中国地方政府・企業が「熱烈!対日ラブコール」=米中貿易戦争は大統領選控え休戦か

八牧浩行    2019年11月5日(火) 7時0分

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米大統領選を1年後に控え、米中貿易戦争の激化は回避の方向だが、「部分合意」にとどまり、構造問題は棚上げされた。一方で中国の地方政府や企業が日本との連携に活路を見いだす動きが活発化、需要減少に悩む日本企業・団体も積極的に呼応している。写真は蘇州市交流会。

米中両国は10月中旬の閣僚級会議で中国が米国産農産品の輸入を拡大する一方、米国が制裁関税の引き上げを見送ることで合意した。米大統領選を1年後に控え関税合戦の激化は回避の方向だが、実態は「部分合意」にとどまり、構造問題は棚上げされた。一方で中国の地方政府や企業が日本との連携に活路を見いだす動きが活発化、需要減少に悩む日本企業・団体も積極的に呼応している。

「中国による農畜産品の購入は過去最大だ。米国の農家はすぐに大きなトラクターを手に入れた方がいいぞ」。トランプ氏は10月の米中閣僚協議最終日に、中国の劉鶴副首相とライトハイザー米通商代表部(USTR)代表らをホワイトハウスに招き、合意内容を上機嫌で記者団に説明した。

舞い上がるトランプ氏と対照的に中国は冷静だ。中国側の声明は「農業などで実質的な進展があった」と素っ気なかった。中国には制裁回避で合意しながら、トランプ氏がちゃぶ台返しをした数次の苦い記憶が甦る。

米国は中国が400億~500億ドル分の米農産品を購入すると明らかにした。これは過去最高だった2010年(260億ドル)を大きく上回る。米国側が主張する規模の対中輸出が実現すれば、苦境に立たされている米農家が息を吹き返す。

中国も豚肉などが高騰し、安い米国の農畜産品の輸入拡大は「渡りに船」の面もあるが、中国が農産品を大規模に買い付けるかは不透明。「焦らし作戦」と冷ややかに見る向きもある。

米中「部分合意」の背景となったのは、景気失速という両国共通の懸念だ。米国は製造業の景況感指数が10年ぶりの水準に悪化した。設備投資や輸出もマイナス基調が続く。国際通貨基金(IMF)によると、中国の成長率見通しは、19年が6.1%に下方修正。18年の6.6%から0.5%減速する。米国も、19年の成長率見通しは2.4%と18年の2.9%成長から0.5%も減速してしまう。

トランプ氏は今後構造問題にも切り込むと豪語するが、中国は産業補助金や国有企業での譲歩には慎重で、難航は必至だ。米大統領選を1年後に控えるトランプ氏は、主要票田の製造業や農民の支持をつなぎ留めなければならない。同氏にとっては、陰りが見え始めた米景気と不安定な株価の先行きが最大の不安要因。「貿易戦争の終結は間近だ」と吹聴するが、米中問題は世界経済の最大のリスクのまま。昨年と同様年末にかけて市場が混乱するシナリオも否定できない。

世界の市場にとって最大の懸念材料は米国が12月15日の発動を予告している対中制裁関税「第4弾」の扱い。11月中旬にチリで開催される予定だったアジア太平洋経済協力会議(APEC)でトランプ大統領と習主席による米中首脳会談で部分合意の締結と追加関税の見送りが発表されるとの期待が高まっていた。チリでのAPEC会議は中止となったが、別の日程で首脳会談が開催され、「部分合意」と「第4弾の見送り」が決定される見通しだ。

◆中国地方政府・企業、相次ぎ訪日ミッション

こうした中、中国の地方政府や企業が日本企業に投資や進出などを求め猛烈な「ラブコール」を発している。米国との貿易戦争が経済に悪影響を及ぼす中、日本との連携に活路を見いだそうとしているとの見方が有力だ。

日本の物産品を専門に展示販売する施設の開業が中国各地で相次いだほか、江蘇省、吉林省、安徽省、四川省など各省や中小都市の幹部が地元企業のトップを引き連れて来日する「日本詣で」がブーム化。日本での投資誘致のための説明会は前年の数倍規模に達する。

地方政府や企業が日本に秋波を送るのは中央政府の支持があるためとみられる。日米関係が大きく改善し、来春には習近平主席が国賓として来日する予定であることも促進材料となっている。

日本企業にとっても人口減少と景気低迷の中で最大の消費市場・中国の魅力は大きく、「歓迎されている今がチャンス」と見て、新規事業などにも積極的だ。

8月には中国・江蘇省蘇州市呉江区盛澤投資交流会(日中経済文化促進会など主催)が都内のホテルで開催された。企業経営者、団体トップら訪日代表団約50人が、盛澤地区について説明、日本の企業・団体幹部ら約150人と意見交換した。 訪日代表団長の同地区人民政府副議長の宗亮氏が中国側を代表して挨拶し、「中国は産業のモデルチェンジ途上。盛澤地区は技術革新の国家戦略モデル地区として指定された」と説明、日本企業の投資や進出を期待した。

くすぶる米中関係をしり目に、日中経済界が急接近していることを実感するケースが増えている。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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