容をいくつかピックアップしてご紹介します。

1.複雑なケースに対応する法律

 CRIの記事を見ていると、最高人民法院(日本でいう最高裁判所)がいくつかの特徴的な判例を紹介するニュースがたまにあります。

 参考記事1:最高人民法院が民事案件10例を発表 社会主義の中心的価値観発揚に期待(2020.5.13)

▲最高人民法院による5月13日の記者会見

 これは、社会発展に伴って現行法ではカバーできない新たな問題が生まれたり、或いは法的解釈が難しいケースが出現していることを示しています。

 民法典の内容のうち、そうした複雑、或いはニッチなケースに該当すると思われるのが、例えば以下の3つです。

・胎児の相続権について(第1編「総則」2章16条)

・高所からの落下物に関する責任の所在(第7編「権利侵害責任」10章1254条)

・生前にドナーの意思表明がなかった場合、家族協議によって献体が認められる(第4編「人格権」2章1節1006条)

・重大な疾病がある場合、婚前に相手に報告しなければならない。隠していた場合は婚姻の取り消しができる(第5編「婚姻・家庭」2章1053条)

 このうち2つ目に関しては、例えばビルからの落下物による事件があり、誰が落としたのか判明しなかった場合、これまではビル全体の責任、いわば連帯責任とされていました。それが今回の草案では、警察機関などが即時調査し責任の所在を突き止めることが義務付けられています。それでも突き止められなかった場合には、これまで同様に建物の利用者の責任となりますが、後から犯人が判明した場合は、利用者は賠償請求できるという余地も設定されています。一方で、建物の管理会社の責任に関してや、これが刑法の処罰対象になるかどうかは議論の余地ありとされています。

 議論の的となっているのは3つ目も同様です。人の尊厳に関わる問題ですので、審議は最後まで慎重に行われることでしょう。

2.一般的な現代化に見合った法律

 やや分かりづらい見出しになってしまいましたが、有り体に言えば先進国に追いついた法律ということになるでしょう。例えば、以下のものです。

・高利貸しを禁止する(第3編「契約」12章680条)

・すでに子供がいても養子を迎えられるようになる(第5編「婚姻・家庭」5章1節1100条)

・セクハラ禁止と責任の明確化(第4編「人格権」2章1010条)

 一つ目の高利貸しの禁止については、日本では同等の法としていわゆる「ヤミ金融対策法」が2003年に、「貸金業法」が2007年に成立しています。ですから、これについては事実、日本に追いついた内容と言えます。一方で、二つ目の養子の迎え入れについては、「一人っ子政策」のあった中国ならではの改正案です。2016年1月1日から“全面二孩”、つまり誰でも2人目の出産が認められるという政策が施行されてきた中国の法律に、さらに細かい補填がなされる形です。

 三つ目のセクハラに関する審議では、特に学校や幼稚園における児童・園児へのセクハラが発生した場合の責任追及に関して議論が交わされてきたようです。また、この項目が「人格権」編に組み込まれたこと自体も注目を浴びています。

3.現代中国ならではの法律

 「2」でご紹介したのは、社会の成熟に伴って必要となった法律でしたが、ここで取り上げるのは、現代中国ならではの科学技術の発展に対応した法律の例です。

・ネット上の通報に対する反論の権利(第7編「権利侵害責任」2章1196条)

・AI技術などによるフェイク動画・音声(ディープフェイク)の規制(第4編「人格権」4章「肖像権」)

・印刷遺言と録画遺言が遺言として認められる(第6編「相続」3章1136条1137条など)

 ネット上でのプライバシー侵害に関しては、被害者側がプロバイダーに通報することでこれを削除させる権利を有するという法律はすでに存在していました(民法典でも1195条にあります)。ここで紹介する一つ目は、それをさらに発展させた形で、「通報自体が不当な物だった場合」に、「自身の投稿(など)はプライバシーを侵害するようなものでは無かった」と反論する権利を認めるものです。これによって、法律の双方向性が補完されます。

 二つ目については、実際に去年2月に発生した、香港出身の女優、朱茵(アテナ・チュー)と北京出身の女優、楊冪ヤン・ミー)の顔をすり替えた動画が作られた事件も影響しているかもしれません。AI技術が悪用された場合の脅威を抑止する形です。

 三つ目は非常に現代的で個人的には評価したい内容です。まず、これまで遺言状として最も高い効力を持っていた「公正証書遺言」の効力が引き下げられます。それと同時に、すでに認められていた「公正証書」、「自筆」、「代筆」、「録音」、「口頭」の形式に加えて、「プリントアウト」および「録画」による遺言が認められることになりました。特に、ビデオでの遺言が認められることは、スマホの普及が著しい中国においてはふさわしい内容と言えるでしょう。

 いよいよ本日、表決!

 重ね重ねになりますが、ここでご紹介したのはあくまで草案の内容で、今まさに行われている全人代の会議を通して、これらがブラッシュアップ・選別されてきました。そして、その表決は本日午後3時からの第3回全体会議(閉幕会議)でとられることになっています。

 いよいよ本日は全人代の最終日!その結果を一緒に見守りましょう。

 さて、私も取材記者として関わった2019年の特集ページには、様々なニュースや映像が残っています。合わせて読むことで、今年の全人代をより深く追いかけることができますよ!(梅田 謙)

▲2019年の全人代・政協特集ページはこちらから

 梅田が去年担当した「CRI記者 現場からのリポート」もぜひご覧ください!

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