アカデミー賞『パラサイト』ポン監督が映画の狙いを吐露「未来の世界は2極化を克服できるか」=東京で会見

Record China    2020年2月24日(月) 11時0分

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第92回アカデミー賞オスカーを受賞した「パラサイト 半地下の家族」(韓国)のポン・ジュノ監督と主演のソン・ガンホさんが、日本記者クラブで会見した。写真は会見するポン監督(右)とソン氏。

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2020年2月23日、第92回アカデミー賞作品賞(オスカー)、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞、第72回カンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞した「パラサイト 半地下の家族」(韓国映画 2019年)のポン・ジュノ監督と主演のソン・ガンホさんが、日本記者クラブで会見した。アカデミー賞で外国語映画がオスカーを受賞したのは初めて。

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この映画は格差社会を主テーマとしており、ポン監督は「全世界の様々な国で2極化の問題がある」と指摘。「私には未来に対する恐れの感情があり、未来の世界は2極化を克服できるのか、今後どうすべきなのか恐れを感じる」と明かした上で、「この問題は今この時代に生きている人々すべてが感じていると思う。私たちが抱えている不安や恐れを、率直に表現してみたいという気持ちがあった」と創作の動機を吐露した。

記者会見の冒頭、ポン監督は「私たちは賞を目標に作っていたわけではない。世界の観客の皆さんが熱く反応してくれていることを嬉しく思う。北米では昨年10月に公開され、米国の観客の反応がオスカーにつながったのではないかと思う。日本でも1月に公開され、観客が熱く反応してくれた」と世界中のファンに感謝した。

◆日韓の文化交流復活を切望

主演のソンさんは「2000年代は、日本でも多くの韓国映画が紹介されていたが、その後韓国と日本の映画の交流が少なくなってしまった。近い国にも関わらず、そうした交流が埋もれてしまったことは残念だ。お互いの国の作品に関心を持ち、互いに声援し合える2000年代初めの頃が戻ってきてほしいと思う。『パラサイト』が受け入れられたように、隣国の文化に対する共感が互いに持てればいい」と日韓の文化交流の復活を切望した。

「パラサイト」の何が多くの観客にアピールしたと思うかとの質問に対し、ポン監督は「何故受け入れられたのか分からない。いつも通り韓国の俳優たちと作った映画で、最初から海外公開での熱狂を狙っていたものではないので不思議な気持ちだ。貧富の格差は同時代的なテーマだということも耳にするが、予測を裏切るストーリー展開、とくに後半の展開が面白い、新鮮だという意見を多く耳にした」と回答。その上で「俳優による魅力が大きい。感情や表現など万国共通語として俳優たちの醸し出すものが訴えかけたのだと思う」と俳優を讃えた。

「映画『パラサイト 半地下の家族』を通して伝えようとしたことは何か?」との問いに対し、ポン監督は「韓国だけでなく、全世界の様々な国で2極化の問題がある。私は2極化の事実を暴きたかったというよりも、未来に対する恐れの感情がある。私には息子が1人いるが、未来の世界は2極化を克服できるのか、たやすいことではない。私は悲観主義者ではないが、今後どうすべきなのか恐れを感じる。これは今この時代に生きている人々すべてが感じていると思う。私たちが抱えている不安や恐れを、率直に表現してみたいという気持ちがあった」と説明した。

さらに同監督は「メッセージやテーマを伝えるうえで、普段から冗談を交えて伝えることが好きで、この映画の中でも声高に伝えるのではなく、映画的な美しさの中で、映画的活力の中で、シネマティックな方法の中で面白く伝えたいという思いがあった。俳優たちによる表現の豊かな感情とともに伝えたいと思った」と心情を吐露した。

◆人間に対する礼儀を描いた

「不安や恐れの象徴として、映画の中では臭いがキーワードになっているのでは?」との質問に対し、ポン監督は「映画はイメージとサウンドで伝えるものなので、臭いを表現することはとても難しいが、すぐれた俳優たちの表現によって、それがよく描けた」と指摘。「臭いというものが、この映画が伝えているストーリーに似合っていると思った。貧富の格差に先立って、人間に対する礼儀について描いた。人間に対する礼儀が失われたときにどんなことが起きるのかを描いた映画でもある。臭いは、その人の生きている環境や生活条件、労働条件を表すもの。映画の中では、意図せず臭いについての話を聞いてしまい、人間に対する礼儀が崩れ落ち、ある一線を越えてしまった状況が描かれている」と解説した。

◆ウイルスより恐ろしい「人種的な偏見」

「ポン監督とソンさんがコンビで取り組んだ映画『グエムル 漢江の怪物』ではウイルス感染がテーマとして描かれており、現在の東アジアでは(新型コロナウイルスによって)似た状況が起きている。この状況をどうみるか?」との質問に対し、ポン監督は「映画の中ではウイルスはなかったという結論になる。最近の状況は浦沢直樹さんの『20世紀少年』などを思わせる」と指摘。その上で「現実と創造物が相互に侵入し合うのは、自然な流れだと思うが、医学的、生物学な恐怖より、人が作り出す心理的な恐怖のほうが大きいと感じる。そうした心理的恐怖に飲み込まれると、災害を克服することが難しくなる。今は映画とは違う状況で、実際にウイルスが存在している。過度に反応したり、人種的な偏見を加えたりすると、もっと恐ろしいことが起きる。私たちはこの事態を乗り越えられると希望を持ちたい」と強調した。

映画「パラサイト」は全員失業中の貧しい一家とIT企業を経営する裕福な社長一家という対照的な2つの家族の出会いから、驚きの展開へと加速していく物語がスリリングに描かれている。

アカデミー賞は世界で最も有名な映画の祭典だが、受賞するには米国内でヒットすることも大事な要素になるとみられる。やはり格差社会を描いた「万引き家族」(是枝裕和監督)は、パラサイトと同じくカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールに輝き、19年のアカデミー賞で外国語映画賞にノミネートされたが受賞に至らず。北米での興行収入は330万ドルで、「パラサイト」の10分の1以下だった。

日本でも1月10日の公開直後から盛況で、これまでに観客数220万人を超え、興行収入は30億円を突破。日本における韓国映画の歴代興行収入1位となった。

日本の貧困率は16%でOECD加盟34カ国のうち7番目に高い。韓国よりも高く、特に高齢の貧困者は700万人に達する。カンヌ映画祭のパルムドールを受賞した日本映画「万引き家族」に示した安倍政権の対応は冷淡だったが、韓国・文在寅政権は「アジア初の快挙で韓国の文化水準の高さを示した」と祝福。格差問題に取り組む両首脳の姿勢の違いが反映されたとみられている。(八牧浩行

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