<コラム>新型コロナを分析、韓国で注目集める「医療数学」

木口 政樹    2020年4月8日(水) 22時40分

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これからコロナがどうなっていくのかの予想に、韓国では「医療数学」という手法が使われている。写真はソウル。

4月7日午前9時基準で、韓国は、感染10331人、退院(完治)6694人、死亡192人となっている。全世界では、感染1306333人、死亡73502人となっている。このうち最悪が米国で、感染364723人、死亡10781人で死亡率は3.0%となっている。韓国では、こういった情報がネイバーをたたくとすぐにみられるようになっていて便利だ。

韓国ではここ数日来、緊急災難支援金の議論がなされているが、確実に決まったことはない。はじめ政府は、所得下位の70%までが対象になるとしていたが、健康保険料で決めることにしていたため、対象の吟味がものすごく複雑になり、結局この案は案で終わりそうだ。現在は、与野党ともに100%支給案を主張している。全家庭に一律5万円くらいを支給する案だ。しかしこれも支給することにするのかしないのか、またいつ支給するのかなどの議論がまとまっていない。

韓国では一時減っていた感染者数がまた増え始めるなどの現象があった(ちなみに6日、7日の2日間は新規感染者が50人以下となっている)。これは、海外から感染した状態で韓国に帰国する人が増えたことが大きな原因となっている。

たとえばこんな事例がある。4月4日、米カンザス州に留学していたA(18)は、3月23日ごろから発熱や筋肉痛などコロナが疑われる症状があった。米アメリカンエアラインの飛行機でシカゴに移動した後、大韓航空に乗り換えて3月25日、仁川空港に到着した。米国で飛行機に乗る前に各種の解熱剤を飲んで発熱検査を通過し、25日午後、仁川空港入国の際も解熱剤を服用したため検疫にはひっかからなかった。3月26日午前9時40分ごろ、釜山市東莱区の保健所でコロナウイルス診断検査を受け、同日夜、確定判定を受けた。つまり、解熱剤を複数飲んで熱を下げ、空港での検査を逃れるという手法である。こういう奴には厳罰を与えよという国民の請願がある。

これからコロナがどうなっていくのかの予想に、韓国では「医療数学」という手法が使われている。医療数学というのは、感染者1人が何人を感染させるのか、再生産指数という概念をもとに伝播様相を計算して予測するもの。国内の医療数学者の分析と展望を覗いてみると、まさに現在の数日間が追加拡散につながるか、それとも沈静化するかを決める重要な時期になっているようだ。

3月のソウルと京畿道(キョンギド)地域の再生産指数は1以下だった。つまり感染者1人が1人以下に感染させていたということだ。しかし最近、海外流入の事例が増え、指数は引き続き高くなっている。医療数学者によると、海外流入の遮断失敗や社会的距離を置くことの失敗など、最悪の状況について様々な変数を代入して計算してみると、来月末までソウルおよび京畿道では感染者が今の2倍に増えるものと予測された。逆に、各種統制が強い水準で維持された場合、ソウル・京畿道の新規感染者の増加は200人ほどに抑えられ、5月末にはほとんどなくなるという予測も出た。

有症状の時点と隔離時点、動線と接触者数などすべての疫学調査結果は医療数学の基礎となる。さらに人口、交通、携帯電話の位置情報などビッグデータまですべてのデータと変数を公式化して予測値を見つけるのが医療数学の分析技法だ。

医療数学者は語る。「政策がどれほど効果があったのか、また類似した疾病が生じた時、我々がどんな戦略に取り組めばもっと良いのか、このような効果分析を行なう研究が医療数学だ。」

たとえば、大邱地域を特定し、各学校の始業時期も変数として代入してみると、4月6日に始業すれば7月末まで感染が続き、始業を見送れば今月末頃に感染が止まるという分析値も出てきた。

フランスでは、医師が新型コロナ感染の診断を下しても呼吸困難のような重症でないと、確定検査さえ受けられないのが現実だという。3月24日の段階で、韓国は診断検査を1日に2万件、ドイツは1万件、フランスは5千件やっている。こうした状況を受けて、韓国で始まった自動車移動型選別診療所がフランスやドイツに登場している。フィンランドでは、検体を韓国に送って検査を依頼するという状況だ。ヨーロッパでは韓国方式をすぐにでも導入すべきとの主張が盛んとなっている。

こうしたなか、韓国では、今年2月末に慶尚北道慶山にある自分の病院で診療して新型コロナに感染した内科医(60)が、3月18日に慶北大学の救急室に移送され確定判定を受けた。肺炎の症状がひどく現れ、エクモなどの治療を受けてきたのだが、2日夜から急激に悪化し、3日朝に息を引き取った。韓国の医者としては初めての死亡である。

新型コロナの発症に関して国別での違いがあるが、その理由はなにか。現在最悪のアメリカ。トランプが最初の発病から53日後に国家非常事態を宣言したが、すでに米国全域に病気が広がり手の施しようもない状態に陥ってしまった。一方、防疫先進国として注目を集めているところもある。中国のすぐ隣に位置する台湾とシンガポールだ。アイスランドも欧州の新型コロナ禍から一歩離れている。これには共通点があって、大規模検査と隔離中心の防疫対策を行ったというもの。このような検査中心の対策について、米大学の共同研究チームは「封鎖令」の代案になり得ると評価している。

最後に朝鮮時代の「科挙試験」のようなビジュアルが見られたことについて。安山都市公社は4月4日、プロサッカーKリーグ2部リーグのホーム球場である安山ワスタジアム天然芝生のサッカー場で筆記試験を行った。公社によると、同日の筆記試験には一般職と公務職の1次書類選考合格者139人が参加した。6612平方メートル規模のスタジアムに140個余りの机を5メートル間隔で配置した。社会的距離を置くことの一環として通常の試験場の机よりも間隔を空けたわけだ。受験者たちは体温検査と手の消毒を終えた後、試験場に入り、1時間30分間マスクをつけたまま試験を受けた。

安山都市公社の梁根緒(ヤン・グンソ)社長は、「コロナ禍のため経済危機を迎えた状況で新規採用が見送られるのはいけない」とし、「雇用不安が深まり採用市場が萎縮しているだけに公共機関が率先して雇用創出に乗り出すべきと判断した」と述べた。王宮の前の広場で科挙の試験を受けた数百年前のビジュアルが展開されていて、筆者としては「感動」をもって見た。

■筆者プロフィール:木口 政樹

イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県・米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。元三星(サムスン)人力開発院日本語科教授、元白石大学校教授。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。著書に『おしょうしな韓国』、『アンニョンお隣さん』など。まぐまぐ大賞2016でコラム部門4位に選ばれた。

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