「恩返し」の言葉に込めた思い 

人民網日本語版    2020年4月23日(木) 22時50分

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中国だけでなく、日本でもそして世界でも話題を集めたドキュメンタリー「新規感染者ゼロの街」。

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中国だけでなく、日本でもそして世界でも話題を集めたドキュメンタリー「新規感染者ゼロの街」。このドキュメンタリーを制作した日本人ディレクターの竹内亮氏は大げさなナレーションやBGMなどを極力排除し、ことさらに感動をあおることも、涙を誘ったりすることもなく、見たまま、聞いたまま、驚いたままを淡々と記録し、中国の現状を紹介した。そして現在、竹内氏は日本にマスクを寄贈する「パンダの恩返し」という活動を展開している。人民網が伝えた。

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きっかけはとにかくマスクが買えない今の日本と南京市政府の好意

日本の新型コロナウイルス感染状況が深刻になっている現在、竹内氏は両親や友達、仕事仲間など日本に住んでいる人たちから、とにかくマスクが買えないという話をたびたび耳にしていた一方で、現在、中国ではすでに普通にマスクが買えるようになっていることもあり、海外にいる日本人として、とにかくマスクを送りたいと感じるようになったという。

そんな中、マスクを欲しいという竹内氏の希望に南京市政府が応え、日本の人々の役に立てて欲しいと気前よくマスク5万枚が無償提供された。「パンダの恩返し」第1弾はこうして南京市政府の協力を受ける形で、竹内氏の会社が日本との仲介作業と配送費用を負担し、東京都と大阪府に寄贈した。

これらのマスクは医療機関のほか、マスコミ関係会社にも寄贈された。マスコミに寄贈した理由として竹内氏は、「私もマスコミの人間であるため、日本のマスコミやテレビ局に友人も多く、また日本では今もマスコミ関係者は外に出て取材を続けていて、一番危ないと感じたから」としている。

同じ思いを抱いている在中国日本人を取りまとめ、さらなる活動展開へ

南京市政府の無償提供によるマスク寄贈と同時に竹内氏は、「中国に住む日本人たちもきっと私と同じ思いを抱いているに違いないと思った。母国のために何かしたいが、一人の力では何もできない。また在中国日本人も今回の新型コロナでかなり経済的なダメージを負っているので、個人でマスクを買うお金もそれほどあるわけではない。それでもきっと同じ思いを抱いているに違いないと、友人たちに声をかけてみたところ、協力したい、是非一緒にやりたいという反応が得られたので、信頼できる友人と運営委員会を作り、友人を通じて、活動をどんどん拡散していった」と、第2弾となる活動を推し進めている。

第2弾のマスク2万枚は神奈川県と千葉県へ

「パンダの恩返し」には約2週間で600人の賛同者が集まり、15万6千元の寄付が寄せられ、第2弾としてマスク2万枚が神奈川県と千葉県にすでに発送されたほか、さらにマスク5万枚を購入し、東京都と埼玉県、北海道、愛知県、兵庫県の5つの都道府県に近日中に1万枚ずつ発送していく。これらの寄贈先は感染者の多い順に選んでおり、運営委員会のメンバーが各地方自治体の担当者に直接連絡を取り、受け入れ可能なマスクの種類などを確認してから決定し、主に医療機関や介護施設への配布を希望しているという。

これまで連絡した地方自治体のほとんどが、マスク不足が深刻で、今すぐにも欲しいという切羽詰まっている状況で、申し出を喜んで受け入れる、本当にありがたいという反応だったという。「なかでも千葉県は海外から届くのは今回が初めてだということで、私自身も驚いている。東京都には結構届いていると聞いているので、たぶん海外からの支援は東京や大阪などに集中しているのではないかと思う」と竹内氏。

感謝の気持ち伝える「鶴の恩返し」ならぬ「パンダの恩返し」

活動名の「パンダの恩返し」は、竹内氏が社員たちと一緒に考えて名付けた。2月に中国国内で新型コロナウイルス感染が一気に拡大した際、日本からたくさんの支援物資が中国に送られた。中国ではこうした日本からの支援について毎日のように報道されていたため、中国人はもちろんのこと、中国に住む日本人も皆知っているが、竹内氏は、「日本の人々は意外に中国の人々が皆感謝していたことをほとんど知らなかった。自分たちも足りないのに、なぜ中国に送ったのかと発言する日本人すらいたのは、中国の人々が恩に感じているということをほとんどの日本人が知らなかったからだ。それがすごくわかり、中国は恩を感じているんだということをちゃんと伝えたいと思った。そこで『恩返し』という言葉をどうしても使いたくて、『鶴の恩返し』ならぬ『パンダの恩返し』とした」とその命名の経緯を語った。

「大変なこともたくさん、それでも毎日うれしい」

各地方自治体への連絡から運送会社の手配、政策への対応、発送作業、そして賛同者たちへの各種報告など、「NPO法人でもないのになぜこれほど頑張っているのかと思うこともある」としながらも、竹内氏は「毎日とてもうれしい」と言い切る。「毎日賛同者がどんどん増えている。現時点までにすでにほぼ15万元くらいまで集まっており、これほど集まるとは始めた当初は考えてもいなかった。在中国の日本人皆が一丸となって一つのことをやっている感じはとても楽しい。それだけでなく、日本が大好きだという中国人も参加してきている。それもとてもうれしい。こんなに日本のことを思ってくれている中国の方がいるのだと。それはこれまでもわかっていたことだがと、今回の活動を通じて、改めてそう感じた。大変だが、当然うれしいことのほうが多い」と竹内氏。

活動やドキュメンタリー制作を通じて改めて感じた中国とは

新型コロナウイルスを取り巻く状況はその発生から感染拡大、武漢封鎖から封鎖解除、そしてパンデミックへとめまぐるしい変化を遂げている。その中で中国の新型コロナ対策をドキュメンタリー制作を通じて見つめてきた竹内氏は、「一言でいうと『すごい』という言葉でしか表現しようがない。最初はここまでやるのか、やり過ぎではないのかという思いもあったが、実際に結果が出ているので、中国政府の決断力の速さと実行力、そして中国の人々が一致団結し、協力し、助け合ったことが、すごいと感じた。誰かがすごいとかではなく、全員すごいと思った」と高く評価。また同じメディアの立場から、中国のメディアに対しても、「普段から中国のメディアがやっていることではあるのだが、常に第一線で頑張っている人々を報道し続けた点が、日本と比べるとすごいと今回初めて感じた。そういう人たちを目にすることで、人々がより一致団結し、頑張ろうという気持ちにさせられる。一方の日本のメディアは否定することが多いので、社会全体がどんどんギスギスしていってしまう。日本のメディアも同じように頑張っている人々をもっと取り上げるべきではないだろうか」との見方を示した。

「相当中立に近い立場」から中国を捉える

しかし、竹内氏の制作したドキュメンタリー「新規感染者ゼロの街」はそうした「すごい」という思いよりも、むしろすべてを淡々と捉えた手法で作られており、それによってかえって説得力が増し、このドキュメンタリーの反響を大きくした。その点について竹内氏は、「リアルに伝えたかったから。中国良いよ、中国のコロナ対策すごいよというのではなく、また逆に恐ろしいよという風に伝えるつもりもなく、私たちはあくまで見たものを提供して、あとは皆さん考えてくださいという姿勢で、ドキュメンタリーの基本に忠実に作っただけだと思っている。これは何が正しいと私が言える問題でもない。南京には適した対策かもしれないが、日本に適しているかは別なので、あくまで参考にしてほしいというスタンスだ」としている。

とはいえ、そのシンプルさとバランスの取り方は絶妙であり、それを貫くことはなかなか難しいのではないだろうか?そんな問いに竹内氏は、「たぶん若い時に中国に来ていたら、中国を好きになり過ぎて、だいぶ中国寄りになってしまっていたかもしれない。中国が本当に大好きなので。ただ私の場合、33歳まで日本にいて、キャリアもメディアに対する考え方も日本で形成され、日本人の考えなどをかなり理解した上で中国に来た。そういう意味で中国に完全に染まってはいない。たぶん今後も染まることはないだろう。もちろん100%中立的というのはあり得ないが、たぶん相当中立に近い立場に立てているのではないかと自分では思っている」としている。

「パンダの恩返し」活動の今後について竹内氏は、「あまり先のことまでは正直考えていない。いつになったら終わるんだろうとは思うが、寄付が集まり続ける限りは送り続ける。まだまだ全然頑張れるし、頑張るつもりだ」と飄々と語る。インタビューの最初から最後まで、非常にリラックスした「自然体」の竹内氏の語り口は、飾ることなく淡々としていながら、しっかりとした芯を感じさせてくれる彼のドキュメンタリー作品そのものだった。(文・玄番登史江)

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