<コラム>IT革命を想定した「中国製造2025」

海野恵一    2020年1月3日(金) 16時30分

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2049年に今のIT技術が人間の脳細胞を凌駕するシンギュラリティの時代が来ると言われています。中国政府は2025年に「中国製造2025」というAIに基づいた中国の発展の構図を公表しました。資料写真。

前回は一人の妻や夫を理解することは一生かかってもできないと言う話をしました。人間の心は複雑です。どんなに一人の人間を理解しようとしても、理解できないのです。人間の脳には一兆個のニューロンがあります。それが相互に連結しあって、情報をやり取りしているからです。そうした複雑な脳の働きに対してどのようなアクションをするのかを完璧に理解することは不可能です。今回はそうした人間の脳にチャレンジしようとしている中国政府の話をしようと思います。

2049年に今のIT技術が人間のこうした脳細胞を凌駕するというシンギュラリティの時代が来ると言われています。中国政府は2025年に「中国製造2025」というAIに基づいた中国の発展の構図を公表しました。彼らはこの2049年をターゲットにしています。ここで言うシンギュラリティと言う意味は2029年にコンピューターが人間の脳を超える年のことを意味します。AIがどんなに発展しようと人間の脳の動きをすべて把握することは不可能だと思いますが、これからの近い将来にとんでもないことが起こることは間違いないでしょう。

今、中国のHuaweiが世界のトップを切って5Gの開発に先行しています。10分の動画のダウンロードが6秒になってしまうのが今年から始まります。アメリカではありません。中国です。さらに、いま世界はIT革命のさなかにあります。その先導がIOT、深層学習、量子コンピューターです。この分野では今まではアメリカが先行してきたのですが、中国が先程の「中国製造2025」によって国家を上げて、この情報革命に取り組んでいます。

ここ数年脚光を浴びてきた自動運転もグーグルのWaymoが先行していたのですが、人工知能はまだ、偶発的な事象に対応できず、アリゾナで、人身事故を起こしてしまいました。そのため無人運転の導入が棚上げになってしまいました。ところがです。中国政府はそうした自動運転技術を国家レベルで導入することを決めました。

どのようにしたのかといいますと、道路に専用のレーンを設けて、人が侵入できないようにし、仮に人が侵入してきて事故が起こっても、免責できるという法律を作る事にしたようです。我々、民主主義社会ではそうした法律はできません。ですから、中国では自動運転によるタクシー、バス、トラック輸送はここ数年のうちに、全中国に普及するでしょう。

そうなると、とんでもない生産性の向上が期待できそうです。さらに、量子コンピューターによって、こうした物流の最適化が可能になりました。IOTのための情報を入手するチップは中国では果てしなく安くなっていくでしょう。そうなるととんでもないデータが溢れ出てきます。

ところが問題があります。中国では孫子の兵法に書いてありますように、人を騙すことには昔から長けているのです。ですから、如何にブロックチェーンでデータが操作できないように、防備しても、かならず、破られてしまうでしょう。トラックの高速道路の正規の領収書が闇で出回ってしまうような国家ですから、何が正しいのかを操作することは得意です。

ですが、そうした時代が今、目先に来ています。AIすなわち、深層学習が未来の事象を予測すると日本では大いに期待し、実際にそうしたシステムが実装されてきています。だが中国が本格的にこうした領域に参入してくるとどうなることになるのでしょうか。中国は日本人のように真面目正直な世界ではありません。魑魅魍魎の世界です。そうした中国が国家を上げていまIT革命に取り組んでいます。こうしたIT革命がどのように進展していくのか数年先すら全く読むことができないのが今の状況ではないでしょうか。

■筆者プロフィール:海野恵一

1948年生まれ。東京大学経済学部卒業後、アーサー・アンダーセン(現・アクセンチュア)入社。以来30年にわたり、ITシステム導入や海外展開による組織変革の手法について日本企業にコンサルティングを行う。アクセンチュアの代表取締役を経て、2004年、スウィングバイ株式会社を設立し代表取締役に就任。2004年に森田明彦元毎日新聞論説委員長、佐藤元中国大使、宮崎勇元経済企画庁長官と一緒に「天津日中大学院」の理事に就任。この大学院は人材育成を通じて日中の相互理解を深めることを目的に、日中が初めて共同で設立した大学院である。2007年、大連市星海友誼賞受賞。現在はグローバルリーダー育成のために、海野塾を主宰し、英語で、世界の政治、経済、外交、軍事を教えている。海外事業展開支援も行っている。

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