国際的慣例とは違う、異常な“中国式防空識別圏”=中国自身の首を絞める結果に

Record China    2013年11月29日(金) 18時10分

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29日、中国が東シナ海に防空識別圏を策定したと今月23日に発表。日米が強く抗議するなど、新たな緊張の火種となっている。写真は自衛隊機。

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2013年11月29日、中国が東シナ海に防空識別圏を策定したと今月23日に発表。日米が強く抗議するなど、新たな緊張の火種となっている。(文:高口康太)

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もっとも防空識別圏とは各国が勝手に制定していいもので、他国の防空識別圏や領空と重複しても特に問題はない。ではなぜこれほどの火種となったのか。その根本には中国の防空識別圏が他国のそれとは異なる、異常な規定を持っているからにほかならない。

▼防空識別圏とはなにか?

そもそも防空識別圏とはなにか? 多くのメディアが解説記事を出しているが、元航空自衛官・数多久遠氏による解説記事、「中国による尖閣上空への防空識別圏設定の意味と対策」 がわかりやすい。ポイントをまとめると、

・防空識別圏自体はなんらかの権利を主張するものではない。

・自国の領空に進入する可能性がありそうな航空機を識別する範囲でしかない。

・徹頭徹尾、自国防衛のためのものなので勝手に制定してもいいし、他国と重複していても構わない。陸地で国境を接している国の場合、相手国の領空に防空識別圏がはみ出すことも普通。

・防空識別圏に不明機が入った場合、領空を侵犯しそうな問題のある航空機なのかを考え、無線で連絡したり、あるいは戦闘機をスクランブルさせて確認、警告する「こともある」。

・ただし防空識別圏に入ったこと自体はとがめ立てすることはできない。

というもの。

▼中国が防空識別圏を設定するのは自由

となると、中国が防空識別圏を策定するのはどうぞご自由にという話になるし、むしろ今までも公表してなかっただけであったんでしょ?ないならびっくりですわということになろう。

最大の懸念は、尖閣諸島上空で日中の戦闘機が対峙、なんらかの偶発的衝突が起きるという可能性だろう。船の場合と違い、戦闘機同士のにらみ合いではリスクははるかに大きなものとなりそうだ。ただしこれも究極的には防空識別圏とは関係ない。

中国側の主張では尖閣諸島は彼らの領土。その上空を飛ぶことは当然の権利という話になる。防空識別圏を策定、公開しようがしまいが、中国のロジックではいつでも巡視飛行が可能だし、その領空に日本機が進入すれば中国機も出動することになる。つまり戦闘機同士の対峙と防空識別圏にも根本的には関係はないということになってしまう。

▼異常な中国式防空識別圏

ならば、今回の防空識別圏策定は特に騒ぎ立てるような必要性はないのだろうか。それは違う。中国政府は国際慣例に従って策定したと繰り返し表明しているが、実は中国の防空識別圏は上述してきたような「普通」のそれとは異なるものだからだ。23日に発表された「中華人民共和国東シナ海防空識別圏航空機識別規則公告」がそのことを明示している。

まず第一条からして「中華人民共和国に東シナ海防空識別圏を飛行する航空機は必ずこのルールを守らなければならない」と、他国の航空機に義務を負わせている。以下、フライトプラン提出、無線通信ができるような状態にしておくこと、そして何より中国側の指示に必ず従うことをいずれも義務としている。従わなければ、「中国武装力量は防御的緊急処置対応をとる」と明記している。

繰り返しになるが、本来、防空識別圏とは自国防衛のため勝手に策定するもので、他国の航空機になにかの義務を負わせることはできない。他国でもフライトプランを提出しているケースもあるが、それはあくまでお願いにすぎない。その意味で義務を強要する中国の防空識別圏は通常とは異なる異質のもの。米国がそんな必要はないと一蹴したのもむべなるかな、だ。

▼中国式防空識別圏から通常の防空識別圏へ、静かな路線変更

なぜ、こんな異例なルールにしてしまったのかは定かではないが、やはり中国国防部の勘違いがあることは否めない。そして、その勘違いは日米をはじめ各国が強く抗議する口実となっただけではない。中国国内の世論の対応に苦慮する困った状態を引き起こしている。

26日昼(北京時間)、米軍の爆撃機B-52、2機がフライトプランなしに中国の防空識別圏を飛行した。上述のとおり、米軍機に中国領空侵犯の意志はないため、米軍に事前通告の必要性もなければ、中国がアクションを起こす必要性もない。通常の防空識別圏の解釈であれば、そういうことになろう。

ところが中国式防空識別圏のルールでみれば、米軍機は義務を怠ったことになる。一部の中国ネットユーザーは「撃墜してしまえ」などの脊髄反射的な書き込みをネットに残しているが、それも中国式防空識別圏としては当然の話なのだ。

おそらくはこうしたネットの盛り上がりに対応して中国国防部は27日、B-52飛行に関する臨時の記者会見を開いた。そこで「米軍機飛行の全過程を監視し、すみやかに識別し機種も判明していた」と発表している。本来は防空識別圏に進入されようとも発表する必要はないのだが、通常の防空識別圏としてやるべき仕事はちゃんとやっていたというアピールだ。

ただし中国式防空識別圏としての義務は果たしていないように思われるのだが。大々的に発表したルールは中国軍の手足を縛るものとなり、「ちゃんと仕事をしているのか」とネットユーザーが突き上げる口実を与えてしまった。

23日のルール発表後、中国側は義務を意味する言葉を使用しなくなっている。代わりに多用されているのが「各関係者は積極的に協力し、ともに飛行の安全を守ってほしい」という言葉。中国式防空識別圏から通常の防空識別圏へと軌道修正を図っているようにも読める。

◆筆者プロフィール:高口康太(たかぐち・こうた)

翻訳家、ライター。豊富な中国経験を活かし、海外の視点ではなく中国の論理を理解した上でその問題点を浮き上がらせることに定評がある。独自の切り口で中国と新興国を読むニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。

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